新しい力~弐
「左足を前に出してやや半身にして・・・そう。両手を頭の上にあげて右腕をすこし右側に開く」
「こ、こうですか?」
「いいぞ。剣はもう少し立てて左拳は視界に少しだけ入るぐらいで内側に絞って、あ、脇は締めない」
「む、難しいですね・・・」
翌日の自主練でユーゴはメリッサに上段の構えの指導を始めた。190センチ近い彼女の身長はとても魅力的でこれを生かさない手はない。
「なんだ?あれ」
「メリッサが更に大きく感じるわ」
初めて見る構えに皆興味深々だ。
「ここからどうやって打つのですか?」
この世界の剣術は右足を前に出し、剣を右肩に乗せるように構えるのが基本だ。左足を前にした今の構えでは右足をスムーズに前に出せない。
「ルシアン、ちょっとこっちに来て俺の正面にたってくれないか?」
「あ?ああ、わかった」
「いいかい?ここから左足を大きく踏み込んでこうだっ!」
上段構えから左足を踏み込み左片手で鋭く振り下ろされた剣はカーン!というキレの良い金属音を響かせてルシアンの兜の真正面に命中した。
「あぐっ!・・・」
「片手?!」
「え?!・・・か。片手で打つのですか?!」
「そうだ。右足で踏み込んで両手打ちも出来るがこの構えからは片手の方がスピード乗る。最初は踏み込みはゆっくりでいい。当てた時に手首が負けて剣が寝てしまわない様に気を付けながら真っすぐ振るんだ」
「わ、わかりました・・・」
ひゅんっ!
表段構えからメリッサの方手打ちが放たれガツッというややブレた金属音がした。
「な、なにか違いますね・・」
「ユーゴのは一瞬クラクラしたけど・・・」
「俺はこの半年間みんなの稽古をずっと見てきた。メリッサのことも見ててずっと思っていたことなんだが、剣が相手に当たる直前に失速して全く威力の無い打ち込みになっちゃってる。君は気持ちが優しいから剣術でも相手に遠慮があるんじゃないか?」
「・・・」
「この構えからの方手打ちでは両手打ちと違って剣を途中で止めることはまず出来ない。打つ前に気持ちが定まっていないから芯でとらえられないんだ」
「私は・・・当たったら痛いだろうな・・・って、怪我をさせたらどうしようって・・・」
「メリッサの後ろには守るべき仲間がいる。君が目の前の敵を倒さないと大事な仲間がやられるんだ」
「私がみんなを守る・・・」
「そうだ。切り替えようメリッサ」
「私にできる・・でしょうか・・・?」
「メリッサはいつも冷静で何が正しいか、自分はどうするべきかを常に考えて行動している子だ。騎士学校では、このチームでは自分はどうする事が勝利に結びつくか分かっているんじゃないのか?メリッサならきっと出来ると俺は思っている」
「・・・」
他より一人少ないこのチームでは体格的に優位な自分が攻撃に加わらないと勝ち目は薄い。メリッサにもそれは分かっているから少しでも戦力になろうと皆について一生懸命頑張って来た。しかし入学から半年が経過して打ち込み稽古が本格化すると本番で力一杯の打撃が出来るのか不安が大きくなってきてしまっていた。
「なあ、メリッサ」
考え込んで下を向いているメリッサにルシアンが話しかけた。
「俺は兄弟たちに畑を押し付けてここに来ちまった。このままでは食えなくなるって思ったからだ。俺達みたいな農民が食えなくなったらどうなると思う?まず妹が売られちまう」
「!」
ルシアンの衝撃的な言葉にメリッサは顔を上げた。
「次に弟が奉公に出される。奉公なんて言葉だけで小奇麗なもんじゃない、貴族のみんなにはわからないだろうけど実際は奴隷契約でそうなったら多分家族兄妹バラバラになって二度と会う事も無くなる」
レティとドロテも手を止めて聞き入っている。
「俺はそんなことには絶対にさせない。騎士学校に入った経緯は正しかったのかそうじゃなかったのか今でもずっと考えてはいるけど・・・。例えユーゴが敵になったとしても、例え一人でも家族の為にこの身を賭けて全力で戦う。でも本番はチームで勝たなければいけないだろ?どうしてもメリッサの力が必要なんだ。なんとか頑張ってくれないかな?」
「ルシアン・・・」
「その、うまく言えないんだけど、俺を打ってみろよ。両親から貰ったこの体は他の奴より何倍も頑丈なんだ。ちょっとやそっとで壊れたりなんてしない」
「・・・・」
「打ってみろよ」
ルシアンはメリッサの手元を強引に持ち上げると、自身も剣を肩に構えた。
「でも、ルシアン・・・」
「いいから打ってみろって!相手が痛いか痛くないか気になるんだろ?メリッサに打たれて痛いか痛くないか正直に言ってやる!」
「・・ぅぅ・・」
迷いながらメリッサは上段に構えから剣を振り下ろした。
メリッサのメンはルシアンの兜を滑りカンッという弱弱しい金属音がした。
「もっとちゃんと狙って打て!」
再び振り下ろす。
カンッ!
今度は正面に当たったが腰が入っておらず手打ちだ。
「たいしたことないな!そんなもんかっ?!」
「く・・・」
カーンッ!
「よくそんなんで人の心配なんて出来るな!俺をばかにするなっ!!」
「!!」
カーーーンッ!!
それまでとは違い強い踏み込みとともにキレのある一撃がルシアンの面に決まった。
「それが全力かよ?!なんともないぞ!お前も色々悩んでるみたいだけど全部吐き出してみろっ!!」
「・・・ぅぅぅ・・・あああ・・・ああああああっ!!!!」
ガキンッ!!!!
長身から繰り出された強烈な一撃が命中し頭が揺れて僅かに足が動いた。
「うわ・・・」
「ひ・・・」
これまで見た事のないメリッサの一撃にドロテとレティシアが呻いた。
「はぁはぁ・・・・」
兜を取って見せるルシアン。
「まああまあだな。でも俺を見てみろよ。なんともないだろ?!このぐらいどうってことないんだよ。俺がお前の練習台になってやるからああだこうだと考えるなよなっ!」
ルシアンは自分よりも頭一つ程も高い位置にあるメリッサの頭をポンポンと軽く叩いた。
「・・・ルシアン・・・ありがとう・・・」
限界ギリギリまで目に涙を溜めたメリッサを見たルシアンは一瞬ハッとした顔をするとくるっと背を向けて離れた。
「あんた、時々いい奴ね・・」
少し頭がふらついているルシアンを見てドロテが小声で囁いた。
「と、時々は余計だ」
「ふ~~~~~ん」
照れて口を尖らずルシアンをドロテはニコニコしながら見ていた。
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