妹
昔、意地悪な継母によって小鳥にされてしまった王女の話を母親から聞いたことがあった。その時は妹と一緒になって王女の悲運を哀れんだ。しかし、今は違う。
「小鳥も気に入らないかい? 」
「すてきな話だと思います」
シエナはできるだけ失礼のないように答えようとしたが、その声はどうしても冷たく響いた。エリックはそれを見透かしたように肩をすくめた。
「マクレーンのお嬢さんは、気に入らなかったようだね」
エリックは椅子にかけ直すと、少し残念そうにそう言った。シエナはこの旅人に嘘をつくことを諦めた。
「昔、母さんがそういう話をしてくれました。でも、私はもうそんな話で喜ぶほど子供じゃありません。妹なら喜ぶでしょうけど」
「妹さんがいるんだね。見当たらないようだけど、どこかへ行っているのかい? 」
シエナは余計なことを喋った自分を呪った。
「父と一緒にいるんです」
「どんな子なんだい? 」
そう聞かれて、シエナは言葉を詰まらせた。ケンカのことを思い出したのだ。
エリックが不思議そうな顔でこちらを見ていることに気づいて、シエナは慌てて答えた。
「まだほんの幼い子です。すぐそう言う話を信じてしまうんです」
妹は魔法の世界に住んでいる。
少なくとも昨日まで、シエナはそう思っていた。
「妹さんは好きかい? 」
ふいにエリックがそんなことを尋ねた。
「ええ……でも、あの子は私のことを嫌っていると思います」
「どうしてそう思うのかな? ケンカでもしたのかい」
シエナはこの日、自分の口に三度目の後悔を覚えなければならなかった。この旅人を相手にすると、なぜか言わなくてもいいことまで言ってしまう。
「べつに、どうということもありません」
「まぁ、言いたくないなら無理には聞かないさ。人はいろんな物語を内に持っているものだ。その中には自分にしか語りたくないものもあるからね。僕には兄弟がいないから羨ましいな。両親の血を分かつ、絆で結ばれた存在。今でも少し憧れるよ。冒険には仲間がいた方が楽しいし、心強いからね」
旅人は両手を頭の後ろに組むと、上を向いて笑った。
「そうだ。こんな兄弟の話を聞きたくないかい? いろんな動物になった兄弟の話だ。この二人は、悪魔に追われるという冒険をすることになるんだ。この話なら君も気に入るかもしれない」
エリックがどんな人間だかは、まだ知れない。
ただ、よく笑う人だと思った。怪しいところがないわけではないが、このまま吹雪の中へ追い出すのは不憫に思えた。
エリックの目は聴き手を求めていた。シエナは仕方なくため息をつくと「ええ、いいわ」と答えた。




