INTERCEPT_1-1
異能がちゃんと出てくるのは次の次くらいな感じの異能モノ
一話目から自殺および自傷行為に関する・類する表現が含まれているので注意が必要です
異能。
それは進化とは別の過程より現れ、成長や努力に見合わない。
それは求める者全てに与えられることはなく、拒む者へと凶器を握らせる。
それは物理法則を無視し、想像と創作を具現化する。
それは希望をもって呪いを滅ぼし、呪いによって希望を挫く。
それはただ、ただ一つ。
異能は、世界を変革するという意志により生まれてくる。
あの日は朝のホームルームで学校の近くに危険人物が出るという話があった。鈍器で子供を殴るという、危険そのもの。もうかれこれ五人くらいが重軽傷とのことだ。
その危険が、帰り道にいた。
正確に言うと帰り道から少し離れたところにある小学校の正門。見えたのは、バールを振りかざしながら、とてもまともじゃない顔をして、奇声をあげながら集団下校中の小学生に突っ込んでいく男だった。
小学生達は、ただただその男を見ていた。諦めてしまったかのように、蛇にでも睨まれてしまった蛙のように。
……間に合わない。
私は、私は願った。願ってしまった。
隣にいる友達の持つ異能を知っていた私は、彼女の異能が発動するように願ってしまっていた。
私は、願いながら、彼女の、肩に……..
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「……夢」
既に明るくなった部屋で目が覚め、上体を起こしてカーテンを見やる。開いているものの、部屋に光は差し込んでいない。時計を見たら午後で、日付は九月十三日の金曜日。
夏休みが延長……というわけではない。二学期が始まっても部屋の中にいる、見ての通りの不登校不良少女だ。昨晩は確か三時辺りまで今晩決行する儀式の準備をしていた、はずだ。
夕飯も食べずに没頭していたからか、静かな部屋に腹の虫が響く。
「……腹、減った」
儀式を行うためにも体調は万全に整えておく必要があるだろう。冷蔵庫から何かしら拝借しようとリビングに向かうと、母さんがクッキー片手にテレビドラマを観ていた。なにやら物騒な任侠モノだ。
「あらぁスミちゃん、おはよう」
私の顔を見るなり陽の光のような笑顔をこちらに向けてくる。寝起きにはとてもつらい。
「お夕飯、食べてないでしょう?カレーが冷蔵庫にあるわぁ……昨日はせっかくスミちゃんの好きなカレーライスだったのに食べてくれないし、お部屋でこもって怪しいお本読みながらぶつぶつ言ってるし、だんだん不良が悪化しててママ悲しいわ、ヨヨ……」
どこから取り出したのかもわからないハンカチで目元をぬぐいながらわざとらしく床にへたり込む。いっそのこと、不登校になった娘を叱りつけてくれた方が気が楽なのに、母さんは私に気を遣ってか、私が不登校になってからの約半年間この調子で絡んでくる。
……いや、母さんのコレは元々だったか。
とりあえずカレーを頂こうと冷蔵庫を開けたとき、またお母さんのわざとらしい声が聞こえた。
「あら、あらあらあらぁ!そういえばスミちゃんどうしたのその、黒魔女さんみたいなお洋服は……かわいい、かわいいわぁ!」
またどこから取り出したのかもわからないデジカメを取り出しては私を撮り始める。そういえば儀式の準備中はずっと自作の黒装束を着ていたんだった……どこが可愛いのかわからない、やはり大げさだ。
「別に、今晩ちょっと――」
「今晩?お出かけするのぉ?」
「ちょっと散歩でもしてこようかなって、あまり人に会いたくもないから」
「うーん、スミちゃんの気持ちはわかるけどぉ、夜遅くに出歩いちゃったら危ない人が襲ってきちゃうかもしれないわぁ」
「……大抵の人より私の方が強いことは知ってるでしょ?」
「強かったら不登校になってないと思うけどねぇ」
重めのカウンターで、電子レンジに入れようとしたタッパーを手から落としてしまったが、すんでのところでキャッチする。
「じゃーあぁ、日付が変わる前までには帰ってきてねぇ?」
「はいはい」
適当に返事をしながら、鈍く光る電子レンジの中で回るタッパーを眺める。
「なるべく早く帰れるように、頑張るよ」
心にもないことを付け加えると同時に、目の前の箱が暗転した。
一冊の本だった。
不登校になり頭がおかしくなっていた私は、小学生の頃まで家にいた父さんから「絶対に入るな」と言われていた倉庫に入り込んだ。最初に目に留まった木箱、RPGに出てくるような宝箱のようなデザインをしており、レプリカというには使用感のある……いや、思い返せばこれも加工の一部だったのかもしれない。そんな箱の中に入っていた一冊の本。その中身は、日本語でも英語でもロシア語でも、ましてやアラビア語でもない謎の文字と魔法陣にも似たたくさんの図形だった。
父さんが一度だけ話した異世界の話。どこかのライトノベルから引っ張ってきたようなファンタジーじみた内容だったのを覚えている。そして話の結びに付け加えていた。
曰く、私たちの住む世界とは別の世界が存在し、自分はそこから帰ってきたのだと。
曰く、自分以外にも異世界から帰ってきた者や、元々異世界にいてこちらの世界にやってきた者がおり、その者たちの影響でこの世界の法則が崩れて『異能』なるものが生まれてしまったのだと。
そんなことを、言っていた。
帰ってきた、と言っていた。
つまり、ファンタジー的なノリで考えると帰還魔法みたいな代物があり、それを使って帰ってきたのではないのだろうか。
……私は、本当に頭がおかしくなっていた。
この世界から逃げたくて、逃げだしたくてたまらなくて。様々なこじつけを用いては、何語かもわからない文章と魔法陣を解説するような図から儀式の内容を創作し、ついに深夜の公園で実行に及んだのだ。
馬鹿げている。
危険だと撤去された遊具のあったであろう、今では何もない砂の上に自らの血で描いた魔法陣を見て心底そう思った。
自分の手から流れ出る血液を見てなのか、それとも先ほどナイフで刺した手のひらがようやく痛み始めたのか、少し冷静になっていた。少し、だけだったが。
そういうわけでこの世界から逃げられないことが確定したので強制的な手段として、保険で持ってきていた椅子の上に立ち同じく持ってきていたロープをいい感じの木に括り付け、作った輪っかを見ながら母さん曰く「黒魔女さん」みたいな服装をしながら笑っているのが私、連歌屋純花である。あと数十秒で死ぬ予定だ。
「逃げられるわけがないじゃないか、逃げられるわけがないじゃないか!こんな文字も分からない本なんかそもそも理解できるわけがないじゃないか!魔法陣なんて他にもあったし、というか魔法かどうかも分からないじゃないか!そもそも私は魔法が使えないじゃないか!心に余裕がなさ過ぎてそんなことも考えられなかったのか?もう嫌だ、もう嫌だ!私に、私の世界は変えられない!変えてしまったものを元に戻すことができないのに、そんなことができるわけないじゃないか!」
まぁ「このとき」は確かにハイになってたのかもしれない。……そもそもこれはハイと呼べるのだろうか。不安定であることに変わりはないが、とにかく血を流し過ぎて貧血気味で、意識が既に朦朧としていたのだろう。……ん?なんで過去形で話しているかって?
普通、回想シーンに用いるのは過去形だろう?
「……ごめん、日向。私は、お前のいる世界に耐えられな――――」
台詞をすべて言い終わる前に椅子を蹴り飛ばす、その直前。突如として青白い閃光が一帯を包み込み、一瞬遅れて衝撃音が鳴り響くと爆風のようなものに背を押される。まだ首に輪を通していなかったためそのまま宙に投げ出されたと思えば公園を囲むフェンスに激突し、少し跳ね返って地面に激突する。
理解の追い付かない、現実感の沸かない状況に現実味を帯びさせるように右腕に痛みが走り始めた。ありえない方向に手のひらがある感覚から折れてしまっているのはわかる。わからない、わからないのは、なんで私が月まで吹っ飛ばされそうになったのか、だ。
自ら天に昇ろうとしてはいただろうというツッコミに並行し、痛みでノイズの入る脳みそにゆっくりと思考が転がった。
私を月まで吹っ飛ばそうとした爆発は……後ろで起こった。私が描いた出来損ないの魔法陣があった方向。まさか作動したとでもいうのか。馬鹿げてる。あんなものに効力があるはずがない。
痛みに比例するように暗くなっていく視界を、呻きながら身体をよじってどうにか魔法陣を描いた方へと向ける。そこにあったのは、どこまで伸びているかもわからない大きな青白い光の柱だった。
そして、激しい痛みに閉じかける瞳が、光の柱の中にいた『ソレ』を捉えた。
そこには、大きな人型の何かがいた。公園に並ぶ木よりも大きいことから『何か』と称したのではなく、光にあてられたシルエットが単純に人ではなかったからだ。ロボットアニメに出てくる……そうだ、ロボットだ。機動する戦士のような、聖なる戦士のような……鎧が、そのまま動いているような。そんな大きな影が徐々に小さくなり始め、光の柱が薄れていき、消えた。残ったのは……人だった。
自分より少し背が高めの……少年?なのだろうか。長い髪がなびいていて……少女かもしれない。肌の色が暗め……かもしれない。血の気が引き、視界がモノクロになりかけていたので周りの色がよくわからなくなっていたし、思考もまとまらなくなってきた。
そのように薄れていく意識の中で、その少年と一瞬だけ目が合ったような気がした。
先ほどの光の柱が棲んでいるかのような青白い瞳。既にモノクロと化した視界の中で、その少年の両眼だけが確かな色をたたえていた。
そんな一瞬の後、少年は地面へと崩れ落ちて、私もそのまま意識を失った。
これが出会い。転移者、ダイキ・フローレンスとの出会いだった。
今はもう隣にいない、確かに自分の相棒であった少年との、出会いだった。
第一話「邂逅」
次回「見知らぬ、天井」




