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水野聡、1年4組。
家族構成:父、母。
性格:短気だが、根は大らか。
被害者・西谷清太(47)
家族構成:両親ともに他界、妻なし、子なし。
性格:臆病者で、流されやすい。
現在、意識不明の重体。
僕は、集った資料を読みあさっていた。
「この・・・被害者の人の意識が戻れば、犯人分かるのに・・・」
中田がとなりでつぶやいている。
「でも、こういうショックが大きいことは、記憶がとんでいることが多いんだ。意識が戻っても、人の顔は憶えていないんじゃないかな」
「うーん」
田口の指摘に、僕らは頭を抱えた。
「どうすれば、水野君の無実を証明できる・・・?」
そう江桜がつぶやいているのが聞こえる。
僕は方法を考えながら、佐崎の様子がおかしいのに気づいた。
さっきから、ずっとうつむいている。
この事件についての資料集めで一緒にいた昨日、一昨日は普通だったのに、今日は妙なほど無口だ。うつむいて、そう・・・上の空だ。
「佐崎?」
僕は佐崎に声をかけた。
「・・・え?」
「・・・」
反応が遅い。
佐崎らしくない。
「どうした?」
「いや、なんでもないよ」
佐崎が笑顔を作る。
でも、それが偽の笑顔であることなんて、バレバレだった。
「ダイジョウブだから」
「・・・」
僕はその笑顔に複雑な感情を憶えた。
「水野君に、直接会いに行ったらいいんじゃないか?」
和倉が提案したことによって、僕らは休みの日を使って水野君の家に向かっている。
「あわせてもらえるかな?」
「・・・無理かもしれないね」
僕はそんな江桜と如月の会話を聞きながら佐崎を見た。
今日もぼやーっとしていて、上の空。
僕は怪訝な顔をしながら佐崎を見ていた。
「ごめんください」
田口がインターホンを鳴らす。
「はい」
出てきたのは、水野君のお母さんだった。
「あら・・・聡の友達?ここで話すのもなんね。中に入ってお茶でもいかが?」
僕らは水野君の家に上がった。
掃除も行き届いていて、とても大きな家だ。
僕らは、おばさんに進められたソファに腰掛ける。
「・・・あの事件のことかしら?」
おばさんは、ティーポットをかまいながら聞いてきた。
「後輩なんですけど、ダイジョウブかなって思って・・・」
「そうね、あんなことしてしまったんですから精神は安定していないかもしれないわね」
僕はおばさんの言葉に少しわだかまりを覚えた。
してしまった・・・?
「おばさんは、水野君・・・聡君のことを信じていないんですか?」
無意識のうちに、僕はおばさんに聞いていた。
「え?」
「聡君、否定してるんでしょ?」
「・・・」
おばさんは黙り込んでしまった。
次に口を開いたのは、江桜だった。
「何で信じてあげないんですか?してしまった、なんて・・・そんな言い方・・・ひどいじゃないですか!」
「おばさんだってね、色々と大変なのよ」
「一番大変なのは、誰にも信じてもらえない聡君ですよ」
和倉も言った。
「独りで孤独で・・・つらいのを我慢してるんですよ?」
「私は、聡のことをちゃんと心配してるの!余計なお世話よ!」
おばさんが取り乱して叫ぶ。
「ちゃんと心配して・・・行動してるわ!」
「・・・おばさんは、聡君のことを心配して、信じてるかもしれない。でも、聡君はそうは感じていない」
「・・・」
「聡君を信じてるなら、聡君の言い分を聞いてあげてください」
僕らは水野君の家を出た。
「水野君に合わせてもらうつもりだったのにな」
田口がそういって苦笑していた。
そうだ、当初のここに来た理由を、すっかり忘れていた。
「何か、言いたいこと全部ぶちまけちゃったみたい・・・おばさんに悪かったね」
江桜がそういっていた。
僕もそうだ。
いえなかったこと、全部おばさんに言ってしまった。
少し反省。
僕はそう思いながら、佐崎を見た。
さっきまでと、全然違う顔をしていた。
なんだか・・・そう、何か、大きな事を決心したような、そんな表情だった。




