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片翼の小鳥  作者: Atyatya


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第百三十八話 ボスとの戦い

 ――まずい。


 二十七階層に入ったが、まだ一度も戦闘に参加していない。


 いや、正確には彼らの連携が緻密すぎて僕の入り込む余地がないのだ。


 彼らの予備から新しい剣を貰ったのに、一度も振る機会に恵まれていない。


 僕は強くなるためにダンジョンに潜っているけど、知識の探究団は元から強い。


 わざわざ好んで戦闘を行う理由がないんだ。


 まあ、一部例外はいるみたいだけど……。


 効率を優先して攻略を進めなければ、疲れが溜まってしまうから理解はできる。


 できるのだが、何もしていないと焦りばかりが積もる。


 それに……僕と一緒にいては彼らは不幸になってしまう。


 命を落とすことだって――。


 やっぱり、彼らとは一緒にいけない。


 次戦闘が行われたら、バレないようにこっそりと抜け出して――。


「あ! スケルトンだ! シエル、行こう!!」


 強引に腕を引かれ、隊列なんて無視して行動するエルトラーナ。


 彼女が僕を連れ回す限り、常に衆目を集めてしまう。


 こんな状況で逃げるなんてできやしない。


 あ、これ、何処かでみたことあると思っていたが、昔孤児院で見た人形にそっくりだ。


 力の加減もわからないような小さな女の子が人形をあちこちに引き摺り回し、結果、人形の腕は取れてしまっていた。


 ぞぞぞっと、背筋が凍る。


 自分もその人形と同じ末路を辿るのではないかと、今更ながらに恐怖する。


 スケルトンたちを一瞬で薙ぎ払い、また隊列に戻る。


 僕は少しだけ泣きそうになりながらも逃げ出す隙を探しながら彼らについていった。


***


 ――三十階層のボス部屋。


 結局逃げ出すことは叶わず、彼らの最終目的地にまで辿り着いてしまった。


「皆さん、気を引き締めてください。」


 エルフの男、エフォードが呼びかけると、空気がピリつく。


 真っ暗だったその部屋に一つひとつ明かりが灯る。


 部屋の全体が見渡せるほどの光量が確保されると、その中心に標的であるボスが確認できた。


「でかい……。」


「ミノ、タウロス?」


 誰かが漏らしたその言葉を皮切りに六メートルはあるその巨体が動き始める。


 普通のミノタウロスは人の体に牛の頭を持った魔獣だ。


 大きさも二メートルほどであり、ここまで大きくはない。


 それに、異常なのは大きさだけではない。


 本来ひとつであるはずの頭が三つ付いていて、体からは六本の腕が生えている。


 外側の腕から順に両刃の斧、棍棒と武器を持っており、一番内側の腕は何も持っていない。


「あの一振りを喰らえば確実に死にますね。皆さん、気をつけてください。」


 エフォードが改めて注意を促していると、ミノタウロスは体を前傾にさせ、内側の両手を地面につける。


 目線はこちらにやり、ぐっと重心を前にかけている。


「っ!! まずい!! 全員退避!!!」


 男が声を上げた直後、その巨体からは想像することのできないほどの速度で駆け出すミノタウロス。


 その頭についている大きく鋭い角が瞬く間に接近する。


「ブォォォオオ!!!」


 大地を揺るがすほどの雄叫びと共に攻撃を仕掛けてきた魔獣を前に動けた者が何人いただろう。


 少なくとも、僕の足は動かなかったし、目の前にいる団員たちも数名が立ち竦んでしまっている。


 このままだとまた、目の前で人が死んでしまう――。


 そう思った瞬間、視界の端に自分の左腕が映り込む。


 全く意識していなかったが、条件反射で動いていたのだろう。


 そのまま僕はいつものように盾を生成する。


 ガィィィィンと盾とミノタウロスの頭蓋が接触した音が響く。


 突然の出来事に怯んだミノタウロスの隙をついて、立ち止まっていた団員たちが一斉に動き出す。


 左右それぞれに散った僕たちは体勢を立て直し、ミノタウロスを見据える。


「今のって……。シエルは神聖術師だったんだ。」


「助かりましたよ。」


 フォルテシアとエフォードが僕の近くでそう言う。


 エルトラーナは見当たらないから、向こう側に逃げたのだろう。


「団長、どう戦う? あの巨大だ、動きの鈍い奴が行っても的になるだけ、動きの早い奴が行っても決定打にはならないぜ?」


 大柄な女、オルテナがエフォードに作戦を求める。


「それなら、動きが早くて決定打を叩き込める者を中心に他がサポートですね。オルテナ、エルトラーナと一緒に行ってもらえますか?」


「へっ、そう来なくっちゃな。」


 棘のあるメリケンサックを擦り合わせ、強気に笑うオルテナ。


「副団長ぉ!!! ご指名だぁぁぁ!!!」


「まっかせてぇ!!!!」


 大声で意思疎通を図った彼女たちは恐れることなく、魔獣に向かって走り出す。


「他のものは各自得意な距離で注意を引いてくださいっ! 決して無理はしないように!」


「「「「「了解っ!!」」」」」


 全員へ指示を出し終えたエフォードは弓を構え始める。


 フォルテシアも鞭を手に魔獣へと近づく。


 得意な距離、それなら僕は近距離に行かなければ。


「ブオオオオ!!」


 先陣を切って走り込んだ二人へ内側の腕が横から迫る。


 エルトラーナはそれを高く飛び上がることで回避し、オルテナは殴りつけることでことなきを得る。


「おらおら、こんなもんかいっ?!」


 この団は本当に知識を求める者たちの集いなのだろうか……。


 ただの戦闘狂の集まりにしか見えなくなってきた。


 団の者たちが順次攻撃を仕掛けてはみるものの、やはり決定打にはなり得ない。


 熱い皮膚と筋肉が邪魔をして弓や短剣の攻撃、魔術すらもダメージになっていない。


 それでも確かに気は散っているようで、エルトラーナとオルテナの二人以外にも攻撃が向かっている。


「ブオォォォォオオオ!!!」


 イライラが頂点にでも達したのか、大きな声を上げたかと思うと、右腕の斧を力強く何度も地面に打ち付け始める。


 その度に瓦礫が飛び、悲鳴が上がる。


 幸いなことに攻撃が直撃した人はいなかったが、瓦礫の下敷きになる人が続出している。


 そこに追撃を仕掛けようと棍棒を振り上げるミノタウロス。


 先ほどのように乱雑な叩きつけを行われてしまうと僕の盾では防ぎきれない。


「てやぁ!!」


 どうするかを考えていると、エルトラーナの声が聞こえてきた。


 そちらへ目を向けると、ミノタウロスの頭上からハンマーを叩きつけようとしている彼女の姿が目に入った。


 魔獣の意識は追撃から防御へと移り変わり、左腕の斧を使って彼女の攻撃を受け止める。


 甲高い音が耳をつんざくと共に大きく弾き飛ばされるエルトラーナ。


「うわぁぁぁ!!」


「何やってんだ、副団長! オラァ!!」


 宙を舞うエルトラーナに呆れながらもミノタウロスの脚に力いっぱい拳を叩きつけるオルテナ。


「ブオッ!」


 拳を喰らった脚は後ろへと跳ね、ミノタウロスの体勢が崩れる。


 突如として僕の目の前に魔獣の頭が降りてくる。


「ちょうどいい! シエル、やってやれ!!」


 オルテナからの声に従い、僕はミノタウロスの右目に剣を突き立てる。


「ブオォォォォオオオッ!!」


 体を起こすためにまず首を上げようとするミノタウロスだったが、突如として巻き付いた鞭がそれを許さない。


「逃がさない。」


 体勢が整っていないとはいえ、たった一人でミノタウロスの怪力とやり合うなんて……。


「よくやった、あとは任せな!!」


 と、驚いていると、走ってきていたオルテナが退くように言ってくる。


 指示に従い、剣を抜き飛び退く。


 すると、勢いそのままに渾身の一撃を右目に叩き込むオルテナ。


 大量の血が吹き出し、確実に目が潰れたことがわかる。


「喰らえぇ、こっちもー!!」


 すぐに前線へと戻ってきたエルトラーナが左目に向かってハンマーを振り下ろす。


「オオオオオオオオッッッ!!!!」


 が、その攻撃が届く前に、鞭が斧で切断された。


 体勢をすぐに立て直したミノタウロスが左腕で彼女を捕まえる。


「うわっ! ……うぐっ。」


 左腕に力を込め始めるミノタウロス。


 握られている少女は苦しそうに表情を歪めながら、口から血を流している。


「お姉ちゃんっ!!!」


 悲痛な叫びがフォルテシアから上がる。


「クソッ! 今すぐその手を放しなっ!!」


 言いながら左腕へ攻撃を仕掛けるために飛び上がったオルテナだったが、右腕の棍棒に叩き落とされる。


「くっ、ゴフッ……。」


 エルトラーナも抵抗しているようだが、いつまで持つか……。


 全員がエルトラーナを助けるために攻撃を仕掛けるが、意に返すことなく彼女を握り潰そうとするミノタウロス。


 このままではエルトラーナが死ぬ。


 また、目の前で人が死ぬ。


 だめだ、それだけは。


 それが嫌だからダンジョンまで来たんだ。


 ここで助け出せないとここに来た意味がない!


 僕は白い盾を足場にミノタウロスの頭目掛けて飛び上がった。

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