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医学部でも署名集め!

「みなさん、おつかれさまです。おにぎりをつくったので、これを食べて休憩してください」

 義元くんたちの手当てが一段落したころ、鴎外くんがたくさんのおにぎりをお盆にのせて持ってきてくれた。鴎外くんの手作りだそうだ。

 うん、おいしい。ケガ人の手当てでつかれていたのが、ウソみたいに力がわいてきた。

「もぐもぐ……。義元くんたちも食べたら?」

「え? いいのか?」

「こんなにもたくさんあるんだもの。私たちだけでは食べきれないわよ」

「ならば、ありがたくいただこう。うむ……うまい」

「それにしても、あんたたち、けっこう強そうだったのに、だれにこんなにもボコボコにやられたのよ。あんたの子分から聞いたけれど、ロボットの足軽たちも全部やられたそうね」

 いくら武士のDNAを受けつぐ偉人のたまごたちでも、子どもが実際に切りあいをしたら危ないということで、合戦ごっこでおもに戦うのはロボットの兵士たちと原則は決められている。子どもたちは合戦の指揮をとり、ロボットたちはその命令に従ってドンパチやりあうわけだ。でも、ロボットたちがみんなやられて戦力を失うと、今の義元くんたちみたいに敵のロボットたちにおそわれてケガをするのだ。……玄白くんがそう教えてくれた。

「織田信長だよ。昨日の夜、逃がしてしまったから、夜明けとともにあいつが占領している食堂を攻撃しようとしたんだ。だが、逆に不意打ちをされて、あっけなくやられてしまった。ちくしょう、油断したぜ」

「そうなんだ。信長くんが……」

 あいつ、サムライ学部の署名集めは任せておけとか言いながら、何をやっているのよ。まさか、私との約束を忘れて、合戦ごっこに明け暮れているんじゃ……。

 ――署名活動が成功したら、なぎこはオレの彼女になる。

 ち、ちがう! ちがう! そっちの約束じゃない! その約束は無効!

「なぎこちゃん、なぎこちゃん」

 香子が私の耳に口をよせて小声で話しかけてきた。

「何? どうしたの? トイレにでも行きたくなった?」

「ちがうよ。そうじゃないってば。ここで署名活動しようよ。玄白くんや鴎外くん、義元くんと子分の人たちがたくさんいるんだもん。ただでさえ時間がないのに、ゆっくりおにぎりを食べている場合じゃないよ」

「香子の言う通り、ここでなら署名を大量ゲットできるわね。……よし、だったら始めますか。みんなぁ、ちょっと私の話を聞いてー!」

「なんだ、なんだ?」

 玄白くんと鴎外くんだけでなく、義元くんたちサムライ学部の生徒も私に顔を向け、耳をかたむけてくれた。人の話をまったく聞かないとサムライ学部の子たちも、負けいくさの後だからだろうか、ずいぶんと大人しい。

 私は、授業の改善を学園に求めるための署名を集めていることをみんなに説明して、同じ意見ならぜひ名簿にサインをしてほしいと頼んだ。

「さ、サインします! 僕、名簿にサインします! いいえ、させてください!」

 将来の夢は小説家なのに医学部に入れられた鴎外くんが目をキラキラさせながら、大はしゃぎでそう言った。私が学園に授業の改善を訴えようと決心した直接の原因は、国語の勉強がしたいのにさせてもらえない鴎外くんのなげきを聞いたからだ。彼が積極的に協力してくれるのは、私としてもうれしい。

「あ、あの……。サムライ学部のみなさんもサインお願いします。……嫌じゃなかったら」

 香子が私の背中に隠れながらおどおどとそう言うと、義元くんとその子分たちはあっさりと署名してくれた。

「いちおう言っておくけれど、これにサインしても香子はあんたたちのだれともつきあったり、デートしたりとかしないからね」

 合戦ごっこのことしか頭にないサムライ学部の生徒たちがあまりにも簡単にサインをしたので、怪しいと思った私は義元くんたちをギロリとにらんでそう釘をさした。信長くんという前例があるから、警戒してしまったのだ。

「分かっている。そんなせこいことを考えるやつはサムライ学部にはいない」

 義元くんがムッとした表情でそう言った。いや、いるのよ。約一名。

「信長に負けて、僕たちは目をさましたのだ。信長は、夜明け前に降った通り雨にまぎれて僕たち今川軍の後ろにまわりこみ、僕がいた本隊をおそってきた。信長の子分の中に空の雲を見て天気予報ができるやつがいて、雨が降ると予測したうえであんな作戦を実行したにちがいない。本当の強さとは、戦ってばかりでは手に入れられないことがおかげで分かった。もっといろんなことを勉強して、たくさんの知識を自分のものにする必要がある。少ない知識だけでは、広い視野を持つことができないからな。だから、授業の改善に賛成するんだ」

 少ない知識では広い視野が持てない。……つまり、ものごとを考えたり決断したりする時、頭でっかちなことばかり考えちゃって、失敗してしまうということね。へえ、義元くん、けっこういいことを言うじゃない。

「疑って悪かったわ。じゃあ、時間割が改善されて、体育や武術以外の授業もできるようになったら、合戦ごっこばかりやっていたらダメよ?」

「ああ。分かっている。授業でたくさんの知識を学ぶさ。そして、今度こそ信長に勝つ」

「いや、だから、ケンカはもうやめときなって……」

何はともあれ、義元くんと子分たち二十一名、そして、鴎外くんの署名をゲット!

 後は玄白くんが署名してくれたら……。おや? 玄白くんは何やら悩んでいる?

「う~む……」

「あ、あれ? もしかして、玄白くんは時間割が変わっちゃうのには反対? やっぱり、お医者さんになるための勉強だけをしていたい?」

「いえ、僕も、オランダ語の医学書を日本語訳した初代・杉田玄白をみならって、中等科や高等科に進学したらいろんな国の言葉を勉強して世界中の医学書を読めるようになりたいと思っているので、授業の選択肢が増えるのは歓迎です。ただ……」

「ただ、何……?」

「署名を集めても、あの副学園長先生が約束をちゃんと守ってくれるのかが心配でして。ほら、いろいろと黒いウワサがある人じゃないですか」

 たしかに、藤原道長先生は、自分と敵対する先生を次々と辞めさせて副学園長の地位にのぼりつめた。……生徒たちの間ではそうウワサされている。私だって、副学園長の言うことをまるっきり信じているわけではない。でも……。

「何もせずに後悔の涙を流すより、がんばってそれでもダメだった時に流すくやし涙のほうがカッコイイじゃない。だから、私と香子はこうして行動しているのよ」

「なるほど。分かりました。清少納言先輩が、そこまでの決意で署名活動をしているのなら、僕も協力しましょう。医学部の仲間たちで名簿にサインしてくれる生徒を鴎外くんと手分けして探してみます。……ですが、副学園長先生にはくれぐれも気をつけてください。署名活動を失敗させようと妨害をしてくるかもしれませんから」

 玄白くんは名簿に「医学部初等科五年 杉田玄白」と書きながら、私にそう忠告してくれた。……妨害って、どんなことをするのかしら? 想像もつかないけれど、いちおう気をつけておいたほうがよさそうね。

「分かったわ。覚えておく」

 私がそう言ってうなずいた時、病院の外がさわがしくなってきた。「痛い、痛い」と苦しむ声が聞こえてくる。

「な、何⁉ またケガ人なの?」

 ビックリした香子が私に抱きついた。私もギョッとして体をこわばらせる。

 すごい数なのだ。運びこまれてくるケガ人の人数が。

 「ぎゃー! 痛い~!」「うげー! あ、足が、足が~!」「早く治療してくれ~!」などと、ボロボロになった鎧すがたのサムライ学部の生徒たちが五十人近く担架でかつぎこまれ、まるで戦争映画のワンシーンのような光景が目の前に……。

「う、う~ん……」

 あまりにもショッキングだったのだろう。香子は目をまわして倒れかけた。

「あっ、香子! だ、大丈夫?」

 わたしは、慌てて香子の体を支える。その横では、玄白くんが顔を青ざめさせていた。

「あんな大人数、どうやって治療したらいいんだ……」

「げ、玄白先輩! お、応援を……他の医学部のみなさんの応援を頼みましょう!」

 鴎外くんが玄白くんにそう言った。でも、玄白くんは「ダメだ……」と首を横にふった。

「みんなも患者の手当てにおわれている。応援を頼んだら、こっちこそ応援がほしいと言われてしまうだろう。ああ、まったく……猫の手も借りたいいそがしさだ」

「猫の手は無理だが、われら平家一門が手を貸そう!」

「え? その声は……」

 私たちがふりむくと、水色の患者服を着た少年がたくさんの仲間をひきつれて現れた。その少年は私がよく知っているあの人だった。

「平清盛くん!」

なぎこ「次の投稿予定は8時よ! ついに平清盛くんが登場! 清盛と聞いたら松山ケンイチを思い出すわよね~」

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