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エンドロール


「……ふう、どうやら期日には間に合いそうだな。今のところバグもないみたいだし、正常に作動してくれている。皆、ここまで一緒に作ってくれてありがとう。

 半年前に公式ホームページで発売が発表されてから、さまざまな形で宣伝をしてきた、今やどこを見ても楽しみにしている人たちがたくさんいる。

 その人の期待を裏切らないためにもあと少しだ。皆で一緒に頑張ろう!」


「瀬嶺さん、最後の締めゼリフやはりdream(ドリーム)worker(ワーカー)らしく、キッパリ言っちゃってください」


 瀬嶺(せみね)一烏(いちう)は口元に手をあて「こほん、こほん」と咳払いをしたあと、注目を一斉に浴びながら決めゼリフを呟いた。


「諦めずに最後まで共に戦おう! 決して諦めてはならぬ。諦めたら戦闘不能(ゲームオーバー)。明るい未来(ハッピーエンド)を手に入れるのだ!」


 その場にいた人たちは社長の言葉に感化され思わず拍手をした。


 そして、これから数ヵ月後、楽しみにしていた人たちの前に再び『四人の王子』が現れるーー……。


「世界中が泣かされた、至上最悪の乙女ゲームの復刻、再び私たちの心に華嵐を巻き起こす。

 頬からつたうのは感激の涙か……それとも……悲劇の涙か……隠された秘密とは!?

 甘く切ない夢物語の世界へ、さあ! 共に行こう!」


 『四人の王子』は爽やかな笑顔でこちらに手を向けている。顔の見えないヒロインがその中の一人の手を取り、二人は永遠の楽園で誓いの口づけをしようとするーー……。


 そして、華を斬るように颯爽と現れた黒馬。

満月の月明かりの下で妖しくほほ笑む伯爵は半ば強引にヒロインの腕を握りしめこう呟く。


「やっと逢えたな」


 そんなCMの宣伝を見た女性たちが伯爵の虜になり「きゃあああああ」と顔を真っ赤にしながら騒ぎ立てる。

 

「見た? 見た?」


「新しく発売したゲームのCMでしょ? 私ゲームとかしたことないから、よくわかんないけど、携帯で動画とか見ている最中にあのCMが流れてくると思わず見いっちゃうんだよね」


「歌も、曲も、声優さんの声も最高ーー!!

 ーーで、誰が一番気になる?」


 駅前で学校帰りの女子高校生が携帯片手に友達と盛り上がっている。お互いの耳につけたイヤホン。どうやらこの子達もあのゲームの『ヒロイン』の一人だそうだ。


 そんな彼女らの姿を若干羨ましそうな目で見つめている女性がいた。

 一年ほど前、自分があの世界に異世界転移したなんて今では遠い記憶、それどころか夢のように思えてくる。

 今の彼女にはもうゲームをする時間なんてなく、慌ただしく過ぎていく生活の一時、散歩の合間だけこうやって駅前の喫茶店で一杯のドリンクを飲むことが唯一の楽しみになっていた。

 

「パパ遅いねえ? 昼休みの少しだけなら抜け出せるって言うから来たのにねぇ? ドリンクの氷全部溶けちゃうねぇーー? ……暑くなる前にパパのことは置いて帰ろっか! うん、そうしよう!!」


 彼女が飲み終わったグラスをカウンターに返して、すぐにベビーカーで気持ち良さそうに眠っている娘の元へ戻ると一人の男性がその横で腕を組んで椅子に腰を掛けていた。

 額から流れる大量の汗、今朝玄関を出るときは娘の世話に忙しいのに「結んでくれ」とせがんで来たのにも関わらず、暑いのか邪魔だったのか、やはりクールビズなのか、ネクタイは外され第2ボタンまで大胆に開けられている。


「お昼は食べたの?」


「今朝おまえが作ってくれた、タマゴロールとイチゴジャムパンは小腹が空いたので作業中に全部いただいた」

 

 彼女の頭の中では社員の目を盗むことなく、キーボードを打つ手を休めることなく、一番目立つ席で堂々とパンに貪りつく旦那の姿が浮かぶ。

 まあ、いつでも小腹が空いた時のために食べやすい大きさに切って片手でも食べられる物を昼食にと持たせている妻も同罪と言われればそれまでなのだけれども。


 娘が目を覚まし強面の父親が側にいるのに気がつくと泣き出した。すぐに彼女が寄り添い宥める。


「どうして、俺の顔を見ただけて泣き出すんだ」


 父親は可愛い娘に隣に座っているだけで泣かれたので、瀕死状態のラスボスに動作ミスで無様に殺られてしまった以上の精神的ダメージ受けた。


「もうっ! あなたがいつも夜遅くに帰ってくるからよ! この子の父親としてもう少し早く帰って来てくださいな! そうじゃないと、今みたいに忘れられちゃいますよ!」


「ど、努力します……」


 三人の時間はあっという間に過ぎる。

 娘が泣き止んだところで再びベビーカーに乗せて、彼女は「何かあったら携帯に連絡してね」と言い残し立ち去ろうとしていた。

 旦那は娘が小さな小さな手を微かに動かし自分の方を見て何かを訴えているのに気がつくと、恐る恐るその柔らかな手の平に指先で軽く触れる。


 すると娘は小さな手で父親の手を握りしめ。柔らかくニッコリと笑った。


「なぁに? どうしたの?」


 娘と父親のやり取りがベビーカーで隠れ見えなかったので、彼女は再び固まる旦那の様子を伺っている。


「……パパって言った」


「え?」


「今、娘がパパって言ってくれたんだ!」


「あら、そうなの? 良かったわねえ」


「それじゃあ、午後も頑張ってね」と旦那を残し二人は家に帰ろうとしていた。

 だが、旦那はポケットから携帯を取り出すとどこかに連絡をしていた。携帯の向こうからは混乱状態の戦場の様子と、強力な戦力である隊長からの突然のグループ離脱に動揺を隠せない。


「俺が家まで送っていこう」


 そのあと早々白旗をあげた隊長は妻にこっぴどく怒られ、無事にまた戦場へと戻りました。

 お昼時間を少しだけ過ぎた後に不貞腐れながらもデスクに座り先頭に立ち指揮を執る。周りの人たちには何かあったのかと囁かれましたが、社員がヘルプを出すとすぐに駆け寄り救助にあたりました。

 その後ろ姿がなぜだか、いつもより一層頼り外があって、耳元で囁く声もいつもより優しく色気があって……男性社員でさえ彼の魅力の虜になりそうでした。



「ふん、俺を選んでも絶対に俺は落ちないぞ。なにせ、俺には心に決めたたった一人の相手がいるのだからな」

  

 『復刻版、清き乙女は王子様に寵愛(ちょうあい)される』。陰キャラでめったにお屋敷から出てこない99パーセント攻略不可能な黒翡翠(くろひすい)の悪魔。

 彼を攻略できるヒロインはこれから現れるのでしょうか。


 

 実はこの『復刻版』では当時伯爵を落とせなく悔しい思いをした女性(レディ)たちが大人になって画面の外で伯爵の攻略方法に再び悪戦苦闘しているとかしていないとか。

 なかなか落ちない相手ほど夢中になり努力のかいあって結ばれた時こそ達成感があるものです。


 では、新たな『ヒロイン』が現れたことに祝杯して。

 甘く切ない物語(ストーリー)の続きをーー……。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)





ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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