表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結・番外編投稿中】正体不明の転生毛玉、人間嫌い皇帝の溺愛ルート入りました  作者: はなまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/71

番外編 エレンのそばかす その四

 翌日、二人がイレーヌの家を訪れると、テーブルの上にはすでに準備が整っていた。


 すり鉢、乳鉢と乳棒、小さな鍋、布で作った濾し袋、麺棒が二本。

 その隣にエレンが、茶色い液体が波々と入った小瓶を置いた。


「白樺の樹皮の煎じ液、これでいいか? 弱火でじっくり煮出したぞ」


「ええ、充分だと思うわ」


 ミーヤも鞄から小瓶を取り出す。


「ちょっとしか、みつろう、出てこなかったの」


 ミーヤが少し眉根を下げて言った。


 小瓶の中には、そら豆くらいの薄黄色の固まりが二つだけだ。


「それだけあれば問題ないわ」


「カタツムリの殻は?」


「ヨシュアが煮沸して、夜のうちに干して置いてくれたの。朝からは天日干しもしたから完全に乾燥しているわ。さて、はじめましょうか!」


   ✱ ✱ ✱


「よし、まずはカタツムリの殻からだな!」


 エレンが腕まくりしながら言った。


「布上で潰しましょう」


 イレーヌが布の上に並べた殻の上で、麺棒を転がしていく。クッキーの種を延ばす時の要領だ。パリパリと軽い音がして殻が砕けていく。


「ちょっとゾワゾワするわね」


「そうか? 代わろうか?」


 おそらくイレーヌは中身の想像をしてしまい、カタツムリを大量殺害している気分になったのだろう。そんな繊細さとは無縁のエレンは、鼻歌を口ずさみながら軽快に作業を進めた。


「それじゃあ、私は百合根を蒸して練る作業をするわね。ミーヤは砕いた殻をすり鉢で細かい粉状にしてね」


 ミーヤも作業に入る。まずはすり鉢の中で殻を、すりこぎでトントン叩いて更に細かい破片にする。その後、ゴリゴリとすり潰していく。薄い殻はあっという間に粉状になった。


「イレーヌ、粉になったよ!」


 イレーヌは蒸し上がった百合根を持って、パタパタと戻って来た。そしてすり鉢の粉を手に取り、親指と人差し指を擦り合わせる。


「うん、いいわね。そのまま全部の殻を粉にしちゃいましょう。エレンは手が空いたら、この粉を乳鉢で摺ってね。更に細かくして滑らかにするの」


 イレーヌは百合根を潰して練る作業に入り、三人共が無言でそれぞれの作業に没頭した。洗濯下女の仕事は辛抱強くなくては続かない。まるでタイプの違う三人だが、その部分だけは似た者同士だと言える。


 やがて全ての下拵ごしらえが終わり、あとは混ぜるだけだ。


 粉雪のように滑らかになったカタツムリの殻は、陽の光にかざすと真珠のような光沢がある。そこに百合根と白樺の煎じ液を入れて練っていく。


「エレンは塗り込むのと、刷り込むの、どっちが好み?」


「どう違うんだ?」


「柔らかさ、かしらね? さらっとした肌触りなら白樺の煎じ液を多めで、しっとりなら百合根を多め」


「あたしはしっとりかな」


「あとは蜜蝋の量ね。多めにすると、化粧崩れしにくくなると思うの」


 けっきょく、色々作って試してみることになった。


 仕上げに、ローズマリーの香油と白樺の皮の表面の粉を混ぜて出来上がりだ。ローズマリーには酸化防止と防腐の効果がある。


「完成!」


 机の上には、配合を少しずつ変えた、いくつかの小皿が並んだ。

 三人は顔を見合わせ、満足げに、けれど少し緊張した面持ちでそれを見つめた。


「……よし、試してみる」


 エレンが、一番「しっとり」と「蜜蝋」を多めにした皿を手に取った。

 人差し指で掬い取ったそれは、驚くほど滑らかで、それでいて密度の高い、真っ白なクリームだ。エレンは鏡も見ずに、自分の鼻の頭と、日に焼けてカサついている頬に、それを無造作に塗り広げた。


「――沁みないし、よく伸びる……。でも何も塗ってないみたいだ。いつも白粉を塗ると、肌に蓋をしたみたいに重苦しくなるのに……」


「エレン、それは『軽い塗り心地』ってことよ。高級白粉の売り文句だわ」


「あ……肌がしっとりしてる。ミーヤのほっぺたみたいだ」


「子供の頬みたいな、もちもち肌……! 最高の褒め言葉ね。それに、ほら見てみて」


 イレーヌが小さな手鏡をエレンに渡した。


「えっ、肌の赤みが消えてる。それに磨き上げた大理石みたいだ」


肌理きめが細かく、滑らか。貴婦人の肌ね。それに、薄づきだから自然ナチュラルな色合いで、肌が一段階明るく見えるわよ。そして、何より……」


「「そばかす、が……目立たない……!」」


 エレンとイレーヌの声が重なった。


「大成功よ! 素晴らしいわ!」


 カタツムリの殻の真珠光沢が、エレンの肌のくすみを光で飛ばし、百合根の粘り気がしなやかな膜を作っている。

 エレンは自分の顔を手で包み込み、信じられないというように鏡を見つめている。

 イレーヌも違う皿からクリーム液を指で掬い、自分の頬に塗る。


「あら、本当ね。肌が突っ張らないわ。さっぱりしてるのにしっとりて、粉っぽさもないし……頑張った甲斐があったわね」


 ミーヤがふんふんと匂いを嗅いで言った。


「へへ、いい匂い。エレンもイレーヌも、お姫さまみたいに、きれい」


「あたしが、お姫さま……」


 エレンは幼い頃からガサツなお転婆娘だった。そんな褒め言葉は、家族にすらもらったことがない。ある程度の年齢になってからは、意識してそう振る舞っていた。『どうせ女らしくしても似合わない』。そんな想いがあったのだ。


「ふふ、エレン姫、こちらの口紅もお試し下さい」


「クランベリージャムじゃねーか!」


「いいじゃない、けっこう色がいいのよ?」


「へぇ、どれどれ……。へへっ、甘いな。ほら、ミーヤも塗ってみろよ。あっ、舐めちゃだめだってば!」


 少女たちの華やかな笑い声は窓からこぼれ出て、夕焼けのはじまった空に溶けていった。




読んで下さりありがとうございます。

これにて『番外編 エレンのそばかす』はおしまいです。

また、次の番外編でお会いしましょう! ブクマと☆評価、どーぞよろしく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
洗濯仲間たち好きなので読めて嬉しい〜 ドラゴンさんとのおでかけエピも非日常感あって楽しかったですし、こういう日常+ちょっとした挑戦もウキウキします! ミーヤはどんな姿でも可愛いな……。人でも、ゴツい腕…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ