10 「男はみんなおっぱい好きだろ!」
この年頃の若者──特に男子生徒は、色々と持て余している。
主に、異性に対するアレやコレを。
今日も今日とて六斗は、クラスメイトたちと教室に居座っていた。
彼らが囲む机の真ん中には、数種類の雑誌が広げられている。
いずれも肌の露出が過多、あるいは生まれたままの姿の女性の写真が、多数掲載されている。
「あー、こんな後腐れなさそうな姉ちゃんと、色々してぇー!」
胸を前へ突き出したモデルの微笑に、男子生徒の一人が絶叫する。
六斗も鼻息荒く、隣の雑誌に食いつく。
「ウヒョーッ! おっぱいでけぇー!」
「お前ら、ちょっと静かにしろよ。先生に見つかるって」
一人が笑いながら諌めつつ、六斗の食いついた写真をのぞきこむ。
「でも六斗って、おっぱい好きだよなぁ」
「うんうん。おっぱい星人だよな」
半笑いのクラスメイトたちに、六斗は握りこぶしを作って力説する。
「何を言う! 男はみんなおっぱい好きだろ! お前らだって、おっぱい吸って大きくなったクチだろー!」
「それは女子も一緒じゃん」
一人が六斗を指さし、苦笑する。
別の雑誌を独占していた友人が、不意に声を上げた。
「おっ? 女子って言えばさ……このモデル、ちょっと露芝に似てね?」
「マジですか!」
六斗が、本日一番の食いつきを見せた。
雑誌を奪い取り、血走った目で写真を凝視する。
浴衣姿で寝そべっているモデルは、和的かつ優しげな顔立ちがどことなく、十和を彷彿とさせた。
「うーん……十和ちゃんに似てるっちゃあ似てるけど、まぁまぁ、かなぁ……エロス度は八十点だけど」
「ホントに今、露芝がお気に入りなんだな」
「うん。あのおっぱいが理想的。ありゃ、将来国宝になるね」
大真面目に馬鹿を言う美少年に、一人が失笑。
隣の友人も呆れ顔だ。そして、少し眉を潜めた。
「でも露芝って、めっちゃガード固いだろ? おまけに、超怖いセコムついてんじゃん」
「そうそう。神出鬼没の鬼セコム」
男子生徒全員の脳裏に、眼光鋭い美術教師の姿が浮かび上がる。
そして、揃って身震いした。
しかし六斗は、机の上であぐらをかいて笑う。
「いやー、だからこそムキになっちゃうんじゃないの! ってか俺、この前十和ちゃんのブラジャー見ちゃったしー」
このカミングアウトには、その場の全員が沸き立った。
地響きのような歓声が上がる。
「いつだよ! ってか、どんなシチュエーションで見たんだよ!」
「着替え覗いたのか?」
「ひょっとして、ヤッちゃったのかよ! 嘘だろ!」
優越感たっぷりに、六斗は整った顔をにやけ面に変える。
「へへへー、知りたい?」
うんうんうん!
男子生徒たちはすかさず何度もうなずき……途中で固まった。
まるで石化したかのように、肌まで色を失っていく。
お調子者の六斗は、そんな異変に気付くわけもない。
へらへらと笑いながら、得意げに続ける。
「それがねー、この前、たまたま家にお邪魔したっていうかさー。ちょっと色々、俺と十和ちゃんの間でありましてねー、ムフフ」
勿体ぶって話す彼の肩を、誰かが叩いた。
いや、掴んだ。
「なんだよ! いってーなぁ!」
その痛みに口を尖らせて六斗は振り向き、たちまち友人たちと同じように凍りついた。
そこには鬼セコム改め、三潮がいつのまにか仁王立ちしていた。
酷薄な印象を与える三潮の面立ちには、もはや一片の慈悲さえ見当たらない。
「随分と、楽しそうだな?」
「あ、あははは……みっちゃん、先生ぇ……」
空笑いでごまかそうとするも、六斗の肩を掴む手は揺るがない。むしろ更にギリギリと、万力のように締め付けてくる。
その力に、再び六斗が悲鳴をこぼした瞬間。
「あっ!」
クラスメイトたちは思わず声を上げた。
現れた時と同じように、三潮が唐突に消えたのだ。
六斗と共に。
後日六斗は、長崎県・五島列島の集落にて発見される羽目となった。




