第三話 歓迎会
「突然ごめんね。これから特定のメンバーだけで歓迎会を開くそうなの。琥珀も一緒に行きましょう。」
そういうと、楪は私が返事を返すよりも早く私の手を掴み、部屋から急ぎ足で連れ出された。 安眠妨害の上に、着替えが済んでいたから良かったものの、私が着替え中だったら、一体どうするつもりなんだろう?不本意ながらも私は楪に手を引かれ何処かの部屋に連れていかれた。
「連れてきたわよ~。」
ノホホンと言いながらバンッと豪快に扉を開けると、そこはとてつもない殺気に包まれていた。原因は睨み合っている二人の人物にある様子だった。
短い銀色の髪に蒼い目の小柄なセーラー服を着た少女と、男子にしては少し長い金髪に目はエメラルドグリーン色。男子にしては小柄な身長の着崩したブレザーを着ている少年が、至近距離でお互いに殺気を振りまき睨み合っていた。その様子は不良の喧嘩と言う風に見える。
どちらも黒い髪ではないからそう見えるのだろう。
「楪これはいったい?」
明らかに歓迎と言う言葉の似合わない状況に、私は楪に問いかける。
「あの二人仲が悪いのよね。さっき会ったばかりのはずなのに何でかしら?」
楪も不思議そうに首を傾げていた。
「いい加減にしてください!他の人たちに迷惑でしょう?」
学ランを着た長い黒髪の人が、睨み合っていた二人の頭を鷲掴みにしていた。距離は近くも遠くもないけど、こっちにまでミシミシと骨のきしむ音が聞こえた。
うわあ、痛そう。
頭を掴まれた二人は呻き声を出しながら蹲った。
「はい、そこまで。歓迎会なんだからもっと華やかにしましょう。」
楪がパンパンと手を叩き、ギスギスした空気を変えるように話題を振った。
「さて、皆も聞いているだろうけど、この歓迎会には自己紹介も兼ねているの。と言うわけで、順番を回すから言われた人や回ってきた人は自己紹介をしてくださいね。」
そう言うと楪はキョロキョロと周りを見ると、
「やっぱりこういう時は、年長者の人からがいいかしら?」
そう言うと楪はさっきの長い黒い髪の人に目を付けた。ニコリとほほ笑むと長い黒髪の人は了解とばかりに微笑み返す。
「私は、秋桐乃蒼と申します。二年で風紀委員の委員長を務めています。普段は女性として過ごしているので、女性のような扱いでお願いします。」
穏やかな笑みを浮かべながら放った言葉に、ニューハーフ?と疑問を抱いたのは私だけではないだろう。他にも数名ほど、首を傾げていたりポカーンと口を開けている人がいた。
「じゃあ次は、高雅先輩にパス。」
「おう!」
年長者という事で近場に居たさっき学校の道案内をしてくれた人の番らしい。
「俺は荻若高雅、三年で生徒会副会長を務めている。よろしく!」
微妙な空気の中堂々と笑顔で言い切った萩若先輩に対して拍手が起こった。取り敢えず年上と分かったからにはちゃんと先輩ってつけて呼ばないと、私の場合うっかりしてると呼び捨てとかフルネームで呼ぶ癖がある。間違えて呼んだら不味い。
「じゃあ次は君で!」
そう言って、たまたま目が会ったセミロングの茶髪の髪と目の小柄な少女に次のバトンを渡した。
「ええ!?私ですか!?ええと、咲宮穂積です。幸運体質というスキルを持っています。よろしくお願いします。」
慌てながらもしっかりとした自己紹介にパチパチと拍手が起こった。幸運体質とかなんて羨ましいスキルなんだろう。自分もそんなスキルほしいと思っていると咲宮さんと目が会った。
「えと、次お願いします。」
目が会って、しかもお辞儀までされてしまったからには自己紹介しないといけない。いきなり回ってきたバトンに緊張しながらも、私は自己紹介を始める。
「光道琥珀。よろしく。」
短い自己紹介に対して楪が首を傾げていた。そんな楪を見て私も首を傾げた。
「何か可笑しかった?」
気になったし近くにいたという事もあって、小声で問いかけた。
「うーんとね。校長先生からスキル持ちは今年三人入学する予定だって聞いてて、琥珀もその一人に入ってるのに、どうして自分のスキルを紹介しないのかなって思ったの。」
「え!?」
私ってスキル持ちだったの!?
今まで生きてきた人生で、そんなスキルを発動させた記憶はない。私が無自覚なだけか、それともあの変なおじさんの勘違いか、どちらかは分からないけど分からない物は分からないんだし、放っておこう。
「おいおい、自分がスキル持ちかどうかも把握できてねえのかよ。」
さっき睨み合っていた金髪の男が、嘲笑う様に私をからかった。流石にそんな安い挑発に乗るのも面倒だけど、このまま引き下がるのも癪だったので、盛大に仕返しをしてやろうと思う。
そのまま、ツカツカと金髪の不良のところに近づく。
「な、なんだよ!?」
流石に、からかった後に私が近づくと警戒心を露わにしていた。防御態勢に入った金髪の不良を尻目に、私は自分の頭に手を当てて金髪の不良少年の頭に合わせた。
「小さいな。」
数センチと言う差で私のほうが背が高かった。そう呟くと
「ぶっ!」
「クスッ」
「ウフフ」
とか所々から笑い声や吹き出す声が聞こえた。
「次、君ね。」
「何がだよ!?」
私におちょくられたことが相当頭に来てるのか、今にも殴りかかってきそうな雰囲気で怒鳴りつけてきた。
「何がって、自己紹介だけど?」
私が答えると金髪の不良は以外にも律儀に自己紹介をした。
「野燕翔真 」
ぶっきらぼうに名前だけ言うとさっき喧嘩していた少女を睨み付けた。少女はため息をつきながら自己紹介を始めた。
「江雲瑠奈よろしくお願いします。」
野燕君とは違い、笑顔で自己紹介していた。
「最後は私ね。今年度から生徒会会長を務めさせていただきます。屋敷奈楪です。どうぞよろしくお願いします。」
流石生徒会長に選ばれるだけある。ちゃんとした自己紹介だと思った。
「自己紹介も済んだところで、食事会にしましょう。」
そう言うと何処から出てきたのか、周りには所狭しと沢山の料理や飲み物が用意されていた。ご丁寧に椅子やテーブルが用意されている。
「あの、」
ビクビクとこちらの様子を窺うように咲宮さんが話しかけてきた。
「良かったら一緒に食べませんか?」
そう言って、早速持ってきたのだろうケーキやクッキーといったスイーツを持ってきていた。隣にいた楪と目を合わせると、ごゆっくり、とでもいう様に優雅な足取りで野燕君のところに向かった。何やら笑顔で話しかけている。野燕君は後退りしていたけど。
「琥珀ちゃんって呼んでもいいかな?」
「良いよ。」
別に断る理由もないし、一年と言っていたから同じ学年だろう。
咲宮さんが持ってきたケーキを食べていると、何やら視線を感じたのでそちらを向いて見た。私の視線が先宮さんに向くと咲宮さんは驚いていた。
「えっと、琥珀ちゃんって目の色がすごくきれいだなって思って、別に変なこと考えてたわけじゃないよ!?」
慌てながらまくし立てた言葉に納得した。その名の通り、私の目の色は琥珀色だ。髪は黒いのに何故か目だけが生まれつき琥珀色だった。まだ親が生きていた頃に先祖に外国人がいるから、とは聞いていたからあまり疑問に思ったこともない。肩位にある短くも長くもない自分の髪を弄りながら、そんなことを思い出した。
「でも、咲宮さんは目も髪も茶髪だよね。」
「うん、日本人だけど元々色素が薄いからなのかな?黒くならないんだよね。」
残念そうに呟いているけど、別に咲宮さんは可愛いと思う、小柄で髪も長めで可愛い女の子って感じだ。そっと咲宮さんの髪を触ってみた。
「こ、琥珀ちゃん?」
いきなり私が髪を触ったからなのか咲宮さんは驚いていた。
「凄く触り心地良いよ。それにとても綺麗だよ。」
髪の感想を言っただけなのに、咲宮さんは顔を真っ赤に染めていた。傍から見れば煙でも出てくるんじゃないかと思える。
「私お代わりとってくるね。」
真っ赤な顔のまま急ぎ足でお菓子をとりに行った。さて私もラーメンでもとりに行こうかな。ショッパイ物食べたい。
テクテクとラーメンをとりに行くと、江雲さんが大量のラーメンをとっていた。
「ラーメンお好きなんですか?」
そう問いかけると、江雲さんは顔を歪めた。そして足早に去っていった。私江雲さんに対して何かしたっけ?初対面にしてこの冷たい態度に疑問を抱いた。
「そう言えば言い忘れてたけど、後でイタリアからスキル持ちの留学生が来るそうよ。」
楪の言葉に、そう言えば今年はスキル持ちが三人入学すると言っていた。人数的には留学生を入れればピッタリだ。
そんなこんなで、食事会は特に問題が起こることも無く平和に終わった。




