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先生はESPでストーカー  作者: 依馬 亜連
本編

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11/40

11 「お前の私服が、想定外だった」

 辻が花市の隣街にあるショッピングモール入り口で、十和は柱にもたれかかっていた。

 待ち合わせをしたはずの八重が、時間を過ぎても来ないのだ。

 細身の腕時計へ視線を落として、彼女は柳眉を潜める。


 ちゃらんぽらんに見えて、八重は時間や食事マナーには厳しいのだ。

 学校においても、無遅刻・無欠勤・無早退の素行優良児である。


 何か、トラブルにでも遭ったのだろうか?

 それとも自分が待ち合わせ時間、あるいは場所を勘違いしているのだろうか?


「うーん……でも手帳には、十一時に南出入り口前で待ち合わせって書いてるし……」

 小振りのカバンから取り出した手帳を広げていると、不意に日が陰る。

 顔を上げ、十和は思わず悲鳴を漏らしそうになった。


 彼女の前には柄が悪い上、いけない遊びを嗜んでいそうな二人組の男がいた。

「お嬢ちゃん、一人?」

 そして典型的な質問を、十和へ投げかけてくる。


 しかしそこは、三潮の非常識に対処してきた彼女だ。いつもの、毅然とした顔立ちに変わる。

「友人と待ち合わせています。厳密には一人ではありません」

「ダチって女の子? じゃあ、俺らと遊ばない?」

 金髪を通り越して黄色い頭になっている男が、そう言いながら十和の肩にもたれかかってくる。


 このような望まぬスキンシップならば、六斗によって免疫がついている。彼女は素早く身をよじった。

「友人が女の子であっても、あなたたちとは遊びません。他を当たって下さい」

「えー? 俺らは君と遊びたいのにぃ」


 もう一人の、首からゴテゴテした十字架ネックレスを垂らした男が、すかさず十和を挟み撃ちにする。


「そうそう。君とパフェ食べるのが、俺らの希望なわけ」

「そしてその後、君のことも食べちゃおうかなー、なんて」

 遊び人二人に挟まれ、十和は眉間に思いきり皺を作った。


 恐怖よりも腹立たしさや、鬱陶しさが募る。

 このままでは、八重が来ても気づいてくれないかもしれない。

 いやそれどころか、彼女を巻き込んでの揉め事に発展しかねない。とかく八重は、口が悪いのだ。

 ここは大人しく、警備員を呼ぶべきだろうか。


 十和がしばし黙考していると、急に黄色頭が後ろへ飛んだ。

 いや、第三者の強い膂力で引っ張られ、投げ捨てられたようだ。

「あ? 何すんだてめぇ!」


 十字架男が気色ばんだ顔で第三者へ振り返るが、すかさず胸ぐらを掴まれて、鼻っ柱を殴りつけられる。

 目と脳を回し、十字架男はその場にへたり込んだ。


 第三者こと三潮は、それを能面の形相で見下ろしている。

「失せろ」

「へっ……?」

 うめくような低い恫喝に、黄色男はぽかん、となった。それに構わず、三潮は粛々と言葉を続ける。

「さもなくば、ゴミ収集車送りとする」


 彼が細い顎をしゃくった先には、ゴミ袋を次々と飲み込んでは圧縮する、ゴミ収集車の物々しい姿があった。


 その声音と眼力から、三潮が本気であると悟ったのだろう。

「はぃぃ!」

 意識混濁気味の十字架男を抱え上げ、黄色男が悲鳴に近い声をうなずく。

 そして、よたよたと逃げて行った。


 男二人を追い払ったにもかかわらず、三潮は普段通りの表情に乏しい顔で、十和と向き直った。


 そして、いつも通り赤面する。

「先生ありがとうございます……そして、どうして赤くなっているんですか?」

「お前の私服が、想定外だった」

 目をそらし、しかし時々十和を盗み見ながら、三潮がぼそぼそと言い訳する。


「休日ですから、私服に決まっていますよ」

「そうではない! ただ、そのような装いも、似合うのだと……」

「ひぇっ? ……あっ、ありがとうございます……」


 最後など、ほとんど超音波に近い領域の声音だったが、彼に慣れてしまった十和には辛うじて聞き取れた。

 それがために十和も、制服よりも随分と丈の短い、ふわふわとしたスカート姿を見下ろして赤面する。


 だが、照れに照れた顔が、ある事実に気付いて固まった。

「いえいえいえ、ちょっと待って下さい。先生、ここまでどうやって来たんですか?」

「いつも通りの瞬間移動だが」

 今更でもある問いに、三潮は一瞬面食らう。

 そして十和は、強張った顔に驚愕の色を塗り固めていた。



 前述の通り、ここは辻が花市の隣街。

 普段の二人の生活圏からは、電車で一時間ほどかかる場所だ。

 しかしショッピングモールや映画館など、遊び場が一通り揃っているため、十和は友人としばしばここを訪れている。


 この辺りは繁華街でもあるため、治安はあまり良くない。ナンパ男に遭遇することは稀だが、今回が初めてではない。

 にも関わらず、三潮が現れたのは今日が初だ。

 この際、どのようにして十和の危機を察知したのかは、どうでもいい。


 それよりも重要なのは、

「先生って普段、こんな距離まで瞬間移動出来ましたか?」

これだ。


 指摘され、三潮は今更ながらに驚いた様子を見せる。

「言われてみれば。気付かぬ間に、飛距離が伸びたのか?」

 眉間に深い皺を刻みながら、小難しい顔でうめく。


 そして十和は、何ともうすら寒い心地になっていた。


 三潮の行動範囲──彼曰く飛距離が伸びたということは、すなわち彼の魔の手が広がったということに他ならない。


 十和は暗い表情を浮かべた。

「先生。せめて休日ぐらいは、自分の時間を楽しんで下さい」

「んー……」

 珍しくも、三潮はあいまいにはぐらかした。それが少々憎らしく、十和は猫の手パンチで三潮の腕を叩いた。


 なお、この直後に現れた八重も、とばっちりで叩かれる羽目となる。

「バスが遅れただけなのに、あんまりだ」

と、彼女がふてくされるのは、これから五分後のことである。

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