28
「・・・」
目が覚めた。
少し頭が痛いけど、ずいぶん楽になっている。
「あ、瀬斗!ダイジョウブか?」
「佐崎・・・」
どうやら、保健室のベッドに寝かされているらしい。
僕は自分を見下ろしている佐崎を見た。
「急に倒れるから・・・びっくりしたよ」
「ゴメン」
僕が謝ると、佐崎は急に真剣な顔になった。
「なんかあったのか?」
「・・・」
「瀬斗さ、前いた学校でなんかあったんだろ?」
「・・・」
僕は何もいえなかった。
「僕にはいえないことか?」
「・・・不登校だったんだ、僕」
やっとの思いで出た言葉はその言葉だった。
「出来ないと思ってることも、無理やりやって、周りの友達に合わせて、自分の心が砕けていくような気がして、それが苦しくて・・・自分自身が何なのかわかんなくなって、怖くなって、それで、学校から逃げたんだ。
家に閉じこもって、自分が落ち着くまで、自分って言う存在をちゃんと理解してから通いたいって思ったんだ。
でも、周りの人たちはそうは思わなくて、友達がいっぱい家に来て、カウンセラーの先生も、担任の先生も、保健の先生も、みんなそろって“いじめ”かって聞いてきて、僕が首振ったら帰っていった。それで・・・それで・・・」
僕の目には涙が浮かんでいた。
「家族がだんだん冷たくなってきて・・・何だか、学校に通わないだけで家の恥だって言われてる気がして・・・目が・・・あわせられなくて・・・
父さんも母さんも妹も、みんな僕を避けてるって思って・・・余計に学校が怖くなった。
人にあうのが怖くなって・・・壁を作りたくて・・・
そしたら・・・すごい天気の良い日の朝だった・・・何で行かないんだって、父さんに怒られて・・・でも、行きたくなくて、僕部屋に逃げたんだ・・・」
僕は制服の袖で涙をぬぐった。
佐崎は何も言わない。
黙って僕の話を聞いている。
「そしたら、電話がかかってきて・・・父さんと母さんが・・・事故にあって・・・
全部僕のせいなんだ・・・葬式で妹に泣き叫ばれても、何も言い返せなくて・・・
それで、一緒に住めないから僕だけ一人で暮らして・・・引っ越す日に、人殺しって、妹に・・・泰葉に言われて・・・
分かってるんだ・・・父さんも母さんも僕のせいで死んじゃったんだって・・・それで、僕がまた人にかかわったら、誰かまた死んじゃうんじゃないかと思って・・・
でも、執行部に入って、だんだんいろんなことがわかってきたんだ。
何で父さんがあんなに怒ったのかとか、何が一番怖かったのかとか・・・分かってきたんだ。
でも、昨日泰葉に会って・・・僕何もいえなかった。
泰葉が・・・なんか前と違ってた様な感じだったんだけど、何もいえなくて・・・
何の声もかけてやれなくて・・・怖くて・・・ただ、怖かったんだ・・・」
涙が頬を伝って白いシーツに暖かいまま染みこむ。
「・・・そっか・・・瀬斗も大変なんだな」
佐崎がそっとつぶやいた。
何だか、全部ぶちまけてしまった。
「・・・ゴメン」
僕は涙を拭きながら佐崎に謝った。
「何で謝るんだ?」
「だって・・・」
佐崎の質問に、僕は戸惑った。
思えば、僕はいつも謝ってばかりだ。
反射的に謝る癖がついていた。
「謝んなくてもいいんだ。そりゃ、本当に悪いことしたら、謝んなきゃいけない。
でも、瀬斗は謝りすぎだ」
「うん・・・」
僕はまた「ごめん」といいそうになって、口をつぐんだ。
「瀬斗さ、僕の親の事知ってるよな?」
不意に佐崎が聞いてきた。僕はうなずく。
「僕は父さんが誰かわかんない。だから、そこから夢が出来たんだ」
「夢・・・?」
「父さんに会って、ありがとうって、ちゃんと言いたいんだ」
「ありがとう・・・?」
「瀬斗は、ちゃんと言ってただろ?何かしてもらったら“ありがとう”って」
僕は夕日に照らされている佐崎の横顔を見た。
「僕は言ったことがないから・・・ちゃんと言いたいんだ。母さんと出会ってくれて、ありがとうって」
僕はただ佐崎の横顔を見ていることしか出来なかった。




