第1話 糞を頂戴いたします
夕暮れ時の住宅街。電柱に止まるカラスが、下校中の学生を見下ろしていた。
「ーーで、俺最近異世界系のアニメにハマってんだけどよ~」
「またその話?俺、アニメとか興味ないんだって」
友人の話を軽く流しながら、小崎 司は手に持っているスナック菓子を口へ運ぶ。
「ーーお前聞いてんのか~って、なんだけ、そのお菓子。それそんなに美味いか?」
「暴虐ハバネロだよ。この辛さが癖になるんだよね」
友人がニヤリとからかうように笑いながら司の顔を見つめる。
「そんなに食ってると腹壊すぞ~」
「わかってる。わかってるんだけど止められないんだよね」
友人が思い悩んだようにため息を溢して空を見上げて口を開いた。
「俺らもう高二じゃん?そろそろ進路決めねぇとな~」
「俺なんも考えてないや」
そんな雑談をしながら下校していると、腹が嫌な音を立てる。友人は予想が当たったと挑発的な顔で司の顔を覗き込む。
「ーーちょっとトイレ行ってくる」
友人はやれやれと言った様子で首を振りながら苦笑いをする。友人を置いて、司は公園のトイレに駆け出した。ジャリジャリと公園を駆ける度に音が鳴る。友人は公園の花壇の縁へ座ると、ポケットから取り出したスマホをいじり出した。
普段は青く冷たい印象を持つ公園のトイレは、夕焼けに当てられて橙色に染め上げられている。入口付近の閉め忘れられた蛇口から、ポタポタと水が垂れている。
ーーギュルルルルルルル
腹がさっきよりも大きな音を立てる。今にもそこからブツがでそうな司は、必死に尻を引き締めている。今にも外れそうな個室の扉を開くと、カバンも下ろさずに便器へと座り込んだ。司はひと安心して、安堵の声を漏らす。
「間に合ってよかった……」
「ーー私スカルトロールと申します。突然申し訳ないのですが、糞を頂戴いたします」
突然の出来事。背後から司の耳元でダンディな声で囁かれた。司は驚いて緩めた尻を反射的に強張らせる。背後を見る余裕はないが、そこに誰か1人でも立つことはできないことは分かっていた。その衝撃で司の思考が一瞬止まる。その瞬間、司の尻に激痛が走る。
「イダイイダイイダイイダイイダイイダイッ!」
思考する間もなく叫び声を上げる司。その声に混じりながら、べちょべちょと何かの垂れる音が聞こえる。それは、司の尻から止めどなく垂れる異常な量の血液と糞尿だった。
尻の穴が何か鋭利なもので裂かれている。肛門付近の筋肉もズタズタに裂かれ、力を入れられる状況ではない。
「アア゛ーーッ!」
司の魂からの叫びも虚しく、外の友人には聞こえない。強烈な痛みで意識が朦朧とするなか、必死に逃げようと身体を前に倒す。すると、個室の扉が体重により押し倒された。
司は意識の朦朧とする中、個室の扉と共に倒れると身体中が暖かい日の光に当てられた。鳥の鳴き声が飛び交い、水の流れる音が響く。しかし、考える間もなく司の意識の途絶えた。
「ーーちょっと、あなた大丈夫……?」
* * * *
ツカサが目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。背中は柔らかい感触があり、丁寧に毛布までかけられていた。少なくとも公園のトイレでないことは理解できた。
「ーーここはどこだ?」
ツカサが声を上げると、コツコツと右側から木製の床を歩く足音が聞こえてきた。
「よかった、気が付いたのね。魔法で傷は塞いでおいたけど、痛みはあるから安静にね」
ツカサの目の前に歩いてきた少女は、光を反射するほど綺麗で、肩まで伸びた金色の髪をしていた。




