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マリー先生の授業

「それじゃ授業をはじめるぞ」

 

 翌日、いよいよ大魔女マリーによる魔術の授業が始まることとなった。

 目の前には黒板があり、その中心に立つようにマリーがいる。アイリスは同じく授業を受ける、マリーの弟子たちと一緒に、筆記を取る事になる。

 

「朝も言ったが、数日の間アイリスが授業に参加する。まぁ、いろいろ面倒見てやってくれ」

 

 ソーラ以外のマリーの弟子とは朝食の時に会い、挨拶を済ませていた。弟子はおよそ十人程度いるみたいだ。

 

「今日は、はじめだしな、一応基本をおさらいする。基本とはいえついつい忘れていることもある。アイリス、お前は魔力がどうやって発生しているか分かるか?」


 マリーはアイリスに対して、基本を覚えてるか確認を取るように質問をしてきた。 

  

「あ、はい。確か魔女だけに流れる血、魔血球が魔力の源なんですよね」

 

 アイリスはいきなりの事に一瞬戸惑う。だが一応、魔女都市にいた頃に魔術の授業は受けていたので基本なら答えられた。

 

「ああ、そうだ。魔力を使うと魔血球が減る。普通は体に影響はねぇ。……だが魔血球が不足して、魔力を使うと魔血球が暴走して血管が破裂する。だからそこらへんは注意して使えよな」

 

 マリーは淡々と説明を述べる。

 人間の血液には赤血球と白血球が流れていて、半人間の魔女にもそれは同じである。

 だが魔女にはそれだけでなく悪魔の血に含まれる成分があり、それが魔血球であった。

 

「次に魔血球を魔力に変換し、魔術を使う方法だ。ソーラ、これについて説明しろ」


 魔血球の説明が終ると、マリーはアイリスの右隣に座っていたソーラに説明を願い出た。するとソーラは立ち上がり、すらすらと話しはじめた。 

 

「分かりましたでやがります。魔血球を体の一点に集めると、魔力に変換されるでありますです。そしてそれを放出したりするのが魔術でやがります」

「その通りだ。特に手からが一番魔力を集め放出しやすくなっている。だから基本手を縛られたり、封じられたりすると魔術を使えなくなる」 

「先生ー、わたしは手を封じられても魔術使えます」

 

 アイリスの左隣から誰もいないはずなのに、聞きなれた声がした。見てみるといつの間にかライアが居て、手をあげていた。

 

「おまえの場合例外中の例外だろうがッ!てかなにしれっと混じって受けてんだよッ!」

「にししっ」

 

 怒鳴るマリーにライアは得意気に悪戯っぽく笑った。

 

「ま、こいつみたいに手じゃなくても、足や体全体から魔術を発動させるやつもいるが、ごく僅かだ。覚えなくってもいい」

 

 呆れ顔でマリーは言う。

 詳しい事は分からないが魔女は基本、魔術を使うのに手で多少動作をする必要がある。だが一部の魔女は体質によって体全体で魔力を放出できたり、ライアのような特別な魔術の発動方法を持っている。それらの魔女は仮に魔女狩りにあっても、十分抜け出せる手立てがあった。

 

「今度は魔術の発動方法だ。主に三種類あるわけだがお前は知ってるか?」

「え……放出型と遠隔型だけじゃないんですか?」

 

 マリーの問いにアイリスは戸惑った。それはアイリスが知らない事実なのであった。 

 

「普通使うのはその二種類だからな。知らなくても仕方ねぇか。じゃ、一つずつ説明するぞ」

 

 マリーはそう言っては一度まわりを確認し、右手を横に伸ばした。

 

「まず放出型。これは一番オーソドックスでシンプルなやつだな。こうやって手に魔力を集め放出する。名前通りのやり方だ」

 

 マリーは右手に力を入れた。アイリスがその右手を見ていたら徐々に小さな火が現れてきた。

 そのままマリーが指を大きく広げると、その小さな火は手が向いている方向に真っ直ぐ放たれる。

 その火は小さいこともあり壁にぶつかる前に消えていった。おそらく火が燃え移らないように調節したのだろう。

 

「次に遠隔型。これは手からそのまま放出するんじゃなく、特定の場所に魔術陣を召喚させその場に発動させる。魔術陣を使ってるから放出型よりも威力は強い。だが魔術陣を召喚できる距離は個人差があるし、発動させるのに時間が掛かる」

 

 マリーは次に杖を使い、目の前に魔術陣を召喚させた。そして小さな氷の塊を生み出した。

 これは昨日アイリスがライアに見せた魔術と同じやり方だ。

 

 このやり方には主に二つある。

 今のように魔術陣を召喚させるやり方と、すでに書いてある魔術陣を使うやり方だ。

 前者は主に地面に魔力を放出して行うのだが、それはマリーの言ったように使用者の魔力の量など個人差がある。

 後者は自分の書いた魔術陣であるならば、それなりに離れた距離でも発動でき時間も短縮できる。しかしそれには魔術陣を書く時間が必要なため、実践で使うことは少ない。

  

「最後に説明するのが接触型だ。覚えておけ。これは触れたものに魔力を流し、魔術を発動させたり自由自在に操る方法だ」  

「そんなのがあったんですね……」

 

 初耳であった。少なくとも初級魔術でそんなのを使った魔術はないはずだ。

 するとそんなアイリスを察してか、隣からソーラが話しかけてきた。

 

「いえ、そこまで珍しいものじゃねーです。箒で飛んだり魔石を使うのもこれに該当したりしますです。他の用途で使う人があんまりいねーんで、基本名称として使われねーんでやがりますけど」


 確かに、言われてみればそうかもしれない。日常的に使っていたので見落としていたが、箒で飛んだりするのも魔術の力だ。これは放出型にも遠隔型にも当てはまらない。

 

「他の用途で使うやつもいるにはいるが、基本熟練の魔女しか使わねーからな。なんか質問はあるか?」

「はい先生ー。わたしの場合触れたり魔術陣使わなくても、見える場所ならどこでも一瞬で魔術発動できます! その場合どうなんですかー」

 

 もちろんこの質問をしたのはアイリスではない。案の定ライアであった。

 

「だからてめぇは黙ってろよ!お前基準で話してたら、おかしくなって話が成り立たなくなるんだよッ!」


 いちいち悪ふざけで話をするライアに対して、マリーはイライラしているのが分かった。

 そして不機嫌さが増したマリーはため息をしライアにこう言う。

 

「つーかそこにいるならお前も教える側に回れよ」

「いいの? わたし基準で教える事になるけど」

「……悪かった。お前なんかに頼ろうとしたオレが悪かった」

 

 マリーは考え直し、自分の言ったことに後悔しているようであった。

 そこでふと気になったことを、アイリスは言ってみることにする。

 

「そこまでライアさんは凄いんですか……?」

「……まぁな。悔しいがこいつは規格外だ。前なんてオレが作った渾身の魔術をすぐに分析して、同じ魔術をオレより速く発動しやがった……。オレの苦労をなんだと思ってるんだ」

 

 ふてくされた顔でマリーは言った。

 同じ大魔女であるマリーがそこまで言うってことは、ライアがどれだけ凄いのかが分かる。

 

 大魔女の中でも最強と言われた《魔眼の魔女》

 視界の範囲ならば一瞬で魔術を発動できると言う魔眼

 やはり彼女は、桁違いの力を持っているということなのか。

 

「それは昔の話でしょ。今はそんな力無いっての」

 

 ライアは謙遜してるかのように頬杖を付いて言った。

 彼女はこの前、本来の能力を失ったと言っていた。それでもなお、アイリスから見れば彼女は桁違いの凄さを持っているように思える。

 

 こんな感じで途中ライアが茶化すような事を言いながらも午前の授業は無事進んで言った。

 いよいよ午後の授業は魔術を使った授業だ。

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