モンスターアタックその1
異世界6日目。
5日目は武器を買って普通に仕事をして終わったから省略させてもらう。
「おやじさん、お世話になりました!」
「いいってことよ。こいつは馬車の中ででも食えよ」
紙の包みを一つもらった。
握り飯だろう。
「それと、こいつを頼まれてくれねぇか?」
手紙を渡された。
「かみさんへの手紙だ。途中に寄る村で渡してくれ。無理なら渡せなくてもいい」
おふくろさんの特徴を聞き、必ず渡すと約束した。
「それとよ。あのブレスレットだが……お前がやったのか?」
おやじさんはひそひそと耳打ちするように聞いてきた。
「はい……なにかまずかったですか?」
「いや。事前に報告がなかったのはいろいろとアレだが、まぁ……許す!」
と背中を思いっきり叩かれた。
そして何やら満足した笑顔を向けてくれる。
悪い気はしないが、何か引っかかるな。
「ミカちゃんにも本当にお世話になったよ」
「う、うん……」
結局、最初に会った天真爛漫な性格には戻らず、よそよそしい感じでお別れになってしまう。
実に名残惜しい。
この前のお姉さんの事件があったせいだろうか。
それとも俺の下半身充血事件なのか?
謎が謎を呼び、俺たちを闇の迷宮に引きずり込んでいく!
「次回!悠久の水の都マクガンでの再会! 君は真実に辿り着けるか!?」
「あ、あはは。なにそれ?」
「今度会うときは王都までの苦難、王都でいかに成功したのか、その他もろもろの武勇伝を引き下げて凱旋すっからヨロシクだぜ、ミカちゃん!」
「うん!待ってるよ」
そういうと、ミカちゃんが首に腕をまわしてきて、耳たぶを舐めてきた。
突然の出来事に悲鳴を上げてしまった。
どうやらまた会えるようにというおまじないらしい。カルチャーショックだよ。
何にせよ、少しは明るさが戻ってよかったよかった。
何度もお礼をいいながらお店を後に、そしてカナドーラを後にした。
馬車に乗るというのは初めての体験だ。
乗り物酔いはしない方だが、かなり心配している。
この世界の技術からすると、荷台にサスペンション、またはそれになり代わるものはないはず。
つまり・・・
「うぅぅぅうううう~~~~」
酔った。
荷台の後部からいつでもリバースしていいように頭を出しているのだが、この体勢ですら気分のいいものではない。
当然ながら、アスファルトで舗装されているわけもなく、道がガタガタなのは当然のことだった。
「大丈夫かー?よしよし」
背中を撫でてくれる同乗者がいる。彼の名は「サト」。
外見は、クラスメイトであり、戦友でもある斎藤 聡と酷似しており、すぐに打ち解けてしまった。
ちなみに、同乗者は俺を含めて4人。
皆さん王都に行く予定らしい。
今回乗った馬車は王都に行く途中にいくつかの町や村も寄ることになっている。
勿論、草原や林の中で野宿もありうるが。
おやじさんから預かり物の用も途中で寄る村にある。
「そろそろ平坦な道に出るし、それまでの辛抱だ」
「お、おぉ・・・・・・」
そういえば、腰もなんだか痛くなってきた。
「よし、今日はここで野宿だ」
何もない野原の一角。
御者のおっちゃんがランプに火をつけて荷台に引っ掛けた。
しかし、これでは明るさが頼りない
あとは焚き火でもしないといけないな。
「当番だが、あんたから右周りだ」
テンガローハット風の帽子をかぶった兄さんを指差す。
「1計((1時間))交代。何かあれば事によるが俺を呼べ。それと、この中に魔物狩りができる奴はいるか?」
誰も反応しない。
人間相手ならなんとかならないこともないが、魔物はまだ遭遇したことがない。
グリンの攻撃的な魔法は衝撃波のみ。体重が軽い魔物なら吹っ飛ばすことならできるかもしれないが……
「自分の身は自分で守ること。自然の摂理ってわけだ」
説明が終わると、御者のおっちゃんは荷台に寄りかかり、寝る体制になった。
他の同乗者も横になった。
「んじゃ後はよろしく!」
サトは1番目の当番のテンガローハットの兄ちゃんに挨拶すると、これまた寝る体制になった。
兄ちゃんも手を挙げてそれに応えた。
皆さん、これってキャンプファイヤーとまではいかないが、いろいろ身の上話をするようなイベントじゃないんですか?
「リュウスケも寝とかないともたないぞ!」
「あ、あぁ……」
そういや交代制で見張りするんだったな。
しかし起きれるのか?
出番になってもうつらうつらとしてそうだ。
「皆、バラバラに逃げろぉ!!死ぬぞ!!」
野太い声が聞こえる。
御者のおっちゃんだな。
もう出番なのか?
しかし『死ぬ』とは……?
刹那、黒板をおもいっきり引っかいたような爆音があたりを響かせた。
俺の頭が一気に覚醒した。
「リュウスケ!やばいぞ!“飛竜”だ!」
「はぁ!?」
サトの単語が気になったが、反射的にヤバいということは把握した。
飛竜といえば、読んで字のごとく空が飛べる竜のことをいうのだろう。
そして、大体が火球や熱光線を吐き出すタイプだ。
「そこんとこどうなのさ、グリン?」
久々に火の玉ナビに頼ってみた。
「飛竜系は、ほぼ全ての生物を捕食する危険な魔物だよ。非戦闘員が生き残る手段は散り散りに逃げるしかないよ!」
馬車に残っているのはどうやら俺だけ。馬は逃げられない。哀れ……
サトは20m離れたところで叫んでいた。
「あっちに逃げろ!あっちだぁ!」
来た道の方を指差しながら、サトも自分の逃げるべき方角へ走っていく。
再び、飛竜の泣き声が響く。かなり近い。
空を見上げてみたが、それらしい影はない。
どこに……いや、探している場合じゃないな。
「グリン、魔物との距離は?」
「索敵不可能。光を屈折させて外敵から視認させないタイプ、『カルメリオ
ン』だと思う」
「それってハンターランクいくつ級の魔物なの?」
「上から2番ってとこかな」
「無理だぁあああああああああ!!!」
冷静に考えてなんとかなるんじゃないか?と思った俺は甘かった。
ここはゲームの世界じゃない。
特別な力やアイテムを、持っているわけじゃない。
●ーブレードの勇者でもないし、経験と剥ぎ取りだけで巨大モンスターを狩れるようになる名もなきハンターでもない。
唯一のファンタジーであるグリンは戦闘向きじゃない。
無理だ!
とにかくなんとか逃げないと!
死ぬ!
このわけがわからん世界で!
俺はまだ姐さんとニャンニャンもしていない!!
死んでたまるか!
おやじさんからの仕事も終わっていない!
召喚された理由もわからん!
これからじゃないか!
それにミカちゃんとも……
「あっ……」
転んだ。
どうやら丸太に足をとられたようだ。
なんだってこの草原地帯に丸太が転がってんだよ!?
なにやら唸るような声が近づいてきている気がする。
気がするのは、その飛竜とやらが視認できないからだ。
もうだめだ。
でも……死ねない!
右手に力が込もる。
気がつくと立ち上がっていた。
なんにせよ、ここで逃げたところで生き残る可能性は未知数。
とにかく全力で逃げるのみだ。
諦める選択肢はない。
「だったら!!」
なんだってんだよ?
―――スパイラル・スパイク
脳内に謎の単語が浮かんだ。
しかし、考えている時間はない。
とにかく遠くへ逃げなければ。
しかし、全速力で逃げるべき方向とは逆方向に走っていた。
何もいないはずの空間に、やがて突き出した拳に何かが当たった。
金切り声をあげて、巨大な何かが数m先まで吹っ飛んだ。
見ると、顔はカメレオンのような飛び出た目、トカゲのような4本の足、しかし、尻尾は3本あった。
体は赤ベースの黒の虎模様。
いやそれよりも何をした?
どうでもいい。
酸素が足りない。
でも、何か心地いい。
視界が歪んできた。
空と地面が沈んだり浮いたりしている。
意識を失ったことを知ったのは、目が覚めた後だった。




