第六話 夏休み前の束の間
──週末 正午駅前
「あっつ〜!!りんでぃまだかなぁ〜。」
「恋々、汗いっぱい。タオルあげる。」
「ありがと〜、それにしてもりこぴんは全然汗かいてないね。暑くない!?」
「恋々は代謝いい。僕、夏汗かかない。」
「そっか〜。うらやまぁ。」
しばらく待っていると、りんでぃが待ち合わせ場所へ走って来た。
「はぁっ、まじごめん!!」
「遅延っしょ〜?いいよいいよ〜!!予約時間より結構早めに待ち合わせにしといて良かったね!!」
「恋々、かっこいい。」
「え?うん、ありがと!!」
ウチらはゆりちのバイト先のカフェへ向かった。
駅から10分ほど歩いたところで、ヨーロピアン風のカフェに着く。
「ゆりちメイド服絶対似合うだろうな〜!!」
「華恋ー何それー。メイド服ー?」
「そう!ここの制服、執事服とメイド服なんだって!!」
「え!まじ!!チェキ撮ってもらおー!!」
「凛々……そういうお店じゃないと思う。」
ウチらは「たのもー!」と、カフェの扉を開けようとした時、内側から扉を開けられる。
扉の前には、モーニングコートを着た瑛汰がウチらを不思議そうに眺めていた。
「華恋ちゃん、何してるの〜??変な顔して。何、俺に見惚れてる??」
瑛汰は、ドヤ顔で「まぁ、このカッコ良さならみんな見惚れちゃうよね〜!」と扉の前でキメポーズをする。
「んなわけないだろ!!びっくりしたの!!瑛汰まで居ると思わなかったから!!」
「百合に聞いてなかったの??金沢2人で旅行行くの〜!!羨ましいでしょ〜!!」
「お土産よろしく。」
そう言い、瑛汰を避けて店内へ入る。
「わ、涼し〜!!生き返る〜。」
瑛汰に案内され、窓際の奥の席に座ると、瑛汰もウチらの席に座る。
「瑛汰バイト中でしょ〜?マジ何してんの。」
「いや〜、丁度お昼時のラッシュ終わって少し落ち着いたから、みんな居るしついでにお昼休憩貰おっかなって!!」
「自由すぎだろ!!」
4人で座って話をしていると、ゆりちがお冷とおしぼりを持って来てくれた。
「メイド服じゃないんかい!!」
「そうなんだよ〜!!俺も百合のメイド服見たかったのに、百合ふりふりとか無理って!!でも執事服の百合もカワウィッ!!」
「それな〜、似合ってる〜!!」
「ありがと、執事服は夕方に衣替えあるから面倒いのは面倒いんだけどね。」
「へぇ〜、そうなんだぁ??」
「私も店長に休憩貰ったから、一緒に食べて良い?」
「えっ!食べよ食べよ!!やった〜!!」
「瑛汰、あんたは店長に聞いて来なよ。店長休んで良いってまだ言ってないって、厨房の端でしゃがみ込んでキノコ生やしてたよ。」
「うわっ、マジか。じゃぁみんなの注文決まったらついでに言ってくるよ。」
「ウチ決まったよ〜!りんでぃとりこぴんは?」
「凛も!!」
「僕、チョコレート。」
瑛汰は、みんなの注文を聞いて厨房へ戻って行った。
しばらく待っていると、瑛汰が全員分の注文を持って戻ってきた。
「よく持てたね、ありがと。呼んでくれたら良かったのに。」
「これぐらい余裕〜余裕〜!!あ、あとこれみんなに。」
瑛汰はみんなの注文した物を並べ、クレームブリュレを追加で置いた。
「店長がサービスだって!」
「まじ!?やった〜!!ありがと〜!!」
「美味しそう。」
「で、ついでに俺も休憩貰って来たから、一緒にたーべーよー!!」
「いーいーよー!!」
りんでぃは、クレームブリュレがすごく嬉しいのか、テンション高く返事をする。
ウチはお腹空いたから、だし巻き卵サンドのセット。
りんでぃは、ホットケーキとイチゴパフェ。
りこぴんは、チョコレートリクエストだったから、瑛汰セレクトで、チョコバナナパンケーキとチョコミルク。
瑛汰とゆりちは、賄いでオムライス。
「めっちゃダシ!うまっ!!」
「美味いでしょ〜!!店長メンタル弱々だけど腕は良いんだよね〜!!」
瑛汰は、まだウチらが半分も食べないうちに完食した。
「ねぇ〜みんな修学旅行の班〜、俺入っても良い?」
「たかきょんも!?」
りんでぃは勢いよく食い付いた。
「いや、侠はサッカー部の奴らで組むって〜!!」
「じゃぁ、凛はどっちでも良いー。」
「凛ちゃん俺にも興味持って!!」
「ケッ」とりんでぃは頬を膨らませながら、パフェを頬張る。
「俺と奏英なんだけど。百合に頼んだら、みんなに頼みなって言われてさ!!お願い!!」
「僕は恋々が良いなら良い。」
「ウチは良いよ〜!!人数丁度良い感じにならなくて困ってたんだよね!!」
そう、ウチらは元々4人。
そこにB組の子達や他のクラスの子が、仲良しグループごと「班一緒になろう」と言ってくれるから、8人を超えてしまっていたのだ。
で、ウチらは未だに決まらず、どうしようかな〜って感じだった。
「じゃぁ決まり!!マジありがと〜!!奏英にも伝えとくよ。」
ウチらは存分にゆりちのバ先を堪能し、店長にクレームブリュレのお礼をして帰った。
「めっちゃ写真撮った〜!!」
「ね!ゆりちちょー似合ってたね!!」
──週明け 月曜日
「はぁ!?まじで。」
「まじで。やっぱ人数いっぱいか??」
「いや違うけど、待って。一旦G組行こう。多分来てるから!」
ウチは、幼馴染の悠貴を連れてG組へ向かった。
「なんでこんなギリギリで言うんだよぉ。電話してよ!!」
「いや、今日の朝2人班入れてないの知ってさ。2人仲良いから、バラバラになるのもなと思って譲れば2人共同じ班になれるから……」
「わかったわかった。悠貴はほんと、変わんないよね。」
昔から悠貴は、自分の損得を考えず行動してしまう癖がある。優しいのだけれど、ちょっと心配になる優しさだよ。
G組へ入り、瑛汰と奏英に悠貴の事を伝えた。
ゆりち、りんでぃはまだ学校へ来てなかったから、メッセージで了承を得た。
「りこぴんには伝えとくから。」
「うん。ごめん急に、ありがとう。」
「でも良かったの?仲良い人達と班作ってたんでしょ?」
「うん、大丈夫大丈夫!!」
ウチは、悠貴が隣のC組へ入っていくのを眺める。
ため息をつきながらB組の教室へ入り、ウチの前の席で寝ているりこぴんを起こして事情を話した。
りこぴんは二つ返事で了承してくれた。
ホームルームで、ウチユゥが修学旅行のプリントを配る。
「1枚目は、2日目の昼以降、行きたい場所候補3つ書いてくれ、今はスマホ出しても良いぞー!」
「2枚目は、班のメンバー書くのと、3日目の選択研修は個人別になるから、行きたい所選んでおいてくれ。
で、3枚目は先生が必要だと思った物をリストアップしておいたから、夏休みから少しずつ用意できる物は揃えておくように。」
「今日の午後の授業は、班のメンバーと集まって班長決め、自由研修の行く場所やルートを考えてもらうぞー。」
ホッチキスで4枚ほど纏められたプリントが回ってきて、ウチは調べていた場所を書く。
プリントは、5限目で集めるらしい。
そして午前中の授業が終わり、お昼は食堂でご飯を食べて、5限のチャイムが鳴った。
ウチらはB組の教室で、机を4つ合わせて座った。
「自由研修の計画に、ハイヤーが必要な者は今週中に申請してくれ。」
ウチユゥが頼りないのか、B組副担任の体育教師、近藤忠が監督で来ていた。
「いやぁ、すみません近藤先生。」
「内田先生、楽しみなのは良いですが。あまり羽目を外さないように。早くそのサングラスを取りなさい。」
ウチユゥは、分厚い縁のサングラスを掛け、襟付きシャツの中には、コアラと『アイラブオーストラリア』って描かれたTシャツを着ていた。
……透けて見えてるよ!!
「ウチユキおもろすぎだろ。お前らの担任当たりじゃん。」
「良いなー。D組の佐藤と変わってぇー。」
なんて、他クラスの子達の言葉が凄く刺さる。
ウチらはウチらで、ウチユゥに苦労している……
1年の少年自然の家では、登山の最中に遭難。
運動会では、欠席生徒に代わって自分が出ると言うので任せると、走り出してすぐ、思いっ切り顔面からスライディング。
遠足ではB組だけ目的地に辿り着けず……
1年の2学期までにそれだけの事件を起こしたウチユゥは、先生達からも問題児として扱われている。
ゆりち達から聞いた話によると、1年の時、文化祭ではお化け屋敷をして、1番ノリノリで生徒やお客さんを怖がらせていたのはウチユゥだったって。
各々計画を立て始めた頃。
近藤先生がウチらの元へ来て、ゆりちと奏英君の肩をぽんとたたく。
「佐藤。お前達の班に内田先生同行させても良いか?基本、自由行動では引率はないのだが……」
「うわっ。先生達凛らにウチユゥ押し付けてんじゃん!!自分達で面倒見てよ!!」
「いや、押し付けているわけではないのだが!内田先生も生徒達と周りたいと言っているし。佐藤と奏英が居るなら安心かと思ってな。」
「やっぱ押し付けてんじゃん!!」
「え〜!良いじゃん良いじゃん!ウチユキ君楽しそうだし〜!!」
瑛汰の言葉に、近藤先生は嬉しそうに「ありがとう」と言ってウチユゥの元へ戻って行った。
ゆりちと奏英君が頼りになるから……先生達も苦労してたんだね。はぁ。
近藤先生から話を聞いたウチユゥが、ニッコニコで椅子を持って来た。
「みんなありがとー!!いやぁ!!よかったよー!!僕1人でどうしようかと思ってたんだよね!!」
いつもより一際テンションの高いウチユゥは、地図の挟まったノートを出した。
地図にはびっしりペンが入っていた。
ノートには、高校生でも楽しめそうかつ自分自身が行きたい所を大量にメモしている。
「ウチユキ君おもろ〜!!めっちゃ楽しみにしてんじゃん!!俺も楽しみ〜!!コアラ好きなのぉ〜?」
「うん!そうだよ〜!!いつか生のコアラを抱いて写真を撮りたいと思っていたんだ!!」
ウチユゥは嬉しそうにグッと拳を握る。
「ゴールドコーストまでは行けないから、撫でるだけ、写真撮るだけくらいで良いなら行く?」
ウチユゥは目をキラキラと輝かせて、ゆりちの方を向く。
「いいの!?行きたい行きたい!!やったー!!」
「凛モール行きたーい!!」
「ウチもウチも〜!!」
「色々あるけど、どこのモール行きたいかは決まってる?」
「えっとねぇ、綺麗な所!!クイーン……クイーン……」
「クイーン・ビクトリア・ビルディングかな?建物かっこいい所だよね!!」
「それそれ!!ウチユゥ流石っ!!」
「おっけー、モール私も行きたい。」
「じゃぁ行こぉう!!百合が行きたい所全部俺は付き合うよ〜!!」
「みんな行きたい所行ってくれたら、ルート考えるよ。」
「ありがとう、百合香さん。」
「百合香で良いよー。急だったけどせっかく同じ班になったし仲良くしよう。気とか遣わないで良いからさ。」
「うん、ありがとう。俺ダーリング・ハーバー行きたいかな。」
「おっけー。ちょうど良いじゃん。水族館とか動物園もあるってー。」
「いいねぇ〜!!」
「うん。ダーリング・ハーバーは夜行きたいね!!写真見た感じ夜景すごく綺麗だよ!!」
「ウチユゥめっちゃ調べてるー!」
「うん!楽しみすぎて4月から動画サイトで、旅動画見漁って、気になる所を調べていたからね!!」
あっという間に6限目が終わり、続きはまた別日に詰める事になった。
「やっぱ丸々2日も自由時間あったら結構行けちゃうね。」
「だね〜!!話してたらめっちゃ楽しみになっちゃった〜!!」
「それな。一応ハイヤーは頼んどくから、ルートは夏休み明けでも良いらしい。」
「うん!ありがとう!!」
「てか、梨瑚。あんた行きたい所言わなかったけど、どこか無かったの?遠慮しないで言ってよ?」
「大丈夫だよ、ゆりゆり。僕恋々と居れたら良い。強いて言うなら、恋々の行きたい所行きたい。」
「そう、何も聞かないけど。華恋は言いたい事あるなら、ちゃんと言わないと気付かないよ。」
「うん。知ってる。」
ウチとりんでぃはB組の外で、悠貴と話していた。
「まじないわ!なんで!?悠貴が譲る必要ないじゃん!」
「ちょっと!凛音ちゃんっ!声大きいよ!!」
「だって、せっかくの修学旅行なのにっ。友達と回りたいじゃんっ!!」
「ちょっ!?りんでぃ!?」
「凛もみんなと回れないってなったらやだぁぁあ!!絶っ対、凛達1番楽しもうね。」
「ありがとう。凛音ちゃん。」
「凛音でいいよぉお。」
「りんでぃ、ティッシュ!!」
ウチはりんでぃに、ポケットティッシュを渡す。
──そんなこんなで夏休み前日
みんな、ダラけていた。
生徒だけでなく、担任教師までも一緒になってダラけていた。
ホームルームも早く終わり、ウチユゥがスイカ割りしようと突如スイカを持って来てくれたが、一発目で綺麗にスイカを割ってしまい、食べ始めたものの……すぐ食べ終わり……
やる事がない!!それならもぉいっそのこと、帰りたい!!
「みんなしりとりするー?」
「ウチユゥ。しりとりほど暇という事実を再認識させられる遊びはないよ……」
「それなー。」
「じゃぁ修学旅行の予定でも……」
「楽しみすぎてもぉ全部予定決まったー。」
「俺の班もー。」
「私もー。」
こんな状況である。早く帰りたいっ!!
「凛今日の夜から、バス乗って田舎だ。憂鬱……」
「行ったら行ったで楽しいって!!」
「私も今日からバイト漬けだわ。」
「金沢のお土産よろー。」
「あんたら夏休み中会えそうにないから、食べ物じゃない方がいいよね。」
「あ〜、そうかも。またウチ電波繋がらんかもだし。」
「華恋、また山奥ー?」
「そんなとこ〜!!でもウチは楽しみ!!あ、でもひとつ嫌な事あるわ。宿題持って行けって言われたんだよね〜。」
「うわぁ、萎えるよねー。」
「私、バイトだから先帰るねー。」
「ゆりちバイトがんば〜!!」
「はーい。」
ウチらはゆりちを見送って、しばらく教室で話した後、少し寄り道をしながら帰った。
ウチは家に着くと、すぐにスーツケースに服を詰め込む。
「華恋ー?帰ってたなら声かけてよ。」
「パパ!ただいまっ!!髭剃った!?」
「うん……華耶ちゃんに、剃った方がいいって言われてたから。」
「そっかー!!いいね!!ってゆーか。なんか、似てる??」
ウチはパパの顔を覗き込む。
「誰と?」
「平安で会った、陰陽師のお兄さんと。な〜んか似てる気がするんだよね〜。他人の空似ってやつかなぁ?」
「……うん、そうじゃないかい?昔、華恋も遊園地へ行くと、僕と間違えて違う人について行くことがよくあっただろう?」
「そんな大昔の事覚えてないよ!!」
「あの時はかわいかったなぁ〜。」
「あ、そうだ。ウチ明日行くから。ちゃんとパパの言った通り夏休みまで待ったよ!!」
「うん、わかったよ。それより華恋、スーツケースパンパンだよ?必要なものだけ持って行きなさい。」
「えー!だって泳ぎたいから水着もいるし〜、着替えも欲しいし〜。メイク道具に充電器、あと蚊取り線香!!」
「華恋、宿題は??夏休みに行くなら、宿題持って行ってちゃんと終わらせてくるって約束だったよね。」
「あ、忘れてた!!うっかりうっかり〜。」
「お約束、守れないなら次は行かせないからね。」
「はぁい、わかってるよぉ〜パパ〜!」
──いざゆかん!平安時代!!
ってことで、
「行ってきまぁ〜す!!」




