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襲撃! 徳川四天王!!

「こいつは僕のルームメイトで、平賀源内です。医者の勉強をさぼって、役にも立たないガラクタばかりつくっていますが、たまにすごい発明をするやつなんです」

「玄白っち、その言いかたはないぜ。おいらのつくったものはどれもこれも立派な発明品だ。ガラクタなんて一つもねぇよ。もぐもぐ、むしゃむしゃ」

「源内。ウナギ丼を食いながら、ご飯つぶを飛ばしてしゃべるな。先輩たちにちゃんとあいさつをしないか。お二人は、文学部の委員長の紫式部先輩と副委員長の清少納言先輩だぞ」

「もぐもぐ……ごっくん。医学部初等科五年、平賀源内っす。先輩、一口どうですか? ウナギは体にいいんですぜ」

「人の食いかけはけっこうよ」

 私は、ほっぺたに飛んできたご飯つぶを指ではじきながら、眉をしかめた。私の背中に隠れている香子は「こういう行儀の悪い男子、苦手……。もうお昼なのにまだ寝間着を着ていてだらしないし……」と源内くんに聞こえないような小声でぶつぶつ言っている。

 平賀源内といえば、杉田玄白とも知り合いだった江戸時代の人物だ。彼の伝記を何冊か読んだことがあるけれど、目まぐるしいほどいろんなことに挑戦した偉人だったらしい。ある時は医者、ある時は作家、ある時は西洋画を描く画家、ある時は鉱山で金銀をザクザク掘り当てるのを狙う経営者、そして、後の時代の人々に「日本のエジソン」と呼ばれる発明家。(平賀源内って本当は五人ぐらいいたんじゃないの?)と疑ってしまうほどだ。

 ちなみに、「土用の丑の日にウナギを食べたら夏バテしない」という宣伝文句は、平賀源内がウナギ屋さんのために考えたらしい。今でいうテレビのCMを考えたようなものだ。

「清少納言先輩。ごらんのとおり、こいつはいっけん頼りなさそうですが、源内の発明品を使ったら、何とかサムライ学部に侵入して信長くんのもとへ行けると思うんです」

「ふうん、そうね……」

 そう言いながら、私は横目で源内くんが書いているネコ型ロボット(?)の設計図をチラリと見た。……便利なアイテムでもポケットから出してくれるのかしら?

「おいらは今いそがしいから出歩きたくないんだけれどなぁ。この作品を今日中に完成させて、小学生絵画コンクールに応募したいんだ」

 あっ、これは発明品の設計図ではなくて芸術作品だったのね。ややこしい……。

「そんなことを言っていないで、先輩たちの力になるんだ。これはお前のためでもあるんだぞ。源内、お前は科学や美術、文学の勉強をしたいのに医学だけしか勉強できないなんて嫌だと昔からグチグチ言っていただろう。清少納言先輩と紫式部先輩は、今の学園の時間割を変えるために署名活動をしているんだ。医学以外のことが学べるようになるかもしれない」

「そ、それ、本当かよ! そういうことなら手伝うぜ!」

 源内くんが盛大にご飯つぶをふきながら立ち上がる。

「ええ……。この人、ついて来るのぉ……?」

 香子がメチャクチャ嫌そうな声をあげていた。


 それから十五分後。

 私と香子、源内くんは空にいた。もっと正確に言うと、サムライ学部校舎の上空。

 サムライ学部の校舎に歩いて近づいたら合戦ごっこに巻きこまれてしまう。だったら、気球に乗って空から行こう。源内くんがそう提案し、源内くん手作りの気球に乗りこんだのだ。

「わ、私……こ、高所恐怖症なのに……」

 香子の顔は真っ青だ。ま、まあ、私もほんの少し足が震えているけれどね……。

「どうすっか、清少納言先輩。おいらの手作りの気球『ウキウキ飛べるくん』の乗り心地は。空の旅が楽しめるように、足元を透明なガラスにしたんですよ。ほら、下を見たらこんなにもすばらしい眺めが……」

「い、いや、恐くて下なんから見られな……あら? 運動場にいるサムライ学部の生徒たちが上を見上げてさわいでいるわ。私たちのこと、気づいたんじゃないの?」

「あの葵の紋の旗は徳川家康の子分たちっすね。でも、気がついても、何もできやしませんよ。おいらたちは空にいるんですから。鉄砲だって届きません」

 徳川家康とは、言わずと知れた江戸幕府初代将軍である。若いころは今川義元の人質となって苦労し、今川家から独立してからは織田信長と手を組んだ(なかば弟分みたいなあつかいだった)。信長の死後に天下をとった豊臣秀吉とは一度争った後に家来となり、秀吉が亡くなるとその息子の秀頼を滅ぼして天下統一した。

 偉人学園の二代目・家康くんは、信長くんに合戦ごっこのたびにこき使われている子分で、昨夜、署名にサインをしてくれた一人だ。気球に乗っているのが私たちだと分かったら、攻撃はしてこないはずだけれど……。

「げ、源内くん……。わたし、気分が悪くなってきた……。もう少し低空飛行して……」

 かなりグロッキーな香子が涙目でそう言うと、源内くんは「あいよー」と言って気球の高度をさげた。

「あっ、家康くんの子分たちが細長い筒みたいなのを引きずってきた。何あれ?」

 わたしが指さすと、源内くんも下を見おろした。

「やべぇ、あれは大砲だ。今の低い高度だとうち落とされる」

「ええ⁉」

 わたしがそうさけんだ直後、真下で「大砲、発射!」という怒鳴り声が聞こえた。そして、

 ドッカーーーン‼

「き、きゃぁぁぁ‼」

 大砲の玉は『ウキウキ飛べる君』に命中! あっさりうち落とされてしまった!


「いやぁぁぁ! 落ちる~!」

「パパ! ママ! さよ~なら~!」

「二人とも落ち着いてくれ! こういう時こそのパラシュートだ!」

 まっさかさまに落ちていく中、源内くんはあらかじめ背負っていたパラシュートを開いた。そ、そうだった。私と香子もパラシュートを渡されていたんだった!

「そ、それ! よし、開いた!」

「わ、私も……。助かったぁ~」

「いや、そうでもないみたいだな……」

 ふわふわと地上へ落ちていく私たちは下を見た。なんと、家康くんの子分とロボットの足軽たちが槍や弓矢、鉄砲をかまえながら、私たちの落下を待ち受けていたのである。

「私よ、私。清少納言よ。私たちは信長くんの友だちだからおそわないで!」

 もうすぐ着陸しそうな高さまで来た時、私は両手をぶんぶんふりながらそうアピールした。しかし……。

「コレデモ、クラエ!」

「きゃあ!」

 着地寸前、ロボットの兵士が槍を突き出し、私におそいかかったのだ。私はぎりぎりでかわしたけれど、バランスをくずして顔から落ち、地面とキスをしてしまった。

「私の親友に何するの! こいつ~!」

 私に続いて落下してきた香子は、私を攻撃したロボットの頭を空中から蹴飛ばした。ロボットはあおむけに倒れると、仲間のロボットたちにぶつかり、ドミノたおしみたいに六体のロボットが次々と倒れた。普段は大人しいけれど、本気で怒ると私よりもだいたんな行動をたまにするのが香子なのだ。

「おい、てめえら! 大砲なんてぶっそうなものを使いやがって! 殺す気か!」

 香子のすぐ後に着地した源内くんが、今にもなぐりかかりそうないきおいでサムライの集団にほえた。すると、その集団の中で一番立派そうな鎧を着ているタヌキ顔の生徒が「いやぁ、もうしわけない」とニコニコの笑顔で答えた。

「ある人物から、清少納言先輩をこらしめてくれと頼まれているのでね」

「い、家康くん⁉ こ、こらしめるって何よ? ていうか、さっきのは死ぬから!」

「すみません、先輩。あなたに恨みはないのですが、一か月後ほど病院で眠ってください」

 家康くんはそう言うと、鉄砲隊のロボットたちに「うて!」と命令した。

「だ・か・ら! 死ぬっていうのーーーっ!」

「そうはさせるか! これでもくらえ!」

 源内くんは学生服の胸ポケットに入れていた小型のピストルをすばやく取り出すと、八発連続でぶっぱなした。ピストルの弾丸は本物ではなく、命中すると破裂して中から水が飛び出す仕組みになっていた。

「どうだ! おいらの『スーパー水鉄砲』は! 普通の水鉄砲よりも飛ぶ距離が十倍以上なんだぜ! 戦国時代の火縄銃なんて、水にぬれたらおしまいなんだよぉ!」

 源内くんのガンマンとしての腕前はなかなかのもので、うった弾丸はすべてロボットたちの鉄砲にあたり、ビショビショにしてしまった。戦国武将たちが使っていた鉄砲は火縄銃といって、火薬がぬれてしまったらうてないのである。

「ほう……。やるではないか。ならば、ぼくの自慢の子分たちが相手だ。行け、徳川四天王!」

 家康くんが言うと、家康くんの前に四人の鎧武者が現れ、それぞれ名乗りをあげた。

「四天王のまとめ役、酒井忠次!」

「天下一の槍の使い手、本多忠勝!」

「燃えるように赤い鎧がトレードマーク、井伊直政!」

「戦いの作戦を考えさせたらピカイチ、榊原康政!」

 バッ! バッ! と戦隊ヒーローみたいに四人は決めポーズをとり、四人同時にさけぶ。

「我ら、四人そろって徳川四天王‼」

 ドッカーン!

 ロボットの兵士が手に持つスイッチを押すと、四天王の後ろで派手な爆発が起きた。

「うわぁ……。すごくイタい……」

 香子がボソリとつぶやくのが聞こえた。私も同意見だった。

「清少納言先輩、紫式部先輩。あいつらバカっぽいけれど、ケンカは絶対にメチャクチャ強いぜ。なにせ、初代・徳川家康に天下をとらせた名将たちのDNAを受けついでいるんだ。まともにやりあったら、勝ち目はない。おいらが時間をかせぐから、二人は逃げてくれ!」

「仲間を見捨てるなんて、できないわよ。一緒に逃げましょう」

「仲間か。うれしいことを言ってくれるねぇ。今日初めて会ったばかりなのに」

「私、好き嫌いがハッキリ分かれるタイプなのよ。あんたみたいに何にでもチャレンジする活動的な人は好き。ただし、ラブではなくライク、友だちとしてね」

「ふ、二人とも! のんきに話している場合じゃないよ! 四天王がおそってくる!」

 香子が悲鳴をあげた。源内くんは腰にぶらさげていた道具袋から竹とんぼを出すと、「えいや!」と飛ばした。……この非常時になんでオモチャで遊ぶの⁉

「これはただのオモチャじゃないぜ! 『竹とんぼ型目つぶし発射機』! 竹とんぼの両はしの翼の部分からレモンの汁が発射される仕組みになっているんだ!」

 源内くんの説明どおり、竹とんぼはぐるぐると回転して四天王のもとへ飛んでいき、プシュッ、プシュッとレモンの汁を飛ばした。回転のいきおいがついていてものすごいスピードで飛んでくるから、四天王たちもさけることができない。

「う、うわぁ、目がしみる!」

 先陣をきって切りかかってきた井伊直政くんが、目をおさえて立ちどまる。他の四天王たちも目にレモン汁が入ってつらそうだ。でも……。

「お、おのれ~! なめたまねをしやがって! 絶対に許さんぞーっ!」

 本多忠勝くんが槍をぶんぶんとふりまわし、狂ったように怒鳴った。

「げ、源内くん……。これ、ただ敵を怒らせちゃっただけじゃない?」

「や、やべぇ……。やぶへびだった……」

 顔を真っ赤にして怒った四天王たちが、火だるまのようないきおいで私たちにおそいかかってくる! も、もうダメだ! そうあきらめかけたその時――。

「待て待て待てーい! 武士のくせして武器を持たない人間をおそうとは何事だ!」

 右手に太刀(長い刀)、左手に脇差(短い刀)を持った一人のおおがらな少年が走ってきて、四天王の前に立ちはだかった。その勇ましい姿を見た香子は、

「こ、この人……!」

 と、ハッとした表情でさけんだ。

「すっごくくさい!」

 犬なみに鼻がきく香子にとって離れていてもたえがたい悪臭を二刀流の剣士ははなっているらしい。そういえば、彼が現れてから何だか変なにおいがするような……。

「オレの名は宮本武蔵! 天下無双の剣豪とはオレのことだ!」

「宮本武蔵だと? ぷぷっ。笑わせてくれるぜ。せっかく最強の剣豪のDNAを受けついでいるというのに、サムライ学部ではなくて芸術学部に入れられてしまったお前がよくも堂々と二代目・宮本武蔵を名乗れたものだな。こんなところで油を売っていないで、水墨画を描く修行でもしていろよ、武蔵画伯」

 四天王の榊原康政くんがそう言って宮本武蔵くんをバカにすると、武蔵くんはくやしそうに「ぐぬぬ……」とうなった。

「オレを笑ったこと、後悔させてやる! 四人まとめてかかってこい!」

「おもしろい! 行くぞ! みんな!」

 四人のまとめ役である酒井忠次くんがそう言うと、四天王たちは「おおーっ!」というかけ声とともに武蔵くんに殺到した!

 武蔵くんと四天王が激突! かと思ったら……。

「ああーっ! 空にUFOが飛んでいるー!」

「な、何~⁉」

「スキあり!」

 武蔵くんは、よそ見をした四天王たちを峰打ちでバタバタとたおしていった。

「せ、せこい……」

 あきれたわたしは、思わずそうつぶやいていた。

 そういえば、初代・宮本武蔵も巌流島の決闘でわざと遅刻してライバルの佐々木小次郎を怒らせて冷静さを奪い、勝利をおさめたのよね……。

「よ、よくも僕の子分たちを……」

 家康くんがタヌキ顔を真っ赤にして怒った。武蔵くんは家康くんにあっかんべーをすると、私たちのところに走ってきて、

「さあ、今のうちに逃げましょう」

 そう言って、私と香子の手をにぎった。そして、「あんたも逃げたほうがいいぞ」と源内くんに言い残すと、全速力で逃走を開始したのである。

「うわっ、ちょっと! 私、体力ないからそんなに速く走れな……く、くさ~っ!」

 香子の言ったとおり、ぷーんと鼻につくこの悪臭! なんでこの子こんなにくさいの⁉

源内「次の投稿予定は10時だ! 年越しそば? ウナギ丼を食え……!」

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