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「もう、父さん止めてよぉ!」
「ははは・・・」
「あなたもいい加減にしなさいよ?」
僕のいない食卓から楽しそうな声が聞こえてくる。
漏れ出してくる声は、全て喜びにみちていた。
そこに僕が入ると、一瞬にして家族は静まり返る。
父さんは、無言でブラックコーヒーをすすり、母さんは妹の目玉焼きを焼き始め、妹はトーストをかじった。
いつもそうだ。
「瀬斗・・・学校は?」
母さんがフライパンに目をやったまま恐る恐るといった様子で聞いてきた。
「・・・行かない」
僕はまだわからない。落ち着けない。
だから、そう答えた。
「・・・」
みんなさっきよりも静かになる。
空気が凍った、というほうが正確だろうか?
僕はまだ一口しか手をつけていないご飯を置き、その場を立ち去った。
いや、立ち去ろうとした。
「まて、瀬斗」
父さんの声がした。
僕は無言で振り返る。
「お前何で学校に行かないんだ?」
「・・・」
僕は答えない。
きっと答えてもわかってもらえないから。
「いじめか?そうなのか?」
「・・・違う」
「じゃあ、学校に行けばいいじゃないか!これはお前の為に言ってるんだぞ、瀬斗」
・・・嘘ばっかり。
全部自分の為だろ。
息子が学校に行かない“不登校児”なのが恥ずかしいんだろ。
わかってるんだよ、そういえばいいじゃないか。
僕は階段を駆け上がった。
「こら、瀬斗!」
後ろから父さんの声と母さんのすすり泣く声が聞こえたけど、僕はかまわず部屋に入って鍵をかけた。
僕だって、どうしても行きたくないわけじゃない。
自分がまとまらない、行くきっかけがない。
言い訳かもしれないけど、それが僕の本音だ。
そんなふうにしか考えられないんだ。
涙が頬を伝った。
僕はベッドに倒れこむと、一人不安を抱いたまま眠っていた。




