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氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~  作者: 雨宮羽那
第2章

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17・魔術師長、爆買い中


 マーサと共に身支度を整えたあと、私はシリウス様の部屋の前に立っていた。

 なんだかそわそわとして落ち着かない。

 扉の前で深呼吸を一つすると、私は扉を軽く叩いた。

 

「シリウス様、セレフィアです。外出の準備ができました」


「わかりました。今行きます」


 扉の外から声をかけると、シリウス様はすぐに部屋から出てきた。

 私の姿を認めたシリウス様は、動きを止め、じっと見下ろしてきた。

 琥珀と薄水色のオッドアイが真っ直ぐに私へ向けられる。

 

「ど、どうしました?」


 シリウス様にまじまじと見られては緊張してしまう。

 

「そのドレスは?」


「これはマーサが貸してくれたのもので……」


「……なるほど」


 シリウス様はふむ、と顎に手を当てて、なにやら考え込む仕草をしている。

それから、私が困惑していることに気づいたのか、シリウス様はわずかに目を細めた。


「いえ。先週の水色のドレスも似合っていましたが、その色も似合いますね」


「……!?」


 シリウス様からさらりと告げられた言葉に、私は思わず目を見開いてしまった。

 

 (! この人先週に私が着ていたものを覚えている!?)


 今のドレスを褒められたことよりも、先週着ていたドレスの色を覚えられていたことに驚きを隠せない。


 (……シリウス様って、結構私のことをよく見てる……?)


 その可能性に気づいてしまい、一瞬で信じられないくらい頬が熱くなる。


 (どうしよう。顔があげられない)


「……今日の参考になります」


 (……参考?)


 うつむいてしまった私の上へシリウス様のつぶやきが落ちてきて、私は小さく首をひねった。


 

 ◇◇◇◇◇◇



 馬車の中、いつものようにシリウス様と向かい合わせに座る。

 窓の外を流れていくのは、見慣れはじめた通勤ルートだ。

 恐らく城下町の方へ向かっているのだろう。


「シリウス様、行きたい場所があるとおっしゃっていましたけど……具体的にどちらへ向かうおつもりなんですか?」

 

「何件か、店を回りたいと考えておりまして」


 (……意外)


 シリウス様の部屋に以前入ったが、部屋にあるのは本ばかりだった。

 そのせいもあるのだろう。

 勝手なイメージだが、シリウス様は必要なもの以外に興味を示すタイプでは無いと思っていた。


「へぇ……。何か買われるんですか?」


 興味本位で尋ねてみる。

 シリウス様が私を連れだってまで行く店にも、買おうとしているものにも興味が湧いたのだ。

 

「……あなたへの贈り物を購入したいと思いまして」


「贈り物……?」


 (なんで……?)


 気持ちはありがたいが、私の誕生日はまだ先だ。

 贈り物をされる理由が思い当たらず、ただ瞬きを繰り返す。


 その時、シリウス様がふと窓の外へ視線を向けた。

 いつしか馬車は、城下町の大通りを走っている。

 

「止めてください」


 シリウス様の声に、御者が馬車を止める。

 迷うことなくシリウス様は馬車から降りると、私へ手を差し出した。


「降りましょう」


「は、はい」


 差し出された手を借りて、私も馬車から降りる。

 シリウス様の視線を追うように、私もそちらへと目を向けて……思わず息を飲んだ。


 通りに面したその店は、外壁が淡いクリーム色の石で統一され、扉や窓枠には繊細な金の装飾が施されていた。

 大きなショーウィンドウの中には上質そうな布地のドレスが飾られ、店先の花壇には季節の花々が静かに揺れている。


 派手さはないのだが、品が良い店構えをしていた。


 (ひえええ……お店の外観だけでわかるわ……! このお店絶対高い……!)


 そんな私の動揺を知ってか知らずか、シリウス様は店の扉を押し開ける。

 

「入りましょうか」


「えっ!? ま、待ってください!」


 慌ててシリウス様を追いかけ店内に入ると、かららんと軽やかなドアベルの音が響いた。


 ピカピカに磨かれた床に、ほのかに甘い香水の香り。

 いかにも高級店といった空気に、思わず気後れしてしまう。

 

「いらっしゃいませ。……っまぁ! 魔術師長様!?」


 シリウス様の姿を一目見た瞬間、奥から現れた店員の表情がぱっと華やいだ。


「本日はどのような御用向きで!?」


 店員は、愛想のいい笑みを浮かべながらすぐさま距離を詰めてくる。

 上客を逃すまいとしているのだろう。


 (さすが魔術師長……。有名人……)


 店員とシリウス様が会話をしている間に、私は店内へきょろりと視線を巡らしてみた。

 壁一面にはショーウィンドウに飾られていたような質のいいドレスが並び、店内に置かれたガラスケースには、繊細な細工の装飾品が整然と並べられている。

 どこからどう見ても、女性向けのブティックだ。


 (あ、この髪飾り可愛い)


 興味を惹かれるものばかりで、つい浮かれてしまう。

 こういう華やかなものは、見ているだけで楽しいものだ。

 店内にある商品に私が気を取られていると――。

 

「すみません、こちらの方に合うサイズのドレスを一通りお願いします」

 

「……一通り!?」


 シリウス様がとんでもない発言をしていた。


 (何言ってるの、この魔術師長様!?)


 慌てて髪飾りから視線を外し、シリウス様を振り返る。

 しかし、私が止める間もなく店員は私の腕をがしりと掴んだ。


「かしこまりました。では試着室に参りましょうね! 採寸いたします!」


 店員は私の返事も待たず、ぐいぐいと腕を引いてくる。


「え、えええ……!」


 そのまま強引に試着室へ連れていかれ、あれよあれよという間に採寸が始まった。

 てきぱきとメジャーで測っていく手際の良さに、抗議する隙すらない。


「こちらのドレスなんていかがですか!? 最近入荷したばかりのデザインなんですよ!」


「じゃ、じゃあとりあえずそれを着ます……」


 店員の圧に断ることも出来ず、流されるまま試着する。

 着替え終えると、店員はぱんと手を叩きながら満面の笑みを浮かべた。


「まぁ! とっても良くお似合いですわ! 魔術師長様にも見ていただきましょ!」


 勢いそのままに、背中を押されるようにして試着室の外へ連れ出される。

 

 試着室を出てすぐのところには、シリウス様が立っていた。

 腕を組んだまま、着せ替えられた私を上から下までじっと見つめてくる。

 その視線はいつものように淡々としたものだ。

 なのに私は、シリウス様にどんな反応をされるのかが気になって仕方なかった。

 思わず呼吸を止めてしまう。


「良いですね。それに似合いそうな小物も一式お願いします」


「はい! もちろんですとも!」


「シリウス様!?」


 シリウス様は私が止める間もなく、しれっと会計を済ませてしまった。

 店員は上機嫌で、次から次へとドレスや小物を梱包していく。


 私はシリウス様の服の裾をぐいぐいと引っ張った。


「何考えてるんですか、シリウス様! お気持ちは大変嬉しいですが、こんなに必要ありません!」


 店員の前ということもあり、聞こえないように小声で精一杯の抗議をする。

 しかし、シリウス様は表情一つ変えず、ちらりと私を一瞥(いちべつ)しただけだった。

 

「あなたこそ何を言っているんですか。私が勝手に贈り付けているだけのこと。大人しく受け取りなさい。あなたが使う使わないは自由だ」


「そういう問題じゃないです! ものには限度というものがあってですね!」


 そんなやり取りをしていると、店員が山のような量の箱を抱えて戻ってきた。

 一人では持ちきれなかったようで、何人もの店員がやってきている。


「お待たせしました〜! 馬車までお運びいたしましょうか?」


「結構」


 シリウスが軽く指を動かすだけで、箱がふわりと浮かび上がった。

 扉まで勝手に開き、箱は自分で馬車へと向かっていく。


 (……便利すぎる)


 あまりの事態に私は放心状態だった。

 もうどうにでもなれ、という心地だ。

 

「さて、別の店へ行きましょうか」


「えっ!? まだ行くんですか!?」


 思わず声が裏返ってしまった。

 この一店舗だけでも心身に十分すぎるほどのダメージを食らっているというのに、まだ続くという事実を受け入れたくない。

 シリウス様は私の反応など意に介さない様子で、さっさと店の出口へ向かっていく。


「安心なさい。次で買うものは一つだけです」


 (……安心できないのはどうしてだろう)


 そこはかとなく不安を感じる……。

 

 ぐったりしながら店の外へ出ると、シリウス様が私の名を呼んだ。

 

「セレフィア」


「はい……なんでしょう……?」


 返事の声に覇気がないのが自分でもわかる。


「次の店は馬車では行けない場所にあります」

 

「へぇ……。じゃあどうやって行くんですか?」


 問いかけるものの、シリウス様はすぐには答えない。

 ただ静かに、私の方へと向き直った。

 

「……あなたに触れる許可をいただいても?」


「? どうぞ」


 (触れるって、どこへ?)

 

 意味は分からないが、とりあえず頷く。

 触れる、と言っても、馬車から降りた時のように手が触れる程度の接触だろう。


 そう考えていると、シリウス様が私の方へ一歩近づいてきた。

 

「失礼」


 シリウス様の短い言葉が聞こえた次の瞬間、私の身体がふわりと浮く感覚に包まれた。

 シリウス様が、私の身体を横抱きに抱えあげたのだ。

 


 


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