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次の日は早朝から騒がしかった。
自分のアパートの前で、誰かが叫んでいる。
近所迷惑・・・
そう思いながら窓を開けると、叫び声が鮮明に聞こえてきた。
「瀬斗ー!」
「おはよー!」
・・・頭が痛い。
佐崎君と江桜さんだ。
僕はぴしゃりと窓を閉め、とにかく急いで準備をした。
あいつらの叫び声をとめる必要がある。
僕は準備をしたエアーバッグをつかみ、階段を駆け下りた。
「あ、瀬斗君、おはよー!」
ハイテンションな江桜さん。
「迎えに来たよー!」
こちらも負けないぐらいハイテンションな佐崎君。
「・・・」
僕は無言で二人の前を通り過ぎる。
「あ、ちょっとー!」
江桜さんが笑顔のまま僕のとなりに出る。
「瀬斗ー、冷たいなぁ、執行部の仲だろー?」
僕は佐崎君の発言にくるりと向きを変え、佐崎君を見た。
「僕は一言も執行部に入るなんていってない」
「無理だよ、強制。筑紫も言ってたじゃん」
僕は脳裏に浮かんできた中田さんを追っ払った。
「そんなの・・・」
「ほら」
佐崎君が出してきたのは、生徒会役員表。
会計の場所には、しっかりと僕の名前があった。
「・・・」
僕は無言でそれを見る。
「決定!」
「おめでとう!」
息の合った佐崎君と江桜さん。
僕は息を吸い込んだ。
「人の気も知らないで、勝手な事言うな」
「え?」
「僕は、そんな執行部とか生徒会とか、目立つ役回りなんてゴメンなんだよ!」
こんなふうに人を怒鳴るのなんて始めてだ。
「それなのに、勝手になんだよ」
僕は向き直って歩き出した。
何だ何だ何だ・・・
自分自身が怖いんだ。人とかかわりたくないんだ。
それを・・・何も知らないで・・・
僕は下駄箱の前で立ち止まった。
何も知らない。
それは僕も同じじゃないか。
自分のことも分からないのに、人のことをののしる資格があるか?
僕は来たほうを向き直った。
ぞろぞろと入ってくる生徒の中に、二人の姿はない。
僕は下駄箱から上履きを取り出した。




