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処刑された公爵令嬢は竜となって蘇る(※復讐は竜をも狂わせます)  作者: ゆうらり薄暮


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1 処刑された公爵令嬢




「罪状、王太子暗殺未遂および王家への反逆。よって――ヴィーラ・ド・ラ・リュミエールを斬首刑に処す」


 その声は、よく通る声だった。

 王国司法長官のあまりにも整いすぎた声。

 感情も迷いも一切混ざらない、ただ“決定事項”を読み上げるためだけの声だった。


 わたくしは処刑台の上に立っていた。

 両手首には冷たい鉄の枷。

 足元には、乾ききった木の感触。

 朝の風が首筋を撫でていく。

 ひどく現実的でどうしようもなく穏やかな感触だった。


 空は、やけに青かった。


 ……あぁ。


 今日、わたくしは死ぬのだ。


 わたくしはヴィーラ。

 ヴィーラ・ド・ラ・リュミエール。

 リュミエール公爵家の長女であり、フランク王国王太子殿下アンリ・ド・ラ・フランクの婚約者だった。

 ――だった、というのは、昨日までの話だ。


 王太子暗殺未遂。

 それがわたくしに突きつけられた罪だった。


 形式的な裁判で証拠とされた毒薬は、確かにわたくしの私室から出てきた。

 でもわたくしはそんなものを持っていない。

 証人とされた侍女は、一度も目を合わせなかった。

 そしてわたくしが口を開くたび、裁判長は木槌を打った。


「静粛に。被告人の発言はこれ以上不要です」


 不要。

 その一言で、わたくしの人生は片づけられた。


 傍聴席の最前列に、父がいた。

 リュミエール公爵。

 この国でも五本の指に入る大貴族。

 それでも、何もできなかった。

 彼の周囲には衛兵が立ち、一言一句はすべて記録され、すべて王太子側に握られていた。


 父は、わたくしを見ていた。

 唇がわずかに動く。


 ――すまない。


 わたくしは、小さく首を振った。

 

 お父様のせいじゃない。

 

 それだけは、はっきり分かっていた。

 むしろ、ここまで追い詰められてなお、わたくしを見捨てなかった父の存在が胸に刺さるほど苦しかった。


 そしてわたくしは、彼を見た。


 アンリ・ド・ラ・フランク。

 フランク王国王太子。

 赤い髪。

 赤い瞳。

 王族の血を誇るその色は、かつてわたくしにとって“特別な色”だった。

 彼は、裁判席の最前に立っていた。

 その半歩後ろに次期王妃候補の少女が控えている。


 桃色の髪。

 伏し目がちでか弱そうな微笑み。

 ……わたくしの元親友。


 あぁ、そういうことだったのね。


 喉の奥がひどく乾いた。


 アンリは、わたくしを見なかった。

 もう五年も連れ添った婚約者だったというのに。

 ただ一度も。

 彼の視線は、常に少しだけ右を向いていた。

 ――隣にいる彼女の方を。


 思い出す。


「君は強すぎるよ、ヴィーラ」


 婚約が決まった頃、彼はそう言って笑った。


「もっと僕を頼っていいんだ」


 わたくしは、嬉しかった。

 強いと言われることも、頼れと言われることも、すべてが愛情だと思っていた。

 ……馬鹿だった。


「最後に、何か言い残すことはあるか」


 裁判長が形式的に尋ねた。

 わたくしは、ゆっくり顔を上げた。

 民衆が見える。

 好奇。

 嫌悪。

 興奮。

 処刑という娯楽を見に来た顔だ。


 わたくしは、静かに言った。


「……わたくしは、無実です」


 その瞬間、ざわめきが起き、木槌が鳴った。


「静粛に」


 わたくしは、もう一度だけアンリを見た。


 彼はわたくしと目が合った瞬間、わずかに笑った。


 その瞬間、胸の奥が焼けるように熱くなった。

 

 ……なに、これ


 怒り?

 違う。

 悲しみ?

 それだけじゃない。


 恐怖。

 懐かしさ。

 恥辱。


 ぐちゃぐちゃに混ざった感情が心臓を締めつけた。

 首の後ろが異様に熱い。

 まるでそこだけ火に近づけられているみたいに。

 息を吸おうとして、できなかった。



 形式的な裁判の翌日にはわたくしは民衆の前に引き摺り出された。

 処刑台の上で日光に反射した刃がただただ恐ろしい。

 あれがわたくしの命を奪う代物なのだ。


「では、執行せよ」


 その声ですべてが終わる。


 わたくしは、膝をつかされた。

 髪を引かれ、首を台に固定される。

 木の匂い。

 血の匂い。

 ……いや。

 焦げた匂いが混じっている。


 ……変だ


 視界の端で空がわずかに歪んだ。

 まるで熱で揺らぐ空気みたいに。

 その時、誰かの声が聞こえた気がした。


「……やっぱり似ている」


 とても低くて、とても遠い声。


 刃が落ちた。


 痛みは、なかった。

 代わりに、胸の奥がひどく静かになった。


 ……あぁ


 死ぬんだ。


 でも、暗闇は来なかった。


 わたくしは、落ちていない。

 溶けている。

 何かに引き寄せられている。

 誰かに抱き留められているような感覚。


「……来い」


 低い声。

 今度は、はっきり聞こえた。


 ……だれ?


 答える口は、もうない。


 わたくしは、光の粒になって――


 ◇


 ――忘れない。

 あの笑みも、あの桃色の髪も。

 そして、わたくしを「不要」と切り捨てた、すべてを。

 わたくしが終わるまで。


※完結まで毎日投稿です。

本日のみ1日3話投稿、1話目。

よろしくお願い致します。

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