表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

6.理解できると死ぬらしい(お礼の小話)



とある日の午前。私は小会議室でのお勉強を終えて、ルクスの執務室で休憩していた。


話題は以前に読んだ詩集についてだ。


「全然、分からない」

「そうですね。私もよく分かりません」

「ルクスはそういう時、どうしたの?」

「全て、覚えました」

「なるほど」


確かに傾向を理解して、分析した結果を理論立てて、説明できるようになる、というやり方が通用しないのが、詩歌の勉強だ。


ならば、あらゆる比喩表現を覚え、学ぶというところから、始めるべきだろう。


今の私では、薔薇は赤い、ということしか、分からないのだ。


本数や色、意味、それらを用いた比喩などを一つひとつ、理解していくのでは、効率が悪い。


知らないものについては、理解をする前に、情報を集めることが大事なのだろう。


うん。覚える、そして、情報を蓄積するということが、今の私に必要なことなのだ。



ルクスのやり方に、納得して頷いている私を見て、ルクスは微笑みを浮かべた。


「理解する前段階として、知識を得る、という意味でも、覚えることは大事ですが、覚えたからといって、理解ができるわけではないのですよ」

「そうなの?」

「はい。例えば、王国の歴史のお勉強で、歴代の国王の異名を全て覚えたからといって、異名が付けられる仕組みを理解できるわけでも、次の王の異名が予測できるようになるわけでもありませんよね?」

「確かに」

「ですので、理解のために情報が必要な場合と、そうではない場合があるのです」

「詩歌は?」

「詩歌は比較的、前者に収まりますね。例えば、男性は樹木、女性は草花に譬えられることが多い、ということが分かります。ですが、覚えただけでは、何故そうなったのか、ということまでは分かりません」

「うん。じゃあ、唯々、覚えるしかない情報って、何がある?」


私が首を傾げて、問いかけると、ルクスも同じように首を傾げて、考え込んだ。


「例えば、人名や年号ですね。あとは階位の色の名前とかですね」

「うん」


確かに、誰がどんな法律を作った、という話や、いつの時代に何の戦争が起こったという話は、覚えるだけになることが多い。


勿論、それは事柄だけの話で、その時の時代背景や世界情勢を考えるには、必要な情報だ。


つまり、覚えるだけで済むような勉強も、理解するだけで終わるような勉強もないのだろう。




そんな風に納得していると、ふとルクスが声を上げた。


「あ」

「ルクス?」

「いえ、覚えることはできるのですが、理解はできない、という例があることを思い付きまして」

「あるの?」

「はい。かなり古くからある話で、現代ではその複製しか、残っていない本があります」

「本?」

「はい。それは古代の魔術の研究者が遺した奇書と呼ばれる本です」


奇書。それがどういう物なのかはよく分からなかったが、古代に書かれた物、ということであれば、そもそも古代魔術語を読めないと理解できないのではないだろうか。


私がそう尋ねてみると、ルクスは首を横に振った。


「いえ、その奇書は有名ですから、現代にまで翻訳されながら、語り継がれています」

「ふーん」

「その奇書は、内容を理解できると死ぬ、と言われています」

「え、死ぬの?」

「いえ、それが、未だに誰も理解できた者がいないので、本当に死ぬかは分からないのです。それにもし、理解できただけで死ぬのであれば、証拠を残す間もなく、死んでしまいますから」

「確かに。じゃあ、その奇書を理解できたら死ぬ、と言われているのは何故?」

「幾つかの理由が考えられますね」


一つはその内容が生涯をかけて、研究しても理解できないようなものであるから。

もう一つは、その奇書を読んで、実際に複数人が死亡した事実があるから。


そして噂として、その奇書には、呪いがかけられているから、というものがあるらしい。


「実際に死亡者が出ているの?」

「はい。その奇書が有名になるきっかけとなった事件ですね。ですが、それもかなり昔のことですので、事件の詳細は不明です」

「ふーん」

「それでは、その本の一節を読み上げますね」

「え、いいの?」

「はい。この一文は有名ですから」

「へー」


有名な一節とか、あるんだ。それって、もし呪いだったら、一部に触れることにならないか?

いやでも、ルクスが大丈夫だと言うのであれば、大丈夫だとは思うけれど。


少し緊張のような、不安のような、そして期待の籠った目で、ルクスを見つめた。


「世界の始まりと終わりに考えを巡らせると、私は段々と自分の身体が透けていった。そうして全てが透明になって漸く、私は納得した。あぁ、全ては隣人の食事の所為なのだと」

「うーん?意味が分からない。比喩?にしては、繋がりが見えないし、慣用的でもないし…………」

「はい。分からなくて大丈夫、いえ分からない方が良いですよ。理解できてしまった人は死ぬと言われていますから」


私があっさりと諦めると、ルクスは同意するように頷いた。




その後、例の奇書について、知る機会があった。


どうやら、一説によると、精神を病んでしまった魔術師が、自分が見える幻覚について書いたものだ、と言われているらしい。


内容を理解できると死ぬ、と言われているのも、奇書を書いた本人のように、病み、自死してしまうから、だそうだ。



うん、何だか、詩歌の話から、怖い話になってしまったな。


そんな微妙な思いを抱えながら、休憩は終わった。



本編である「私の大切な人は魔術の師匠」が累計5,000pvを達成いたしました。

お読み頂いている皆様、誠にありがとうございます。

今回も、5,000という数字には関わりがありませんが、小話を書いてみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ