姐さん?アタック
「ね、姐さぁああああん!!」
最愛の人の顔に再び飛びつく……瞬間、今度は拳が顔面にめり込んだ。
「ウィローネ・スアイシーだ。こっちは相棒のバイローだ」
姐さんもとい、姐さんによく似た翼竜連れの女性が自己紹介をする。
顔も声もまんま姐さんなので未だに信じられない。
服装は着流しのような和服に、肩と胸を覆う戦国武将風の鎧を身に着けて、その上からベージュのマントを羽織っていた。
とても格好いい。それにつきる。
『バイロー』とは翼竜の名前で、ファンタジー物に登場するドラゴンそのものだ。
しかし、騎乗することもあって、体長は3、4mほどだ。
皮膚は角度によって、紫色や黒色に変化する。
背中に鞍をしょっていて、両側に荷物が括りつけてあった。
「清原竜輔っす。異世界人っす。こっちはグリンっす」
探索から戻ってきた火の玉を指してついでに紹介しておく。
すると、ウィローネさんは怪訝そうな表情をした。
「ん……人違いか。おっと、そのグリンとやらは“氣霊”か?」
まだ1回しか聞いたことの無い単語を出されて数秒考えてしまった。
「そ、そうっす。“綺麗”でしょ?なんつってー」
「……」
ふっ、得てしてこのすべった感もまた心地いい。
火の玉や翼竜にまで白い目で見られているのが悲しいが。
「……それで、お主はここで何をしているんだ?」
姐さ……じゃなかった。ウィローネさんに今分かっている範囲で説明をした。
といってもいきなり異世界に来て、事情もクソもないんだが。
「そうか。王都の役官が関係していそうだな。ちなみに、王都まではここから翼竜を使っても2日はかかるぞ」
『役官』っていうのは役人みたいなものかな?
なんにせよ、王都とやらに行けば手がかりはありそうだな。
「あ、あの、いろいろ教えてもらって恐縮っすけど、途中の町とか村でもいいので乗せてもらえないっすか?」
翼竜に乗ってみたい欲求もあったが、野宿なんぞ生まれてこのかた経験がなく不安だ。
情けないことに、日本の一般家庭で育った俺はこの世界で対人の喧嘩以外は適用できる気がしない。
「別にかまわんが、こいつがどう言うかだな」
ウィローネさんが翼竜の頭を撫でる。
「人見知りするやつなんだ。蹴り飛ばされなければ問題ないんだが……」
あんなのに蹴り飛ばされたらひとたまりもないな。
体重は200~300kgといったところだろうか。
とにかく、バイローとやらの心をつかめばいいいんだな。よし!
バイローの傍に寄ってみる。
体つきには似合わず可愛い目をしている。
「綺麗な目をしていますね~。メスっすか?」
直感的に思ったことを口にした。
ウィローネさんは意外な顔をした。
「よくわかったな。素人にはなかなか見分けられるものじゃないだが、やるな」
褒められちゃった、エヘ♪
「撫でてもいいっすか?」
ウィローネさんが頷く。
刹那、バイローが体当たりをかましてきた。つまり、俺は押し倒される格好になった。
痛みはなかったが、心理的には、そんな上手い具合にはいかないかと諦めかけた。
しかし、予想に反して、俺より二周りは大きい頭で器用にこちらに頬ずりをしてきた。
「クー!クー!」
どうやら気に入られたようだ。
でも俺のことは食わないでね。きっとまずいから。
それにしても翼竜の表面でフカフカしてんだなー。
「随分と気に入られたみたいだな……(私に懐くのにも時間かかったのに)」
姐さ、じゃなかった、ウィローネさんのなにか嫉妬のような声が聞こえた気がしたが……。
「よしよし。可愛いやつめ」
バイローの頭を撫でてやりながら、起き上がる。
こういう生物に気に入られるのは異世界人補正かな?
「クゥ~?」
「なんでもないよ。よしよし」
今度はアゴを撫でてやった。
気持ちよさそうに目を細めるバイロー。
何この子?チョー可愛いんだが!
「母ちゃん!この子、家で飼ってもいい?」
「……は?」
わけがわからない様子のウィローネさん。
姐さんなら「ダメだ、バキャロー!」とぶっ飛ばされるところだ。
むしろそれがいい!
空中遊覧を楽しむ感覚でバイローに乗せてもらったのだが、実際は絶叫コースターに乗っている感覚だった。
かなり飛ばしていると思ったが、「これでも王都の重役を乗せた時と同じだ」とvip待遇の速度らしい。
体感だが、120km/hは出てる。
でも大丈夫。姐さんと同じ顔をした人が嘘をつくわけがない!
それにしても、せめてゴーグルがあれば良かったなぁ。
風圧でほとんど目を開けていられず、せっかくの景色を堪能する余裕が無かった。
ただ、姐さん顔のウィローネさんにしがみついているこの状況。
浮気だとわかっていても、体がムズムズする。
いけない、いけないわぁ~~~!!
町についた。
着陸する直前、全景を見ることができた。
円形の塀の中に中世ヨーロッパ風の建造物が密集している。
「私ができるのはここまでだ。先を少し急いでいるんでな、ここでお別れだ」
ウィローネさんはバイローを着陸させ、俺を降ろすとすぐに空の彼方へ飛んでいってしまった。
バイローは一度だけ俺の顔を見て「キュイ」と寂しそうな声を上げていた。
大丈夫。きっとまた会えるさ。ウィローネさんともな。
目が合ったときにその思いを込めたが、伝わっているといいな。
こんな時、聡のテレパシーがあればなぁ~、とクラスメイトの特殊能力を羨む。
さて、気をとり直していこうじゃないか。
「グリン、ここはどんな町なんだ?」
アニメ版ポケ●ン図鑑よろしく、火の玉にナビを任せてみた。
「ここは『カナドーラ』だよ。商業が盛んで、いろんな物資・食料が世界中から集まるところだよ」
「ってことは、王都までの便があるかもしれないな」
とにかく、そろそろ日が暮れそうなこともあり、宿を探すこととしたいんだが……
「ところで、この世界のお金って持ってるか?」
「持ってないよ。ボクは情報の出力と衝撃波の魔術が使えるだけ」
「だよな~」
野宿は確定らしい。
駄目元で泊めてもらえそうな場所を探してみるか。
田●に泊まろう!ならぬ異世界に泊まろう!だなこりゃ。
しかし、宿泊先は意外と簡単に見つかった。
「おう、明日ちょっとした仕事を手伝ってくれるならいいぞ!」
日焼けした恰幅のいいおじさんの家にお世話になることになった。
働かざるもの食うべからず。
仕事の内容はおそらく力仕事だろう。
流通が盛んな町とくれば、荷物の上げ降ろしだと想像ができる。
筋肉痛確定だなこりゃ。
運動にこそ自信があるものの、体力とはまた別問題だからな。
ストレッチをして明日に備えておこう。
夕飯に、フランスパンよりさらに硬いパンをもらったが、意外にも美味しく感じたのは、朝食以降、何も腹に入れていなかったせいに違いない。
明日の働き手と思われる数人のおじさんたちと一緒に雑魚寝することとなった。
疲れが出ていたせいなのか、特に緊張することなく、すんなり眠ることができた。
もしかして、俺ってこの世界に適用できるんじゃね?




