円卓会議(ちゃぶ台)-10
よしよし、と頷くカルファスだが、彼女いわく「知らないのに知ってるフリされるのが一番困るからねぇ」との事で、そうした無知は悪い事では無いと言う。
「まず魔術の場合は、星の中心にあるとされる力の源より発せられる【マナ】という力を貯蔵しておく貯蔵庫と、さらにその貯蔵庫から身体へマナを送り届ける血管にも似た役割を持つ魔術回路が必要なのねぇ。
基本的に魔術師はこの魔術回路とマナ貯蔵庫が体のどこか、もしくは全身に有するんだけど、コレは基本的に遺伝でしか得る事が出来ないのよ」
「魔術師の子は魔術師になれるという事か」
「少ない例外として、いわゆる障害の一種として貯蔵庫や魔術回路に欠陥があってなれないってパターンはあるけれど、そういう場合も隔世遺伝する事が多いから、大抵の魔術師は自分の子に自分の研究成果を残していく者とされているね~」
魔術の細かい説明はまた今度、と言ったカルファスに代わり、今度はアルハットが説明に加わる。
「次に錬金術の場合だけれど、こちらも似たような形で使役する技術ではある。違いとして、魔術は【マナ】という力の源から放出された力を用いて使役するから、そのマナを貯めておく貯蔵庫が必要になるけど、錬金術の場合は、体内から放出される力である【オド】を用いて使役する為、貯蔵庫は無いわ。
けれどこちらも同様に遺伝していく錬金術を使役する為の触媒回路が必要で、この触媒回路を体のどこかに埋め込まれている必要がある。だから魔術師同様、錬金術師の子も錬金術師になる事は多いけれど、魔術師より比率は控え目ね」
錬金術も細かい説明は後にしましょうか、と言われた所で、しかし一つだけ気になった事があったのでクアンタが「すまない」と謝罪しながら、問う。
「先ほどアルハットは、錬金術を使役する際の回路を埋め込まれている必要があると言ったな。つまり遺伝ではなく、その回路を肉体に埋め込んで錬金術師になる事も可能なのか?」
「可能よ。そしてそれも含めて後にすると言ったの」
「つまり」
「ええ――出来れば今日、貴女に一つだけ錬金術を教えておく。けれどそれは後回し、まずは知らなければならない事があるのでしょう?」
了解、と頷いたクアンタが疑問を取り下げる。後程説明すると明言されていることを、無理に聞き出す必要も無いためだ。
「じゃあ続けるね~。結局な所、魔術師も錬金術師も、遺伝によってなれるパターンがほとんどなの。ほとんど、以外の所はまた説明するけど、それこそ四、五百年位前は、一部の貴族か華族でしか扱う事の出来なかった秘術って事ねぇ。
レアルタ皇族家なんかはまさにコレで、例えば私も使おうと思えば錬金術は使えるし、アルちゃんも魔術を使おうと学ぶことが出来る回路を持ってる。
シドちゃんなんかは自分に出来る技術は全て会得しときたい! って私やアルちゃんに弟子入りして、魔術と錬金術を両方とも使える様にしてる」
「アメリアは」
「アメちゃんは『吾輩はそうした研究主義者になるつもりはないぞ』って言って、真剣には学んでないね。でもいざって時に使えると便利だから基礎は私が教えてあるよ~。ただ、私もその当時はまだ修行中の身だったから、シドちゃん程まともに教えれてないけれどねぇ」
話がズレてます、と止めたアルハットに、カルファスが「いけない、つい」と顔を赤めた。
「錬金術や魔術を使役できる者は、遡っていくと貴族や華族の家系である場合が多く、それこそ皇族に連なる家系だったなんて事もあり得るの。
当時の貴族・華族の場合は大抵が神秘を再現しうる魔術だけを学び、皇族は魔術と錬金術を双方共に学んだとされているわ。だから、リンナもそれなりに高貴な家系と関連する子なのかも、という事ね」
なるほど、と頷きながら、しかし話の前後関係が少し飛んでいる気がしたので、その間にあるだろう仮説をクアンタが言う。
「つまりだ、お師匠には二人が言う、魔術師としてのマナ貯蔵庫、魔術回路、そして錬金術師としての触媒回路の全てを持ち得、修行次第ではそうした力を得る事も可能、という事か」
「ご明察だよクアンタちゃん! ただ魔術回路はちょっと劣化しちゃってるね。簡単な魔術は可能かもだけど、神秘の再現とか高等技術になってくると、多分回路が焼き切れちゃうからオススメしないよー。
あ、錬金術の触媒回路に関してはそれなりに形を保ってるね。まぁアレはそう簡単に劣化するものでもないしねー」
「ふむん――いざという時の為に、リンナにも錬金術を教えておいた方がいいかもしれないけれど、今は休ませてあげましょうか」
リンナの休んでいる寝室を覗き見たアルハットが、彼女の安らかな寝顔にクスリと笑った。
「――もしかしたらリンナは、元を辿っていくと私たち皇族と親戚関係なのかもしれないわね」
「そうであってほしいなー。私あんな可愛い妹ちゃん出来たら嬉しいしー。アルちゃんは昔から卑屈っ子だったからなぁ」
「卑屈っ子で申し訳ありませんが、正直そうなったのはカルファス姉さまの影響が強いんですけれど」
「でもアルちゃんは私の事をちゃんとお姉ちゃん扱いしてくれるもんね~。シドちゃんやアメちゃんは全然私の事お姉ちゃんって呼んでくれないしぃ」
ウリウリとアルハットの頬を弄って遊ぶカルファスに「やへへふははいへえはま」と抵抗する二者は、本当に仲が良さそうではある。
「所でアルハット、先ほど私に『一つだけ錬金術を教えておく』と言っていたな」
錬金術についてを語る際、彼女は「錬金術師としての素養」を語り、その時に述べた言葉だ。
アルハットは頷きながらカルファスの頬弄りから逃れ、霊子端末を取り出した。
「カルファス姉さま、クアンタの身体構造読み取りと、それに適した触媒回路の設計をお願いしてもよろしいでしょうか」
「そうだね、クアンタちゃんが錬金術使えれば便利そうだし、じゃあ準備するね」
二人が霊子端末を取り出して、クアンタの身体をスキャンするようにかざす。恐らく3Dスキャナの様な形で、クアンタの身体構造を解析しているのだろうが――
そうしていた時、あっけらかんとした声を放つと共に、クアンタの肩に触れる女性が、一人。
「うん、面倒だから私が全部引き受けようか」
クアンタにとっては知っている声だが、しかしカルファスとアルハットにとっては知らぬ者の声。
煙草を口に咥えながらクアンタの肩に触れた瞬間、今蒼白い光がクアンタの全身に走ると同時に、異変が訪れる。
――ボゴボゴとクアンタの身体が変形し、ヒトの形を保たなくなり、やがて彼女は銀色の球体へと変わり果てたのだ。
カルファスとアルハットは、クアンタをそうしたと思われる人物に敵意を向ける。
茶色の髪の毛を後頭部でひとまとめにした、クアンタのいた世界で言うオフィススーツに身を包んだ女性。
その人物が、クククと笑いながらクアンタが成り果てた球体に今一度触れ、感触を確かめる。
「おお、流体金属状態だと柔らかいな。この質感なのに重量や剛性は鋼より高い。おいアルハットとやら、触って確かめてみろ。お前も錬金術師の端くれなら興味があるだろう」
「興味はあるけれど、その前に一つ。――貴女、どちら様で?」
「少なくとも、ただ者じゃなさそうねぇ。今、クアンタちゃんの身体へ錬金術による錬成を行ったでしょう?」
「そう警戒する必要は無いぞ。私はお前たちが今しようとしていた事をやっただけだ。――そら、今目が覚める」
女性の言葉通り、今まさに、先ほどクアンタが球体へと変化した際の逆再生かの如く、急速なスピードで人間体への変形を遂げるクアンタが、元の身体を取り戻すと同時に、胸元へ手をやった。
「……おい神さま、一体何をした」
「数日ぶりの再会だと言うのに挨拶も無しかクアンタ」
「そちらが挨拶も無しに、身体構造を勝手に書き換えたからだろう」
「うわド正論言われた」




