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24 トクベツだよ

「トレーネ、もうすぐだよ。この先にあるのが大神官様の1人が居られる、森林都市だ。大神官様に会って行くかい?」


「ん……いや、いいよ。会う必要があるなら、ここじゃなくても会ってしまう。そうでしょ?」


「そうだね。じゃあ何処行こうか……とりあえずギルド行っていい?あと買い物しとかないと」


「うん」












国内の有名な観光名所の1つ、《森林都市》にはイデーと同じ、大神官の1人が居る。“森林都市”と呼ぶわりに自然に囲まれている訳ではなく、何も知らなければ《人々で賑わっている街》程度の印象しか無い。



主人の了承を得て馬の手綱を引きながら歩いていると、賑わっている市場を抜けた辺りで何かを見つけたトレーネが不意に小走りになった。

慌てて後を追うと足元まで覆うローブのフードを目深に被った大男を追っている事に気付き、次の瞬間トレーネがローブを引いた際にはらりと落ちたフードに息を飲む。


フードで隠されていた獣耳に、その大男が焦った様子でフードを戻しながら振り返った。



「トレーネ?」


「おっと……どうした、ボウズ」


「トレーネ、失礼だから」


「あっ。ごめんなさーい」


「ボウズ……もしかして獣人を見た事ねぇのか」


「なーい」


「……見たトコ旅行者だろ、何処まで行くんだ?」


「道中で採取した薬草があるので、冒険者ギルドまで」


「アンタ達が目立つのが嫌じゃなけりゃ案内してやろうか?」


「いいんですか?」


「決まりだな。ほれボウズ、コッチ来い」



男はトレーネの脇を持ち上げて肩車して、手は此処、体重はコッチと指示を出す。誰もが見上げる程の大男に肩車をされれば2mはあろうかという視界の高さに目を輝かせたトレーネが夢中になって周囲を見渡す様を、ロイエは眩しそうに目を細めた。



「わぁ!すごい!」


「すみません」


「別にいいって、こんくらい。に、しても……マジで獣人を知らないんだな。箱入りの家出かい?」


「似たようなモノです」


「そうかいそうかい。ま、安心していいぜ。確かにオレ達ん中にゃお尋ね者も粗暴者も居るが、此処のギルドは“仲間”ばっかだからな」


「……助かります」



“家出”以来、久しぶりに見た明るい笑顔に小さく息を吐いた。


男はレガメと名乗り、彼に案内されて訪れた冒険者ギルドの扉を開けた。

此処のギルドは酒場と合わさった造りをしているようでスペースの半分にはテーブルと椅子が並び、ギルドのカウンターとは逆側のカウンターで料理人が忙しそうに声を荒らげて料理を作っていた。乗っていた馬はギルドの職員が預かってくれるらしく、入り口すぐ横の馬小屋へと連れられて行った。



「チーッス」


「よぉ、レガメ。えらく可愛らしい人形連れてるじゃねぇか」


「いいだろ、拾ったんだ。ニーチャン、買い取りカウンターはソコだ。ボウズは見ててやるから行って来いよ」


「ぁ…………トレーネ?待ってられる?」


「大丈夫だよ」


「では、お願いします」


「おーいチビ、コッチ来いコッチ。オッチャンがお菓子奢ってやるよ」



ニコリと笑ってロイエに手を振るトレーネは面白がった冒険者達にあっという間に奪われ、最初こそ心配していたロイエも『見た目通りの子供じゃない』と自分に言い聞かせながら後ろ髪を引かれる想いを振り払ってカウンターへ向かい買い取りを依頼する。


受付の女性からお金を受け取ってすぐに戻ったもののトレーネの姿は無く、慌てて周囲を見渡す。



「戻りました。あの……トレーネは…」


「早かったな。悪いが、ボウズはすっかり奪われちまってな」



レガメの連れの男が顎を上げた先を見ると椅子に座る猫族の女性が肩車をして耳を触らせ、その後ろでは2人の男が笑いながら軽く腕を広げて落ちた時に備えていた。時折同じテーブルの冒険者が差し出すお菓子を食べるトレーネは遠目にも楽しそうに見えた。



「思ってたより大人しかったぜ。獣人を怖がらないっつーんで代わる代わる肩ぐるましてやって耳触らせちゃ、お菓子食わせてる」


「ニーチャンもゆっくりすりゃいいさ。酒でも呑むかい?奢るぜ」


「いえ、俺は……」



ぼんやりとした返事をしながら心配そうにトレーネを見ているロイエに呆れた様子で息を吐いたレガメは隣りの椅子を引き、ポンッと叩いてジョッキの酒を飲み干した。



「んな心配そうな顔しなくても大丈夫だ。オレ達にとっちゃ“怖がられない”っつーのがどういう意味か……分かってるだろ?」


「…………差別される国もある、と……」


「国によっちゃ、奴隷より扱いが酷かったりする。幸い、この国はそんな事ねぇが、ああやって楽しそうな様子見せてくれるだけで救われる奴が居る」


「ニーチャン、予定は?急ぐ旅じゃねぇならもう少しだけチビ貸してやってくれねぇか?」


「…………すみません、ビールお願いします」


「はーい」


「お酒、奢ってくれるんですよね」













「医者呼んでくれ!!治療師を!!」


「ラクリマ、しっかりしろラクリマ!!」



バタバタと駆け込んできた男性がギルド中に響く声で叫んだ。

その腕にはぐったりした女性が抱えられ、腹部から流れる血で服が真っ赤に染まっていた。



「治療師の手が空いてる奴が居ないから応急処置でどうにかするしかねぇ!!」


「コレが応急処置でどうにかなる傷かよ!!」


「血がとまらねぇ!!もっと布持って来い!!」


「お兄さん、ちょっとかわって」


「は…?」



人混みの中心で寝かされている女性の隣りで手を握り締めている男性の背中を叩くと、振り返った男性がトレーネを見て目を丸くした。



「おい、ボウズ」


「チビが見るようなモンじゃねぇ、下がってろ」


「お兄さん達にはいっぱい遊んでもらったから、トクベツだよ」



フードの下で笑ったトレーネは男性、グローリアと入れ替わるようにラクリマの横に座ると腹部の傷口に触れ、回復魔法を流し込む。


顔や腕の傷はあっという間に消えたものの1番深い腹部の傷に時間がかかり、治療に集中しているトレーネの額から流れ落ちる汗がローブを濡らす。



「……ロイエ」


「何がいる?」


「お腹すいた。なにか焼き菓子に温かいミルクかけてもらって」


「分かった」



1つ頷いたロイエは食堂側のカウンターに駆け寄って注文を伝え、トレーネの好みに合わせてハチミツを少し掛けてもらった。焼き菓子をスプーンで軽く潰してミルクを染み込ませ、疲労を顔に滲ませたトレーネに少しずつ食べさせる。



そうしている間に聞こえた、小さな呻き声に周囲が沸いた。



「っ………………………………う………………」


「ラクリマ!!ラクリマ!!」


「……ぁ…………ココ……は…………」


「ラクリマ!!」


「もう大丈夫だよ。少し休んだら動けるようになるから消化のいいご飯、鍋いっぱい用意してもらって」


「チビ……ありがとう、本当にありがとう…」



傷口に触れていたトレーネの両手は真っ赤に染まっていたがラクリマの相棒、グローリアは構う事なく力強く握ると大きな身体を丸め、ありがとう、ありがとうと繰り返しながら大粒の涙で床にシミを作った。















「あのね、大きなケガをして治療してもらったら、いっぱいご飯食べてね?治療は傷をふさぐだけなの、血は戻らないの。だからいっぱいご飯食べて、いっぱい休んでね?」



カウンター席に座って体力回復の為にスープを食べているラクリマの隣りで、魔力回復の為にスープを食べるトレーネが真剣な顔で告げる。



「血がいっぱい無くなったら、身体が血を作らなきゃ!って頑張ってくれるの。おなかまさんに、ギルドにお部屋借りてもらったからゆっくり休んでね?晩ごはんまで起きれないだろうから、起きたらお腹にやさしいご飯食べるんだよ?明日からは普通のご飯でいいけど、ちゃんとお休みしなきゃ駄目だよ?」



トレーネの言葉を心の中で繰り返しながら、ラクリマはひたすらスープを口に運んだ。

トレーネが指示を出して作ってもらったというスープが身体に染み渡っていく。『血が足りない』というのもよく分かった。身体が食事と休息を求めていた、生きる為に。



食べながら話を聞くという行為がどれだけ失礼かは学の無いラクリマでも知っていたが、ただただスープを口に詰め込みながら頷いて返事をする。



胃に優しいミルクスープの具材はどれもとろけそうな程に柔らかく煮込まれていた。


薄れる意識の中で感じた、ラクリマを死神から引き離した魔力と同じくらい、泣きたくなるくらいあたたかかった。















ラクリマがいくらか回復した事で、トレーネとロイエは(いとま)を告げた。別れを惜しんだ冒険者達に揉みくちゃにされながら押し付けるように渡された焼き菓子を抱え、トレーネは照れくさそうに手を振る。


入り口付近から見守っていたロイエが小さく笑いながら扉を開けた瞬間、トレーネのフードが風に煽られて外れた。



「っ、あ!」


「おい、アレ…」


「白銀」


「…ウソだろ……」


「“沈黙の”…………」



肩に落ちたフードの下から現れた特徴的な白銀に、誰もが“沈黙の民”を連想させてギルド内がザワついた。


予想外の光景に固まっていたレガメだったがパタンッと扉が閉まった音を耳にして弾かれるように椅子を倒して立ち上がり、勢いよく駆け出して閉まったばかりの扉を開けるがレガメ達冒険者と比べて背の小さい2人はすっかり人混みに紛れてしまっていた。



「待てよボウズ!!俺達だってお前と何も変わらねぇ!!故郷を追われた奴、家族を殺された奴、尊厳を踏み(にじ)られた奴、いろんな奴が居る!!オレだって…………っ、くそっ。辛くなったらいつでも来い!!また肩ぐるましてやる、耳だって触らせてやる!!忘れんなよボウズ、待ってるからな!!」



何処に居るか、聞いているかすら分からない幼子に向かって叫ぶと暫くして遠くの方で小さな破裂音が響き、思わず視線を向けると空から色とりどりの花弁が舞い踊った。


上がった歓声の向こうに居る筈の、まだ大人とも青年とも呼べないような年齢の子供と手を繋ぐ幼子を思い浮かべ、ジンっと熱くなった目頭を押える。

遅くなってすみませんでした!!

いや、体調不良とかじゃないです、大丈夫です。刀育てるゲームにハマってましたマジすまんw



新規の名前は……イタリア語だったかな?間違ってたらすみません、単語メモしか残ってなかったもので。


ラリクマ

lacrima


レガメ

legame





次(のいつもの記念SSの後)の話では描写でチョロっと「帰ったよー」するか、もう1話だけ旅行という名の家出編するかして……例の延期したシリーズ書いちゃう…?

ってか、もうよくない!?いや、本音言うとまだよくないんだけどさぁ!!流石にこんだけ待ったらよくない!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、お疲れ様ですm(_ _)m トレーネに差別の目を向けない人はロイエ達以外にも居たんですね。 沈黙の民を受け入れてくれる人がこれからも増えてくれると良いのですが( ;´・ω・`)
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