ユーゴの秘策~壱
「只今帰りました!」
「セルジュ様、イザベル様お世話になります」
「お、お邪魔します・・・」
「ごきげんよう、お招き有難うございます」
「ユーゴ、レティ、お帰りなさい!みなさんもよく来てくれましたね!」
「おお!レティシア、お帰り!さあさあそんなところに突っ立っていないで中へ!」
「おじさん、ユーゴもいるぞ?」
「お?おお、そうであったな、ユーゴお帰り。皆さんもどうぞ」
「・・・ユーゴ。もののついで感が凄いのは俺の気のせいか?」
「あ、あはは・・・」
「セルジュ様ってほんとうにレティシアレティシアね」
ドロテがレティシアの耳元で囁いた。
「お、お父様ったら・・・恥ずかしい・・・」
本格的な夏が訪れ、2週間の夏季休暇となった。
騎士学校に通う全ての生徒は実家に帰って行ったがチームHの面々はそれぞれの事情で帰省はせず、今日からシュバリエ家で”合宿”だ。
「ユーゴ様、レティシア様お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ!」
「ただいま!マティオ、シルビィ、二人とも元気そうですね。かわりはありませんか?」
「はい、レティシア様」
巨漢の料理人マティオと娘のシルビィも出迎えた。
「みなさんの荷物をお持ちしましょう」
「お、俺はいいよ・・・それよりドロテの荷物が多そうだから」
手荷物を取ろうとしたマティオをルシアンは制した。
「そ、そうですか分かりました。お部屋は2階ですのでシルビィに付いて行ってください」
ルシアンは自分の境遇からこういった扱いをされることに抵抗があった。
「あ!私のいっぱいあるの!お願いねー!」
「かしこまりま・・・!!」
ぱんぱんに膨れたカバンの群れが目に入り流石にちょっと引き気味のマティオ。
「父さん、”第三の間”を使っても良いですか?」
「構わないが、あそこはずっと使っていないから椅子もテーブルもないぞ?」
「有難うございます。そのほうが都合が良いので」
「そうか?、よくわからんが、自由に使うといい」
「みんな、荷物を置いたら一階の一番奥にある部屋に集合だ。シルビィ、あとでみんなを案内してくれ」
「わかりました~!」
小柄のシルビィは元気に返事をすると長いおさげ髪を左右に振ってちょこちょこと小走りで二階に上がって行った。
「ふふ。あの子カワイイわね」
「でしょう?私の妹分よ」
メリッサはシルビィを気に入った様だ。
「おまたせ~。私が最後みたいね。遅くなってごめん」
「本当に遅いな」
「なによっ!しょうがないじゃない荷物が多いんだからっ!」
「あんなに沢山なにが入ってるんだよ?!」
「着替えよっ!」
「・・・」
貴族は一日に何回着替えるんだ?トイレに行くたびに違う服に着替えたりするのだろうか?ルシアンには不思議でたまらない。
「それにしても、殺風景な部屋ねぇ、椅子もないから座れないじゃない」
ドロテは体を一回転させて部屋を見渡す。
綺麗に清掃はされているが、調度品もなにもなく、ただただ広いだけの部屋だ。
「ユーゴ、ここで何をするんですか?」
「ああ、えっと・・・・」
「あ!馬車が来たぞ!凄く大きい馬車だ!」
ユーゴが説明をしようとしたとき、窓から外を見ていたルシアンが声を上げた。
「お客様かしら?」
皆窓際に駆け寄った。
「荷馬車ですね。でも本当に大きいですね」
「いいタイミングで来たわ。流石はマルセル、やるわね」
「ドロテのとこの馬車か?。まだ着替えが足りないのか?」
「あんたねぇ、荷馬車一台分着替えを運ぶわけないじゃないっ」
「何を持って来たの?ドロテ」
「ふふん、見てのお楽しみよっ」
「ぱ、ぱんつ、見てもいいのか?」
「だから着替えじゃないっていってるでしょっ!なんでぱんつだけ山盛り運ぶって思うのよっ!」
マティオとシルビィが玄関から出ていくのが見えた。
「ルシアン、ちょっと一緒に来て手伝ってくれ」
「荷物運ぶのか?」
「ああ、重いからな。シルビィじゃちょっと厳しい」
「分かった」
「よし・・・これで全部だな」
マティオは大量の汗を流して辛そうだが、ロシュフォールの使用人がついて来てくれていたので、全ての荷物を短時間で運び終えることが出来た。
頑丈そうな、大人が一人入れる程のおおきな革袋が18袋だ。
「開けてみていいのか?」
「いいわよ」
「・・・お、おお!!」
厳重に縛り付けてある太い紐を外して覗いたルシアンが唸った。
「何が入ってるの?」
「みんな開けてくれ、どうせ全部出さないといけない」
レティシアもメリッサもそれぞれ袋を開けにかかった。
「ああ!装具ですね!!」
「凄い!新品の装具だわっ!!」
「一袋に全部入りきらなかったみたいだから多く感じるけど、軽装、中装、重装がそれぞれ2セットづつよ」
「ドロテ、ほんとに凄いのね!」
「ふふんっ!ざっとこんなもんよ!」
ドロテは並べられた新品の装具を前に得意そうに胸を張る。
「今日からこれを着けて稽古するのか?」
「いや、これは装着はしない」
「へ?」
「み、見るだけなの?」
ドロテも不思議そうだ。
「騎士学校には専属の鍛冶師がいるのは知ってるよな?」
「もちろん知ってる。修練用の装具はぼろっちいからよく金属プレートが剥がれたり継ぎ目が破損したりするからなぁ」
「専属の鍛冶師がいるとすにぐに直してくれるから助かりますね」
「それは装具自体が古いからということだけかな?」
「お兄様、どういう・・・あ!」
「どうしたんだレティ?」
「なるほど。そういう事なのですね!」
ルシアン以外は皆理解したようだ。
「な、なんだよ、教えてくれよ!」
「つまり、装具には構造上弱い部分があるっていう事よ」
「それはそうだろうな、同じところがよく壊れるもんな。それがどうしたんだ?」
「あんたまだ分からないの?緋色カネよりカタい頭ねっ!。だ~か~らぁ、本番で使う装具と全く同じものを用意して弱い部分を予め把握しておくのよ」
「そして、そこを攻めて装具を破壊できれば直接打撃を加えられるということですね」
「ち、直接木剣が体にあたったらけっこう痛いなっ!」
「けっこうどころじゃないわよっ!」
「そういう事だ。でも装具を部分的に破壊するには全く同じ場所を複数回正確に打ちきらないといけない」
「それって・・・」
メリッサがドロテとレティの顔を見た。
「そう、難しい事だがレティとドロテの得意とするところだな!」
ユーゴはニヤりと笑った。
「ユーゴ!」
「お、お兄様!」
レティより先にドロテがユーゴに抱き着いた。
「前からただものじゃないって思っていたけど流石だわっ!好きになっちゃいそうじゃないっ!」
「お、おいおい・・・!」
「えええ?!いやぁぁ!!」
レティシアが咄嗟にユーゴにしがみつくドロテを引き剥がした。
「きゃっ!」
「は、はぁはぁ・・・」
レティシアは顔を赤くして肩で呼吸をしている。
「そ、そんなに必死にならなくてもいいじゃない・・・ただのスキンシップよ・・・」
尻もちをついていたドロテは驚いてレティシアを見た。
「わ、私ったら・・・ごめんなさい!・・・」
我に返ったレティは慌ててドロテの手を取った。
「べ、別に気にしてないから大丈夫よ。私もちょっとレティをからかい半分だったし・・・。でもそんなに好きならさっさと自分のものにしちゃいなさい」
「じ、じ、じ・・・・」
レティは首まで真っ赤にして下を向いてしまった。
「・・・・」
ドロテのストレートな物言いにユーゴも目を上に向けて鼻頭をぽりぽりした。
「なぁ、じぶんのものって、もしかして、アレかぁ?アレの事かぁ?」
ルシアンが隣にいたメリッサに話を振った。
ぱんっ!
目をつぶってルシアンの頭を叩くメリッサ。
「い、いて・・。メリッサ、最近ドロテに似て来たな・・・」
「ユーゴ、素晴らしいアイディアだと思いますがひとつだけ懸念があるのです」
「なんだろう?」
「この策を実行して成功した場合、他の生徒からクレームが入りそうな気がします」
「どうしてだ?入学直後のチーム分けもそうだけど、事前準備や情報収集はやって当然っていうことじゃなかったっけ?」
「それはルシアンの言うとおりだとは思いますが、他国の騎士と戦う実戦では恐らく通用しない策だと思われるので・・・」
「この装具に限った戦法だから、これで勝っても実力で勝ったとみなされないかもしれないということかしら?」
「ええ・・・」
「なるほど。他のみんなはどう思う?」
「メリッサのいう事も一理あるわねぇ・・・」
「別に勝は勝ちだろ?何やったっていいじゃないか?」
「あんたは単純でいいわねぇ・・」
「みんな家の威信と誇りを背負って必死だから、もし敗北した時何かちょっとの隙があれば突っ込んでくるかもしれないですね・・・」
「なるほど。じゃあ、例えば実際にゴズワールと戦争がはじまったとしよう。どうしたらブリュセイユの勝利となるかな?」
「そりゃあ、ゴズワール王都の占領で勝ちだろ?」
「甘いわねルシアン、完全勝利というならゴズワール王を殺さないとだめよ。王が生きていれば国が滅んだとは言えないわ」
「戦わなくても交渉で和平を結べば戦争自体は終わらせることは出来ますね」
「そうだね方法は色々あると思うが、まずゴズワール王を倒すためにはどうすればいい?」
「物凄くザックリした質問だけど、普通は兵をたっくさん集めて実力で攻め落として首を取るわね」
「他には?」
「周りを囲んで補給を断って兵糧攻めというのもありますね」
「俺なら投石器をいーーっぱい用意して潰すな」
「疲れるだけの作戦ね」
「可能性の話だろ?いいじゃんかよ」
「うーん、後は間者をいっぱい送り込んで王を暗殺でしょうか・・・?」
「レティが一番恐ろしいわね・・・」
「えええ?・・・だ、だって・・・」
「ま、まあ作戦としては色々あるよな。で、ドロテの作戦以外は剣の修練はそんなに必要ないと思わないかい?」
「え?」
「ん?」
「メリッサが言ったように和平に持っていくなら交渉に長けた人材を育成して送り込むだろ?そもそも兵力自体が要らない。ルシアンの言った投石器を沢山使ってということなら投石器を操作できる人材育成がメインとなるよね。要するに、作戦というものはその時その時で大きく変わるものなんだ。”有効とわかっていても今後は使えない作戦だから今回は練習しないでおこう”っていうのはおかしくないか?」
「あ・・・」
「作戦というのは現実的で一番勝利する確率の高い事をするという事だ。今回の俺達のミッションは”騎士団入団”だ。そしてその条件は模擬戦で勝利して三位以内に入る事。装具の弱点を突くというのは模擬戦を勝ち抜く上で俺達が考え出した最も有効な作戦なんだ」
「ユーゴ、丁寧な説明有難うございます。納得しました」
「私も頑張るわっ!」
「私もです!」
「俺も納得したぞ。でもさユーゴ、そろそろ何者か教えてくれてもいいんじゃないか?なんでそんなに物知りなんだ?」
「・・・」
緊張の面持ちでユーゴに注目した。
ガタ・・・。
「ん?」
扉の向こうで何か物音がする。
(ダンナサマ・・・!シー!・・・)
(ハッ!・・・ス、スマン・・・)
「む・・・」
レティシアが無言のまま立ち上がり扉に近づくと勢いよく開けた。
「どわっ!!」
「キャッ!!」
セルジュとシルビィが倒れ込んだ。
「ここで何をされているんですか?!お父様、シルビィ」
ムッとした表情で腰に手を当てて二人を見下ろすレティシア。
「ああ・・・い、いやぁ・・・そのぉ・・・」
「す、すみません・・お嬢様・・・」
「とても楽しそうな賑やかな声が聞こえたので、き、気になってしまって、ちょっと聞いていたらユーゴの話が出て・・・その・・・すまん・・・」
「わ、私はその、旦那様が扉にくっついて見えたのでなんだろうって思って・・・ごめんなさい!」
「ふぅ・・・気持ちは分かりますが、盗み聞きは良くないですよ!」
「すまん・・・」
「すみません・・・」
「その辺で許してあげてくださいレティ」
「セルジュおじさんだってユーゴが何者なのか知る権利はあるよな」
「おお!その、ルシアン君だったかな。そ、その通り!彼はなかなか理解がある」
「お父様!」
「あ・・・ハイ・・」
「まぁ、それはルシアンの言うとおりね。でも、当主とメイドが仲良く聞き耳立てるってなかなか変わった家風ね」
「お父様、恥ずかしいです・・・」
「・・・め、面目ない・・・」
「じ、冗談よ、そんなに真面目に取らないでよもう・・・」
「・・・そうだなぁ、変な情報を入れて余計な事を考えさせない様にと思って卒業まで黙っているつもりだったんだけど・・・」
「そっちのほう多分気になってしかたがないぞ」
「はは、そうかもな・・・じゃあ、話しておくよ。シルビィ、母さんも呼んできてくれないかな?」
「わ、分かりました!」
「ユーゴ、料理人のおっちゃんは?シルビィの父さんなんだろ?」
「ああ、でもマティオはちょっとおしゃべりだからなぁ。知られたら知られたでいいけど彼にはまた機会を見て話すよ」
「マティオには・・・その方が良いかもですね・・・」
レティシアは苦笑し、ユーゴに同意した。
~~毎週土曜日更新しますのでよろしくお願いします(*‘∀‘)~~




