喜びの舞を踊るけど副職だった件について
あの後、私は看板の文字を見た後、呆然とした。
嘘だ。
めっちゃ喜んだ。
どうやら私、オンラインゲーム『キーパー―語り継ぎし血―』の世界に来たようです。
といっても、似た世界かもしれないけれど。
まあどちらにせよ、私にとっては発狂ものだ。嬉しすぎてな!
考えても見て欲しい。私の生活や有様を。
高校二年生で六億円当てる。
↓
高校中退
↓
ゲーム三昧
↓
ヒキニート
いやさ、別にね、文句があるわけじゃなかったよ。楽しかったしねレベル上げ。けどさ、ゲームの中の世界?もしくは似た世界?
なにそれ俺得か。
天国以外の何物でもないよキーパー好きとしては!!!
私は素っ裸であることを忘れ、更地の中で踊ったもの。喜びの舞を。
まあ喜びの舞を踊るくらい嬉しかったんだ、私。
その後やること思い出して家の中戻ったけどね。
やることとは何か?それは家の中にあったあの枯れた花と干した薬草とで回復薬作るんだよ。
一回の服薬で致命傷も治る素晴らしい薬だよ。まあレベル上げする間は死にゲーだしね、このくらいなくちゃダメよ。
「…きったぁぁあ」
で。ちょうど今作ってみたところだ。
私は家の中を漁りまくりゲーム通りにことを進めた。
『回復薬』の為の枯れた花と干した薬草を集めて、何故か体が欠損しまくってる割れた陶器人形たちの中から煮るための錆びた鉄鍋を掘り起こし、何故か地下室に繋がれていたペット(白骨化)の鎖の横に置いてある水桶の中から煮出すための濁った水を汲み取り、二階の子供部屋まで行き何故か壁にぶっ刺してある沢山のフォークの中から何故かドクロマークの掻き混ぜるためのフォークを入手した。
色々おかしすぎだろおい。ゲームの時は気付かなかったわ、すげぇコレおかしい。
なんだよ体が欠損しまくってる陶器人形って。
なんだよ地下室に繋がれていたペット(白骨化)って。
なんだよ壁に刺してある大量のフォークって。
しかも濁った水?ドクロマーク?回復薬作るんだよね?なんで濁ってんの、ドクロマークなの?
そんな事を思いながら作ったこの素晴らしい回復薬。色は無色透明、匂いは桃。What?
「…化学反応か」
違うのは分かってても言いたくなるんだこの変わりようは!!
濁ってたんだよ?泡出てたんだよ?漉した途端コレよ?言いたくもなるわ。
まぁしかしだ。そんなこんなで出来たわけで。
私は回復薬を陶器人形の目玉に入れた。…いや、ふざけてない。ゲームでもこうなってんの!
陶器で出来た球体を揺らせば、中からちゃぽんと言う音が聞こえた。
私はニンマリ笑って、ポケットにしまおうとする。が、服を着ていないことに気付いた。
「あ。服きてないや……布ないかなあ」
なんでもいい、このままではちょっと刺激的すぎる。主に私が。
私は取り敢えず全ての部屋を見て回った。陶器人形が沢山置いてある部屋。やたらと中身のいない水槽が置いてある部屋。フォークが刺さっている部屋。何故か鉄臭い部屋。トイレ。白骨化ペットのいる部屋。
なんも無かった。ただ怖かっただけだった。
無駄足になりちょっとがっくりしながらリビングに戻る。濁った回復薬の入った鍋が目に入るだけで、他は何も――――
「あ、」
――あった。何も無いなんてのはなかった、ありました。
窓に付いているカーテン。ボロっボロだけど、まあどうにかなるだろう。取り敢えず人に会える状態であればよい。
「ちょきちょきちょきーっとね!」
リビングの棚の中に入っていたハサミでカーテンを上から切る。
切り終わって広げてみると、思った以上にでかかった。なのでタオルみたいに胸元で巻く方式を考えていたが、方式を変えてみた。
「あらあらー、ギリシャの人みたいじゃないのー?」
窓に映る自分に満足げに笑う。ギリシャの人みたいに肩上にも通してみた。脚広げると中見えるけど、まあ広げなきゃ平気だろう。
私は陶器人形の目玉を手に持ち、やっとこの一軒家を出た。
遠目から見ても、うん、異様だ。そういえばなんで更地に一軒家があるんだろうか。
私は首を傾げつつ家を見上げる。
ここの始まりの地ではなんのモンスターともエンカウントしない。このいかにも出そうな家にもかかわらず、である。
「……ま、似た世界ってんなら、話は別だけど」
踵をくるりとひねり、来た道とは反対に進む。
砂埃を立てながら裸足でテクテクと歩き、私はここがゲームの世界、と言ったことについて考えていた。
先程も言ったが、ここが似た世界の場合、私のゲームの知識は役に立つのだろうか?
結果、役に立った。だが、これから先は分からない。なぜなら似た世界である場合、モンスターとのエンカウントが違う場合が問題として出てくるからだ。ゲームと違う所でエンカウントしてしまったら、今の私では一発ケーオーだ。
私はその事実にようやく目を向け、思わず溜め息を着いた。
「ゲームと同じ装備が使えればなぁ」
私のゲーム内でのレベルはキーパー内最高ランクの500Lv.かつ種族は人間ではなかった。
……あれ?人間ではなかった?今人間な時点でゲームの世界とは違う?
思わずそう思った事実に眉が寄る。まあ来てしまった以上何の対策も練れないのだが。
今はまだゲームの世界と借りずけて生活していこう。どちらにしても私は楽しめるだろうしね。
「………ステータス」
手始めにステータスを見てみることにした。見れたらラッキーだなぁ、程度で呟く。
…うん。結論から言おう。
ステータス、出たわ。
「うぉっ!!まじっか!!」
テンション上がるのも無理ないだろう。私は落ち込み気味だったのも忘れて目の前に出てきたスクリーンに手を伸ばした―――あれ?
「スクリーンじゃ、ない……だと…?!」
はしゃぎすぎて分からなかった。ステータスと唱えて私は自分の情報を知ることが出来たので、ゲームの中へトリップものによくある展開と思ったのだ。
違ったが。
「頭の中に……アップされてんのかな、これ」
まさにその言葉に限る。頭の中にイメージしているスクリーンがある。ちょっとがっかりだったが、これはこれでいいのかもしれない。他人に見られることがないのだから。
私はしょんぼりとしながら頭の中で自分の情報をどんどんと見て行った。
名前:多岐
380Lv.
職業:異限師
装備:ボロいカーテン
スキル:空中浮遊、張り付き、隠密
称号:なし
アイテム:アイテムボックス参照
「………………………………………は?」
思わずでもなんでもない。ただただそれしか出ない。
私は思わずこめかみを揉んだ。これならちゃんとニートしとけば良かったと心から思った。
「副職かよ……」
異限師とは、『キーパーでのアンケートを実施した際に、答えた人にはランダムで何かプレゼントが与えられる』というものに私が答えたとき、プレゼントとして与えられた職だった。
私はキャラクターは複数は作らない派だ。なのでこの職は私のキーパーを極めたキャラの副職にしたのだが、説明もないしキーパーをやっている人が少ないから情報ないしでよく分からない職業だった。
レベルが高いの?それはあれだ、死んだ回数がある値まで溜まったときのレベルアップがやたらと高かったやつだ。まぁ第一職業のレベルも高かったので、どちらにせよ使わなかったと思う。勿体なかっただけだ。
「なーんで第一職業の狂戦士じゃないんだ!異限師なんてわかんないよ!」
更地で一人地団駄を踏んでいると、頭の中で音がした。
ぽこんっ
「あ?」
[異限師]
ユニークワーク。
身体にあるいくつもの入口はすべてを収納し、すべてを吐き出せる。
また、中は時間が進まないようだ。
大抵この職業は男に出る。
「…………………………………なんっじゃコリャアアアアアア!!!!!!」
腹の底から声を出した。
足元の砂が舞い上がった。あっスキル『拡声器』だって……拡声器?!!