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「・・・」
部屋にいる佐崎君、中田さん、田口君、如月さん、それに名前のわからない二人の男女が、無言で僕を見つめている。
「・・・あの・・・状況が全くわからないんですけど・・・」
僕は口を開いて、全員を見渡した。
「え?状況?」
「状況って・・・」
「だから、君に執行部に入ってほしいんだよ」
「ね?」
「・・・」
「うん」
6人は一人一言ずつ言って(あっと、一人無言だった)僕をもう一度見た。
「だから、執行部だよ」
佐崎君があっけからんとした口調で言った。
だんだん6人のペースに乗せられてきている気がする。
僕はあわてて言った。
「な・・・なんで僕が・・・」
もっともな反論だと思う。
大体、転校早々執行部だなんて・・・おかしいだろ・・・
「会計の役があいてるのよ。数学得意でしょ?」
中田さんが僕を見る。
全く理解できない僕に、田口君が言った。
「うちの学校は、生徒会長、副会長二人、企画、書記、雑務、そして会計で運営されている」
田口君は、顔と同化している細い淵のめがねを押し上げた。
「選挙で選ばれるのは生徒会長と副会長。生徒会長は立候補が一人だったため、佐崎裕介に決定した」
「ちょっと、決定は決定だもん、そんな言い方しなくてもイイジャン」
佐崎君の小さな反論は田口君の鋭い目によって完全に消えた。
「副会長は、多数の立候補者があったが、中田筑紫と和倉担が当選」
中田さんはまだ僕を見ていた。
和倉君は・・・何も言わない。制服を着崩していて、一見全く副会長に見えない。
さっき、一人だけ何も言わなかったのは和倉君だ。
「そして、その選出されたメンバーを執行部の「第二役」と呼び、第二役によって選出されたあとの4人を「事務局」と呼ぶ。
僕はその中の企画を担当している。いろいろな行事や運動の企画をするんだ。
書記は如月。雑務は江桜薫。雑務は、様々な面で足りないところを補ったり、雑用をしたりする。我中学では、少々雑務と補佐の役が混合しているが・・・まあいいだろう」
江桜さんは満面の笑みで手を振ってきた。すごく明るそうな雰囲気の人だ。
田口君は言葉を切った。
「そして、会計には君が適任だと、満場一致で決定した」
生徒会室内から拍手が起こる。
「ちょ・・・待って、何で僕なのかっていう質問に答えてもらってない!」
僕は顔の前で手を振った。
「大体、数学は得意だけど・・・でも、もっとすごい人いるだろ!」
「瀬斗、君が違うからだよ!」
佐崎君が僕に熱い視線を向ける。
「教室に入ってきたとき、直感で感じたんだ」
「直感って・・・」
僕はだんだんくらくらしてきた。
「あのね、梶谷君」
中田さんは立ち上がった。
「は、はい」
僕は反射的に気をつけの体勢をとった。
「拒否権はないの。それに、グダグダ言ってる場合でもない。あなたは会計、これは決定した事実なの」
「・・・」
僕は何も言い返せなかった。
みんなの笑顔を背に、僕は生徒会室を出た。
角を曲がったところの廊下でへたり込む。
出来るだけ・・・出来るだけ人と壁を作っておきたかったのに・・・
なんだよ・・・これ・・・
僕はうなだれた。




