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氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~  作者: 雨宮羽那
第3章

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30・伝えられずに腕の中


 シリウス様から告げられた言葉に、私はきょとんとしてしまった。

 そんな話、聞いたこともない。


「ええと……そうだったんですか……?」


「……まさか、ご存知なかったんですか? お父上から話は聞いていませんか?」


 首を傾げながら言うと、シリウス様は予期していない返答だったのか疑問をあらわに眉をひそめた。

 慌てて、自分の知る限りの状況をシリウス様へ説明する。

 

「……少し年上の貴族の男性との縁談が決まった、とは父から聞きましたけど、名前までは……。それにその後すぐに父が亡くなって、それどころではなくなってしまいましたから……」


「……なるほど」


 話しながらもよくよく考えてみれば、シリウス様は私よりも5つ年上で、おまけに公爵家出身なのだから貴族だ。

 父が持ってきた縁談相手の特徴と一致はしていた。


「最初の縁談の後も、数え切れないほどバクスター家へ縁談を送り付けて全部断られたんですけど、それは?」


「……知らないです」


 (どうして私は、そんな大事なことを知らないんだろう)


 なんだか胸がざわつく。

 考えなければいけない気がするのに、シリウス様の近さに気を取られてしまって頭が上手く回らない。


「……ともかく。何度も縁談を断られ、諦めて独身を貫こうと考えていたら、あなたが魔術省の事務官として私の近くへやってきました」


「……!」


 シリウス様の声にはっとして顔を上げると、シリウス様は当時を思い出しているのか、小さく息を吐いていた。


「せめて上司として見守ろうとか思っていたら、陛下からは結婚をせっつかれて余計なことをされるわ、偶然あなたが引き取られた先の家で搾取されていると知るわで見守っているどころではなくなりましてね」


 (偶然知った?)

 

「……これは最後のチャンスだと思ったんですよ。あなたをあの家から助けるという名目なら、私の縁談を受けてくれるかもしれない、とね」


 てっきり、私に契約を持ちかけるために調べたのだと思っていた。

 そうではなく、私のバクスター家での扱いを知って、そこから救い出すために契約を持ちかけてきていたのか。


「初めて知りました……」


「言葉にしたのは初めてですからね。というか、私の好意は伝わっていたんですか?」


「……いいえ」


 正確に言うならば、それなりに好印象を持ってくれているんだろうな、くらいには伝わっていた。

 ただそれが、恋愛的な好意と結びついていなかっただけだ。


「……結構分かりやすく好意は示していたつもりなんですがね……」


 シリウス様は少し肩を落として息を吐いていた。

 

「わざわざ時間のかかる馬車移動を毎日しているのも、あなたに色々な贈り物をしているのも、全部あなたが好きだからですよ」


「え……っ!?」


 シリウス様から唐突に告げられた言葉に、胸の奥がどきりと跳ねる。

 

 (意味がわからないと思っていたシリウス様の馬車移動、そういうことだったの!?)


「あなたと少しでも一緒に過ごしたかったですし、あわよくば好きになって欲しいからに決まっているじゃないですか」


 (なんでこの人、恥ずかしげもなく言ってくるの!?)


 完全に吹っ切れたようで、シリウス様に羞恥はないらしい。

 こちらはあまりの恥ずかしさに、顔も身体もすべてが火を吹いたように熱いというのに。

 これでは不公平だ。


「な、なんで今日まで黙っていたんですか……っ」


 もはや涙目になって訴えると、シリウス様は即座に答えてきた。


「言えるわけがないでしょう。こちらは縁談話を断られているんです。あなたに嫌われている可能性を常に考えてきた。せっかく結婚できるところまで漕ぎ着けたのに、好意を伝えて逃げられでもしたら泣くに泣けません」


「そんな、嫌ってなんて……!」


「……そうなのですか?」


 シリウス様がさらに一歩、私へと距離を詰めてくる。

 いつの間にやら腰に手が回されていて、逃げられなくなっていることにようやく気がついた。


 (〜〜っ!?)


 見上げれば、とんでもなく近い位置にシリウス様の整った顔があって、私は声すらも出せなくなってしまう。

 

 シリウス様はすっかり余裕を取り戻してしまったようだ。

 顔を真っ赤にして混乱している私を見て、シリウス様はなんとも言えない色を瞳に浮かべていた。

 嬉しそうな、何かの衝動を堪えているような、そんな色。


「……あまり、可愛い反応をしてはいけませんよ。調子に乗って、自分に都合のいい勘違いをしてしまいそうだ」


 その声も、瞳も、何もかも。見たことがないほど優しいものだった。


 本当は、私も好きだと伝えたい。

 胸の奥でなんども言葉はせり上がってくるのに、あまりにも胸を打つ鼓動が早すぎて声にならなかった。


 というか、恋愛経験の(とぼ)しい身からすると、シリウス様の接触があまりにも刺激的すぎてパニック状態だ。


「……シリウス様は、ずるいです……」


 どうにかそれだけを口にして、シリウス様の腕にしがみついた。

 この場から逃げ出したいほど熱くて息苦しいのに、逃げたくない。

 まるで熱を出している時のようだ。全身が熱くて、なんだかくらくらする。


「セレフィア」


「え……っ」

 

 名前を囁くように呼ばれた瞬間、私の腰に回されていた腕にぐっと力が込められた。

 そのままシリウス様の胸の中へ抱きしめられる。


「こちらはずっと我慢してきたんですよ? あなたが許してくれそうだと思ったら、歯止めが聞くわけないじゃないですか」


 耳に落とされる声があまりにも甘くて、逃げ場がなかった。

 否、この人はおそらくもう、逃げることを許してくれない気がする。


「私のことが嫌いでないのなら、このまま大人しく抱きしめられてください」


「は、い……」


 上手く自分の気持ちを言葉に出来ないもどかしさを感じながら、私はシリウス様の腕の中に包まれていた。

 


 

 

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