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魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜  作者: 海神 アリア
第3章 聖なる乙女の光と闇

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第3章11話 『お帰りなさいませ』と『いってらっしゃいませ』

【前回のあらすじ】

・沙織お姉ちゃんブチギレ

・沙織お姉ちゃん大暴れ

・沙織お姉ちゃん、天使の元へ人々を導く

・聖ちゃんのお姉ちゃん、『白百合 彩月』さん登場


この様に、前回は濃厚なお姉ちゃん回でしたが、今回はちょっとした『溜め』の回です。前回と比較するとあっさり目かもしれませんが、何卒お付き合いください。

 ◆◆◆

(雨海 沙織視点)


「ただいまー♪沙織お姉ちゃん、帰って来ましたよー♪」


『お仕事』を終えた私は、荷物を取りに憩いの喫茶店へ戻って来た。ああ、聞こえる……お姉ちゃんを出迎える、可愛い妹達の声が……。


「遅い!何処まで行ってたの、お姉ちゃん!?」


 おうふ、早速愛らしいメイドさんからのお叱りとは、中々にサービスの行き届いた喫茶店じゃないの。


「いやー、ごめん、ごめん。ちょーっと、お財布忘れたお客さんを追い掛けるのに時間かかっちゃってさ」


「いやいや、すぐ追いかけていたじゃん!?お姉ちゃんの足ならすぐ追いつけるし、こんな時間かかる事はないでしょ!」


 流石我が妹、とても鋭い指摘だ。さて、何と言い訳をしたものか……。と考えていると、蒼蘭ちゃんの元へギャル系メイドの炎華ちゃんがやって来た。


「ちょい、ちょい。セーラ、落ち着きなって」


「炎華……」


「セーラがさおりん姉の事をずっと心配していたのは分かるけどさ、今のあーし達は『メイドさん』よ。なら、帰ってきたお嬢様を温かくお迎えしなきゃ」


 そう言うと、炎華ちゃんは私にお絞りとスポーツドリンクを届けてくれた。


「お帰りなさいませ、さおりんお嬢様。暑い中、お越し頂きありがとうございます♪」


「おぉ……ありがとね、炎華ちゃん」


 流石、実家が食堂なだけはある。炎華ちゃん、お料理も接客も(こな)せる『しごできギャルメイド』だったとは、お姉ちゃんは思わず感心しちゃった。お絞りで汗を拭いて、コップに注がれたスポーツドリンクを喉に流し込む。塩分を消費した身体には、水よりも効果的だ。もしや彼女、運動部のマネージャー経験もあるのだろうか?


「沙織さん……じゃなくて、沙織お嬢様。ここに来るまで、お怪我は有りませんでしたか?もし治癒魔法が必要なら、私にお申し付けください!」


 今度は聖ちゃんが、私に声をかけてくれた。


「ううん、身体は何ともないから、安心して。沙織お姉ちゃんの身体は丈夫だから、心配要らないわ」


 そう答えながらも、内心密かに後悔した。よもや、『メイドさんの回復魔法サービス』を受ける機会をみすみす逃してしまうとは……我ながら勿体無い事をした。もうちょっと手加減して『伏魔殿』とかいう連中と戦えば良かったかな?


(……ああ、もう!)


 そんな事を考えていると、いきなり蒼蘭ちゃんは小声で呟き、両手で彼女自身の頬を叩いた。


「蒼蘭ちゃん!?」


 妹の行動には、流石に少し驚いた。


「ううん、何でもないよ、お姉ちゃ……お嬢様。改めて、お帰りなさいませ。立ち話も何ですので、お席までご案内致します」


 そう言うと、蒼蘭ちゃんは私を空いている席まで連れて行ってくれた。その後、彼女はキッチンからバニラアイスを持って来た。


「先程は大変失礼致しました、お嬢様。こちら、他のお客様のお財布を届けてくださったお礼と、お詫びとしてお召し上がりくださいな」


「蒼蘭ちゃん……!」


 妹メイドからの素敵なサービスを前に、沙織お姉ちゃんの疲れは跡形も無く消え去った。暑い帰り道で熱った身体は、スポーツドリンクとアイスクリームでひんやりと冷やされていく。あぁ、心が癒されていく。私は、こんなに優しくて素敵なメイドさん達を守る事が出来たのだ。頑張った甲斐が有りまくりである。


「蒼蘭ちゃん、アイス美味しかったよ!お姉ちゃんお嬢様は蒼蘭ちゃんの事、だーい好きだからね♪」


 感極まったお姉ちゃんは、気持ちを抑えきれずに看板メイドちゃんに抱きついた。いや、抱きつこうとした。そうしたら、身体に手拭いの様な布が巻き付いて、姉妹の触れ合いを阻んできたのだ。


「お客様、スタッフへの過度な接触はご遠慮願います」


 布には刺繍でルーン文字が刻まれており、物理的にも魔法的にも身体を拘束している。そして、このアイテムの持ち主は、仮面の店主にして『ルーン魔術の使い手』であるステラだった。


「ぐぬぬ……何のこれしき、お姉ちゃんの愛はこんな布では止められないわ!」


「いや、止まれよ!メイド喫茶で店員に抱きつくのは御法度でしょうが!?」


 蒼蘭ちゃんからお叱りを受けてしまい、流石に大人しくせざるを得なくなった。


「ごめんね、蒼蘭ちゃんがお姉ちゃんの事、心配してくれたり労ってくれたのが嬉しくって、可愛い妹ちゃんの愛情が心に沁みちゃって、つい……」


「『愛情』って、そんな大袈裟な……そ、それに、お姉ちゃんの事、そこまで心配していた訳じゃないし?」


「いや、流石にそんな事はないっしょ、セーラ?」


「うん。沙織さんに中々電話が繋がらなくて、蒼蘭ちゃんソワソワしてたよね?」


「…………まぁ、はい……」


 蒼蘭ちゃんは少し目線を逸らしながら、お友達の言葉に頷いている。


「そっか……ごめんね、心配かけちゃって」


 妹の表情を見て、お姉ちゃんは反省した。蒼蘭ちゃんがどのくらい心配していたか、よく分かったからだ。そして、『ちょっと怪我して帰って来た方が……』なんて考えは不謹慎だった。可愛い妹に余計な心配をかけない為にも、やっぱり無傷で戻って来れて正解だった。聖ちゃんの回復サービスはもっと平和的な場面で、紙で指とか切った時にして貰うのが良いだろう。勿論、不定期で営業されるメイド喫茶が、また行われる機会があるのなら、だけど。


「あ、それはそうと、預かっていたケース、持ってくるからさっさと受け取って。こんな大金、置いていかれると不安で気が散るから」


「あ、はい」


 蒼蘭ちゃんは店の奥に引っ込むと、ガムテープでぐるぐる巻きに封印されたジュラルミンケースを運んでくれた。成程、テープの剥がし跡や切り跡の有無で、お金が盗まれたか否かを確認しろって事ね。原始的だけど、意外とバカに出来ない工夫だ。流石はしず君、賢い妹だ。まぁ、このケースも魔術道具だから防犯はバッチリなんだけど、それは妹の発想や心遣いを否定する理由にはならない。


「ねぇ、瑠璃海ちゃん。お姉さんも戻って来たし、約束通り雷葉とチェキ撮ってよ」


「そ、そうでした!お待たせしまい、申し訳ありません、雷葉お嬢様!」


 A組の学友、雷葉ちゃんにせがまれて、蒼蘭ちゃんは一瞬で『メイドさんモード』に切り替わる。


「あっ!そうだよ、チェキ!蒼蘭ちゃん、お姉ちゃんともチェキ撮影して!」


「申し訳ありませんが、『順番にご対応致しますので』しばらくお待ちくださいませ、お嬢様」


 うぅ……この淡々としたリアクション……『メイドさんの塩対応サービス』まで付いてくるとは!やっぱりこの喫茶店最高!星5個評価付けたくなっちゃう!勿論、沙織お姉ちゃんのイチ押しメイドは蒼蘭ちゃんと茜ちゃん、です!


 ◆◆◆

(蒼蘭ちゃん視点)


 雷葉とのツーショットを終えて、彼女は無事にメイドさんのコンプリートを成し遂げた。普段眠そうな雷葉の顔が、ホクホクとした感じの表情になっている辺り、よほどコンプリートの達成が嬉しかったのだろう。今まで撮ったチェキをテーブルに並べ、雷葉は戦利品を満ち足りた表情で眺めていた。正直に言うと、『自分の写真を気に入られる』というのは満更でもない。いや、もっと正直に言うと、嬉しい。自分の容姿に好印象を持って貰えた……のもあるが、私の場合は『ちゃんと可愛いメイドさんを演じられた』と実感できる事が、物凄く嬉しい。日々鏡の前で可愛い女の子の、色々なシチュエーションを演じた成果を発揮できる機会が訪れたのだ。私が積み重ねて来た事は、決して無駄でも自己満足でも自画自賛でも無かった訳である。故に、とても心が満たされる。


「ねぇ、最後は炎華ちゃんと聖ちゃんも合わせて、3人のメイドさんと一緒に撮りたい!蒼蘭ちゃん、お願いしまーす!」


 心が満たされた私は、沙織お姉ちゃん(なりきんまほうつかい)のオーダーにも、ため息一つ溢さず応対できる。仮にこの僅かな時間で姉貴と撮ったチェキの数が、これで二桁の大台に乗るとしても、だ。


(セーラ、めっちゃ人気じゃん。チェキだけで幾ら稼ぐつもりよ?)


(いや、お姉ちゃんが例外な(おかしい)だけだからね!?普通、チェキって2〜3枚が精々だよね!?)


 炎華が小声で揶揄って来たので、私も小声でツッコミを返した。


(まぁ、このお店ってチェキの上限決まって無かったし……それに、蒼蘭ちゃんがお姉ちゃんに可愛がられているのは事実な訳でしょ?それは、とても素敵な事だと思うよ?)


(そうかなぁ……そうなるのかなぁ?)


 少なくとも、友達の前で厄介客寸前の奇行を晒すのは、褒められた行為ではない気がするが?そこの所はどう思うよ、聖?


(うん。お姉ちゃんと……家族と仲が良いのは、素敵な事だよ。それは、絶対にそうだから)


 聖の表情が一瞬、真剣な物になった。


「はーい!それでは、撮影いきますよー!」


 カメラマンを買って出たツバメさんの明るい声色で、私達は『魔女の家のメイドさん』に戻り、ご指名を受けたバイト仲間2名にも負けないくらいの笑顔で写真を撮った。


「三人共、ありがとう!お姉ちゃん、大満足です!」


 現像された写真を受け取って、漸くお嬢様の気が済んだ様だ。私は、ホッとひと息をついた。


「さて、と……それじゃ、アタシらは帰るとするか」


 私達の仕事が一区切り付いた丁度良いタイミングで、1年A組のお嬢様方もお帰りになる様だ。既に私が姉貴との撮影している間に、殆どのお嬢様が出発されている。彼女らが店を去れば、残るお客は姉貴だけだ。他に客も居ない故に、店を出る彼女達と少し話をする。


「今日は来てくれて、ありがとうね」


「礼なんて良いって。それに、最近はライブの客が悪魔ばっかだったからな。アタシもいい感じの発散とインスピレーションの吸収が出来て、大満足さ」


「雷葉もリフレッシュ出来た。戦闘後のスタミナ回復、バッドステータスの解除完了」


「……ここはRPGの宿屋じゃないよ?」


 ゲーマー的な言い回しをする雷葉に、思わず私はツッコミを入れる。


「言ってみただけ。要所要所の精神的回復、モチベーションの維持は大事」


 まぁ、それは否定しない。それはさておき、彼女達には聞かねばならない事がある。


「ところで、皆は大丈夫なの?ここ数日、悪魔討伐に行ってる訳だけど、怪我とかは平気?呪われたりしてない?」


 幾ら彼女達A組メンバーが強いからと言って、相手は悪魔、それも異世界からの産地直送だ。記録映像を見る限り、悪魔達はかなり手強い。中には、ポーション工場の倉庫で戦った『ドリアード・マザー』レベルの強敵も居た。決してアディラ達の実力を疑う訳ではないが、見知った仲の学友が危険な目に遭っていないか、少しだけ心配だったのだ。


「はぁ?私達がそんな軟弱な魔女に見えるのかしら?第一、こうしてお茶をしに来ている以上、健康体に決まっているじゃない?貴女は()()()()()()()()()()()()()、ここで愛想を振り撒いていれば良いのよ、セイラ」


 大方の予想通り、正真正銘のお嬢様からはいつも通り高飛車なお言葉を頂いた。


「ナヴァラトナさん、瑠璃海さんは私達の事を心配してくれているのですよ?」


「それが余計な心配だって言っているのよ、キリカ」


 副会長が嗜めるも、アディラお嬢様は素っ気ない。


「まぁ、アディラも菊梨花も活躍してるの知っているし、余計な心配なのは承知の上で聞いてみただけ」


「ふん。私達に気を回すくらいなら、貴女の従姉妹……リリアの事を気にかけなさいな」


 そう言うと、アディラ嬢はビシッと私を指さした。


「良い事?あの子を危険な目に遭わせる事だけは絶対に避けなさい!」


「そりゃ、勿論……リリアなら元気だし、アディラがそこまで心配しなくて大丈夫よ」


『だって貴女の目の前にいる訳だし』とは、流石に言えなかった。


「なら良いわ。今のご時世、リリアみたいな可愛げのある魔女の卵こそ重宝すべきなのよ。シスター14が連れて来た子供達も、魔法への興味を深めて大いに学んで欲しいものね」


 こうした子供に優しい所は、紛う事なきアディラ嬢の美点だ。或いは財閥の娘と言う立場故に、将来を支える人材を重視しているのだろうか?どちらにせよ、子供達を思う彼女の気持ちは立派なものだ。


「では改めて、私達はお(いとま)します。また明日、学園で会いましょう」


 菊梨花が挨拶を締め括り、A組メンバーは会計を済ませて店を出た。


「いってらっしゃいませ、お嬢様方!」


 私達はA組のお嬢様方を笑顔で送り出す。このメイドさんの挨拶も、流石に最終日となれば多少はモノに出来たと思う。


「お姉ちゃんも、そろそろ帰るの?」


「んー……本当はもっと蒼蘭ちゃんからお持てなしをされたい所だけど……。この喫茶店、最終日の今日は閉店が早いんでしょ?それにこの後、蒼蘭ちゃんには『任務』があるもんね。うん、名残惜しいけど、そろそろお姉ちゃんも帰ります」


「いや、ちょっとだけ待って。私、お姉ちゃんと話したい事があるの。10分だけ時間を頂戴」


 ◆◆◆

 私は姉貴を店の奥に連れて行き、声のボリュームを下げて話をする。


「何、お姉ちゃんと話したい事って?」


「どうしても、確かめたい事があるの」


「あー……もしかして、帰りが遅くなった理由?でも、お姉ちゃんは本当に何とも無いから、しず君は何も心配しなくて平気だから」


「それはもう深掘りしない。お姉ちゃんにだって、素直に答えたくない事の一つや二つ、あるだろうし。でもね……」


 私は深呼吸した後に、思い切って本題に入る。


「これだけは絶対に正直に答えて。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 私は姉貴の瞳を見つめながら問いかけた。心なしか、姉貴の表情も少し真剣なものになっていた。


「ううん、会わなかったけど……?」


「本当?シスターの女の子に会ったり、襲われたりはしてないのね?」


「うん。そんな子、会わなかったし見かけもしなかったよ」


 姉貴はまっすぐ、私の目を見て答えている。多分、この回答は嘘ではない。


「そう……なら、良かった」


 聖女ショコラが白か黒かは未だ定かではないが、少なくともお姉ちゃんが襲われるという最悪の展開にはならなかった。私は少しだけ(強調)安心した。


「しず君、そのシスターについて詳しく聞かせて。しず君が気にするって事は、その子を警戒しているんでしょ?」


「あー……警戒しているっていうか、まだ完全に"黒"って決まった訳じゃないんだけどさ……」


 私はお姉ちゃんに、子供達を連れてやって来たシスターの事を話した。


 私が疑っている理由として、マギナさんの魔法を見破った事や予知に居なかった『未知数の存在』である事、それが『大賢者ラジエル』の差金によるものではないかと私が懸念している事を話した。


 一方で私が彼女を疑いきれない理由として、子供達に慕われている事や私達のお持てなしを子供達と一緒に楽しんでくれた事、そして自分の師匠について話す時の表情が『悪人』には見えなかった事を話した。


 我ながら優柔不断でどっちつかずな意見だが、悩んでいる事は洗いざらい話したつもりだ。そして情け無い話だが、私一人で悩んでいても解決しそうにない。だが、私の目の前には天才的頭脳を持つ研究者がいる。課外授業に続いて、結局姉貴の力を頼る事になるのは我ながら不甲斐ないが、今回は『悪魔騒動』、事が事だ。危険が及ばない範囲で、少しだけお姉ちゃんの知力を借りる。それだけでも確実に、事態の解決へ大きく前進するのだから。


「だからちょっとだけ、『姉貴の知恵を借りれないかな?』って思ったんだ。


 あれ?おーい……沙織お姉ちゃーん?」


 我が不肖の姉は、ものすっごい真剣に考えを巡らせている。入店時の煩悩が滲み出た表情とは真逆。両方の写真を撮って並べて別人だと嘘をついても、10人中3人程度なら騙せるのではなかろうか?


「念の為にさ、その『シスター14』って子が座ってた席に案内して」


「良いけど……何、指紋でも取るの?」


「まぁ、そんなところ。でも、そんなに心配しないで。あくまで()()()に調査するだけだから」


 姉貴に頼まれた私は、彼女らが居た席に案内する。悪魔を使役する強敵が相手だ。お姉ちゃんが念を入れるべきと判断したなら、多分それが正解なのだろう。


「皆、今日はもう閉店するって聞いたけど、この椅子とテーブルを借りても良いかしら?少しだけ、調べたい事があるの」


 姉貴の問いかけに、近くに居た聖が応える。


「はい、大丈夫です」


「ありがとう。それじゃ、ちょっと失礼して……」


 姉貴は自分の魔法で指をスライムに変化させると、椅子とテーブルの上へ徐に垂らした。粘液は少しの間ズルズルと這いずり回ると、目当ての場所を見つけたらしい。そこでモゾモゾと動いた後、満足したのか産みの親の掌へジャンプした。


「蒼蘭ちゃん……沙織さんは一体何を……?」


 聖が疑問に思うのも無理はない。私だって、刑事ドラマで見るような指紋採取を想像していたのだから。だが実際にお出しされたのは、まさかのスライムである。


「あ、驚かせちゃってごめんね、蒼蘭ちゃん、聖ちゃん。私、色々と研究の成果があって、こうして異世界由来の生き物も作り出せるようになったの。それで、このスライムを清掃用に使えないか、ちょっとだけ実験させて貰ったわ」


 姉貴は聖を不安にさせないよう、咄嗟に、だが上手く出来た嘘を並べたてる。


「な、なるほど……お掃除スライムですか。きっと、実用化できたら便利ですよね!」


「ええ、もし商品化できたら、聖ちゃんにもサンプルをお裾分けしてあげるから」


 聖の疑問が氷解したところで、私は一つ思い出した事があった。私はレジへ行き、ある物を手に取った。


「これ、使えるかもしれない」


 それは、聖女ショコラが去り際に残した『ガラス製の花束』だ。彼女が作り出した魔法、彼女が直に触れた花束の包装紙。ショコラの素性を調べるなら、これらは有効な手掛かりとなり得る筈だ。


「マギナさ……じゃなくて、ツバメさん。これ、お姉ちゃんに預けても良いですか?」


「そうね……確かに、こんなにも綺麗な『ガラスの魔法』って、とても珍しいわよね。花弁も、茎も繊細だわ。貴女のお姉さんに()()()()()()()()()()()()()


 私の心情をツバメさんは、上手い事話を合わせてくれた。そうだ、お姉ちゃんに調べて貰うのは、あくまでも『念の為』だ。だから『悪魔騒動の黒幕探しのため』にガラスの花束を預けて仕舞えば、それを見た聖や炎華を必要以上に不安にさせてしまうだろう。彼女が白ならそれに越した事はない。不必要な不安は、精神的にも良くないからな。


「ありがとう、蒼蘭ちゃん。研究結果が出たら、改めて連絡するわ」


 花束を受け取ったお姉ちゃんは、そのまま荷物をまとめて会計を済ませる。


「さて、これで沙織お姉ちゃんもやり残した事はないから、そろそろ帰るわね」


 お姉ちゃんは先程までの真剣な表情が嘘のように、とっても和かな笑みを浮かべて、私達『女子高生メイドさん』に別れの挨拶を切り出した。


「今日は色々とありがとうございました、沙織さん。お客様のお財布を届けてくれたお陰で、忙しい時間を乗り切れました」


「良いのよ、あれくらい。私は皆のお姉ちゃんなんだから、遠慮なく頼って頂戴!」


「またこういうお店を開く機会があったら、さおりん姉もお料理を食べに来てね!」


「勿論!皆のお願いなら、沙織お姉ちゃんはいつでも遊びに行くわ!」


 聖と炎華は順調に絆されてしまっている。いや勿論、一概に悪い事とは言えないし、姉貴は正真正銘の天才で頼りになる部分もある。それに彼女らは姉貴と課外授業で共闘した仲ではあるし、特に炎華は元々人懐っこい性格だから姉貴とフレンドリーに接していてもおかしくは無いのだが……。姉貴の本性を知っている身からすると、具体的には成り行きとは言え弟を妹に生まれ変わらせたり、自分の正体を隠して女の子になった弟に可愛い服や露出度の高いコスプレ衣装を差し入れたりしているような変態である事を知っている身からすると、凄い複雑な気分だ。


「それと、()()()()()。二人共頑張ってね、蒼蘭ちゃんに炎華ちゃん!」


 お姉ちゃんは私と炎華にエールを送った後、ガラスの花束を手に店を去った。


「いってらっしゃいませ、お嬢様!」


 私達は元気よく、最後のお嬢様を見送った。お姉ちゃんが退店する寸前、ツバメさんに何やら突き刺すような眼差しを送っていた様な気がするが……いや、流石に気のせいか。ツバメさんが姉貴に対して、何か気に障る様な事をしたとは思えないし。


 まぁ、何はともあれ、これで今日のお仕事は、そして期間限定のメイド喫茶のアルバイトは無事に完了した。私の予知通り、かなりの疲労感こそあるものの、異世界人からの襲撃もなく、平和的にメイドさん業務を完遂できた。


 さて……後は姉貴の言う通り、そして炎華との打ち合わせ通り、『あるイベント』を執り行うだけだ。

【ちょっとした補足】

沙織お姉ちゃんは、異世界の魔物の遺伝子を採取した事で、地球上の生き物だけでなくオークやスライムに身体を変化させる事が出来るようになりました。


さて、次回でメイド喫茶編は終了ですが、第3章は前半部分が終わるだけで、まだまだ続きます。次回は明日の土曜日か、明後日の日曜日更新の予定です!

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