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氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~  作者: 雨宮羽那
第4章

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33・押しかけ調査


 アリスと話した日の夜。

 私は足音を立てないようにして、シリウス様の部屋に向かっていた。


 理由はもちろん、シリウス様の好きなものを探るためである。


 (帰りが一緒なら、その時に探りを入れられたんだけど……)


 あいにくシリウス様は仕事が立て込んでいたようで、帰りは別々だった。

 シリウス様が屋敷へ戻ってきたのはつい先ほどのことだ。

 

 (待っていたら、まさかこんな時間になるなんて思わなかった……)


 窓の外はすっかり暗くなり、夜のとばりが降りている。

 普段なら、もうベッドに横になっている時間だ。


 こんな時間にシリウス様の部屋を訪れて迷惑ではないか、という心配はもちろんある。

 けれどそれよりも、早くシリウス様の好きなものを知りたいという気持ちの方が勝っていた。

 私がこうも焦ってしまうのは、結婚式の日が近づいてきているからだ。

 出来れば、結婚式の日までに想いを込めたプレゼントを渡したい。

 

 (……お疲れのようだったら出直そう)


 そう自分に言い聞かせながら、私は真っ直ぐに廊下を進んでいく。


 やがてシリウス様の部屋の前までたどり着き、私は一度深呼吸をしてから扉をノックした。


「シリウス様、セレフィアです」


「どうぞ」


 すぐに返ってきたシリウス様の声に、私はゆっくりと扉を開ける。

 シリウス様は机に向かい、書類へ視線を落としてペンを走らせていた。

 

「こんな時間にどうしました?」


 机から視線を上げずに問うシリウス様の声はいつも通り落ち着いたものだった。


「少しお話できればと思ったんですが……」


「構いませんよ。ただ……少しだけ待っていただけますか」


 (そう言ってくれるのはありがたいけど……)

 

 私はちらりと机の上に視線を向けた。

 机の上には、書類が山のように積まれている。どう見ても忙しそうだ。

 これは早々に退散すべきだろう。


「あっ、いいえ、お忙しいならまた明日でも大丈夫ですので……!」


 私がシリウス様の申し出を辞退しようとすると――。


「待っていただけますか」


 シリウス様が有無を言わせぬ口調で言葉を重ねてきた。

 何故だろう。口調は丁寧なはずなのに、声音から静かな圧を感じる。

 まるで、逃がさないとでもいうような……。


「……はい」


 私は観念して頷くしかなかった。


「そこのソファに座っていてください。すぐ終わらせますので」


 シリウス様に示されたソファへ、私は大人しく腰を下ろす。

 そういえばこのソファは、この屋敷へきたばかりの頃、指を怪我した私の手当てをしてもらった場所だ。

 

「すみませんね、ここのところ事件の報告処理が相次いでまして」


 シリウス様はペンを走らせながら、申し訳なさそうな色を声ににじませた。

 

「事件?」


「アステリエは比較的治安がいいんですけど、平和ボケしてきているのか『攻撃魔術を理由もなく街中で使用してはいけない』という初歩の決まりを守れない人間が増えているんですよ。取り締まり強化をしなければなりません」


 攻撃魔術は、一種の武器である。

 かつての戦争では街中で兵器として用いられ、多くの命が犠牲になった。

 今は平和になったとはいえ、街中で不用意に放てば一般市民を巻き込む危険性がある。

 そのため平時では、攻撃魔術の軽率な使用は威力の大小に関わらず禁じられているのだ。


「そちらの対応に追われたせいで、公爵としての仕事が立て込んでまして」

 

「お疲れ様です……」


 魔術師長をつとめながら公爵も、となるとやはり大変そうだ。

 シリウス様は再び仕事に集中し始めたのか、静かになってしまった。


 (私、本当にここにいてもいいんだろうか……)


 仕事の邪魔をしていないか、非常に心配だ。

 だが、シリウス様が許可してくれている以上は大丈夫なのだと思い込むしかない。

 それに恐らく、気を遣って自室に戻ろうとしたところで、先ほどのように引き止められて終わる気がした。


 (せめてこの間に、部屋からわかることはないかしら)


 一般的に、自室にはある程度の好みや傾向が出るものだ。

 私はこっそりと、部屋の中へ視線をめぐらせてみる。

 やはり一際目を引くのは、本棚に収められたたくさんの魔術書だ。

 それ以外に目立つ私物はこれといってなく、せいぜいわかるのは綺麗好きで几帳面といったことくらいだろうか?


 (うーん……めぼしい追加情報がない……)


 考え込んでいると、シリウス様がふと思い出したように口を開いた。

 

「……そういえば、結婚式の招待客についてですが……。急な日程となってしまったのでごく一部の方のみでもよろしいですか?」


「あ、はい……! それで十分です」


「では、そのように進めておきますので安心してください」


 手元では作業を続けたまま、シリウス様は淡々と話している。器用なものだ。


「それと……ドレスはどうされますか。私のせいで、保留にしてしまったのでしょう?」


 (……あ。そういえばそうだった)


 ドレスのデザインについての返答を保留にしていたことをすっかり忘れていた。

 確か、エリゼ様からは「気持ちが落ち着いたら連絡して」と言われていたはずだ。


「もし別のものにしたければ、再度エリゼを呼んで――」


 別のものに、というシリウス様の言葉に、胸の奥がきゅっと苦しくなったような気がした。

 ドレスを試着したときに心が浮き立ったのを思い出してしまったからだ。

 

 あのドレスならば、シリウス様の隣に胸を張って立てると思えた。

 けれど、シリウス様はどう思ったのだろうか。

 私はあのドレスを着て、隣に立っていいのだろうか。

 それをどうしても確認したくて仕方がなかった。

 

「――あのドレス、似合っていましたでしょうか」


 勇気を振り絞って尋ねてみる。

 シリウス様の手がぴたりと止まった。

 顔を上げたシリウス様と目が合って、私は緊張で呼吸を止めてしまう。

 だが、それは一瞬のことだった。


「なにをいっているんです。当然でしょう」


 シリウス様は躊躇(ためら)うことなく告げてくれる。

 迷いのない言葉に、私の胸の奥がふっと軽くなっていく。


「……! それなら、あのデザインで作成してほしいと、エリゼ様にお伝えしてもらってもいいですか」


「わかりました。そのように伝えましょう」


 シリウス様はそう答えると、再び無言でペンを走らせる。

 規則正しいペンの音と、時折響く紙の擦れる音が、なんだか心地よい。

 次第に私のまぶたがじんわりと重たくなっていく。

 あまりにも居心地が良くて、このままだとうたた寝してしまいそうだ。

 

 (……少しだけ。ほんの少しだけならいいかしら――)


 寝る支度もすでに済ましているし、少しくらいなら……。

 そんな甘い誘惑に抗えず、私の意識はゆっくりと沈んでいった。

 


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