ソーラの行方
「どういうことだよそれッ……」
ロッサの一言でマリーは暗く淀んだ瞳をしていた。
今まで怒ったりする彼女を見たことはあっても、ここまで彼女が暗く絶望した表情を見せることはなかった。
「突然何者かが私とソーラに矢を撃ってきて……気付いたら私だけで、ソーラはどこにも……」
ロッサはいったいなにがあったのか具体的に話していった。
二人はいつものように狩りをしていたのだが突然ソーラが倒れるのをロッサが見た。
そのすぐにロッサの腕に一本の矢が突き刺さり、いつの間にか意識を失った。
おそらく矢に毒が塗ってあったように思える。
目覚めたらもうソーラはいなくてロッサだけが残っていた。
「でもなんで、ソーラちゃんだけを?」
「おそらく他の魔女を炙り出すためかしらねぇ」
ソーラだけを連れていったのは、ロッサが仲間に知らせて自分達の場所に来ると考え、まとめて排除しようという理由からだとライアは推測した。
もしそうだとしたら、相手はなにか策を考えているつもりなのだろうか。ただの人間が、真正面から相手をして魔女に敵うはずがない。
もし罠だとしたら、安易に近づくのは危ないかもしれない。
「多分、この近くの村にソーラは人質にされてるはずです。今ならまだ、助けられる可能性はあります」
ここへ来る途中、確かに村があった。その時は辺りも暗く静かだったので、人がいないんじゃないんだろうかとさえ思えた。
「……ッ!」
マリーは話を聞いてたとき帽子で顔を隠すように下を向いていたが突然、勢いよくドアの向こうへ走っていった。
その後を弟子たちが呼び止める。
「マリーさま!」
「お前たちはロッサの手当てをしとけッ! オレひとりであいつを助けに行く!」
それだけ言ってマリーはすぐさま、ドアをバシンと閉め出ていく。
「やれやれ……面倒なことになったねぇ」
ライアは呆れたように他人事のように肩をすくめた。
そして杖を持ってドアの方へと向かう。
「ライアさんも行くつもりですか?」
「まあね。あいつひとりじゃ村ごと破壊しかねないからねぇ」
《破滅の魔女》は名前のように島を破壊したとか言う噂を聞いていたがやはり本当なのか。
あの表情を見れば本当だったとしてもおかしくない気もした。
「あの私も一緒に……」
ライアが行くならば自分もと思ったアイリスだったが、ライアは顔を横に振った。
「いや、アリスはここにいて。なにがあるか分からないから」
ライアは少し微笑みつつ、でも目は真剣であった。
やはりそれは……自分は役立たずだからだろうか。
上級魔術が使えず、基本的な初級魔術しかつかえない自分は邪魔なだけで見限られたのではないかとアイリスは落ち込む。
するとぽん、と頭を撫でられる感触がした。見るとライアがアイリスの頭を撫でていた。
「大勢で行ったら相手の思うつぼでしょ? 大丈夫、ちゃんと帰ってくるから」
彼女はアイリスを安心させるかのように優しく微笑んだ。
◇
その後ライアは外に出て、マリーを追いかけた。
箒で空を飛んでる可能性もあったがどうやらそう言うことはなく、まだ出来たばかりであろう足跡がかすかに見えた。
箒を使えばもっとはやいだろうに、今の彼女にはそれを考える余裕はなかったのだろう。彼女に追い付くことを一番としているライアとしてはその方が都合はいいが。
走りであればマリーに追い付くことは難しくなかった。
もともとマリーは背が小さいのもあり足は決してはやい方ではない。ライアは戦闘スタイルもあってか、この数百年の間に人並み以上に素早く動けるようになっていた。
森を駆け抜けながらしばらくたつとマリーの小さな姿が見えた。
「くそッ! こんな事ならあいつらを外に出さなきゃ良かった! オレだけでやるか遠出でも魔女都市まで買いに行くべきだった!」
「はいはい、もう起きちゃったことはしょうがないでしょ」
マリーに追い付いたライアは彼女に並ぶように言った。
ライアの顔を見たマリーは一瞬驚くがすぐさま睨み付けた。
「てめーなんで来たんだよ! オレひとりでいいって言っただろうが!」
もはやライアに構っている暇はない。とにかくソーラを助け出す。それしか考えてないように思えた。
彼女はいつもそうだった。一度キレるとその問題が終わるまで一直線であった。
この時の彼女を一人にするのは、とても危険だ。
「あんたひとりにしたら村ごと破壊するじゃないのよ」
「そんときゃそんときだ! オレにとっては、人間なんて邪魔な存在なんだ!」
何百年経っても変わらないなぁと思う。だが彼女の過去を知っているライアには、それもまた仕方ないとも思えた。
とはいえマリーの思う通りにさせることはライアには出来なかった。それはマリーやソーラたちだけの問題じゃなくなるからだ。
「そんなことしたら魔女の悪名が広がるだけじゃないの。わたしとしてはそれは止めなくちゃなんないのよ」
「善人ぶりやがって……」
マリーはライアをギロリと睨み付けた後、正面を向き小声で呟いた。
「オレはもう……誰も失うわけにゃあいかねえんだ」




