第20話 ゲンリョクと魔物達の町襲撃、狙いは
「エッジくんはいつもこんな量の鍛練をしてるの?」
その日、日が沈むまでエッジくんの鍛練に付き合ったボクはすっかり息が上がって尻餅をついていた。
「エッジでいいっすよ、そうっすね、後は寝る前に自主練とかもしてるっす」
「……すごいね」
同じだけの量の鍛練をしてもなお元気に跳び跳ねるエッジに感嘆の声を漏らす。
「……アダムくんだってまだ弓持って間もないのにそれだけ使えるのすごいっすよ! 自信持ったほうがいいっす」
「そう、かな……」
だけどエッジはキラキラと瞳を輝かせてそんなことを言ってボクの背中を叩いてくるから少しだけ照れくさい。
「これから暫く滞在するんすよね? オレずっと爺ちゃんに教わって一人で鍛練してたから楽しみっす!」
「そっか……」
そしてまた嬉しそうに大きな声でそう言うエッジに、ボクは一瞬だけマチルダさんのことを思い出して、それを忘れるように少しだけ首を振ってから一言そう返した。
「アダムくん! 鍛練行くっすよ!」
「待ってエッジ! お待たせ」
朝、もはや日課のようにエッジに急かされながら鍛練の準備を終わらせる。
「……随分と仲良くなったもんだね」
肩に弓を担いだボクがエッジを追って玄関から飛び出そうとするとマチルダさんがひょこりと姿を覗かせた。
「あ、マチルダさん……エッジは、優しいから……」
「そうかい、なら良かったよ」
「……」
相変わらず、あまり会話が続かない。
前ほどまでには距離感が遠くなくなっても、それでもボク達がするのは最低限の会話だけ。
「アダムくんのお婆ちゃん! オレじゃなくてアダムくんがいい子なんすよ! 飲み込みも早いっすからどんどん強くなるっすよー」
「……そうかい」
そんなボク達の会話に割り込んできたエッジにもマチルダさんは一言そう返すだけ。
セスさんと会ってからマチルダさんの態度はあまり芳しくないと思う。
やはり何かあったのだろう。
「……?」
「行こ、エッジ」
頭に疑問符を浮かべるエッジの手を引っ張って、ボクは家を出た。
「はー、今日もよく頑張ったっすね!」
「うん」
夕方、みっちりと鍛練した後にエッジくんはそう言って笑う。
ボクは返事を返しながら朝のことを思い出して、それから手に出来てつぶれた豆に視線を落とす。
「……ねぇアダムくん、夕食の後ちょっと付き合ってくれないっすか?」
「え、良いけど、どうしたの?」
ふと、エッジが真剣な顔でそんなこと言ってくるから顔をあげてそれを快諾する。
「行きたいところがあるんす、それは着いてからのお楽しみっす!」
エッジはそれだけ言っていつもみたいに笑った。
夕食後に各々部屋に戻るとそっとエッジが迎えに来て、誰にも何も言わずに家を出た。
「バレずに出てこれたっすねー」
「うん……でも勝手に出てきてよかったのかな……」
「大丈夫っす、いつものことっすから」
せめてセスさんには伝えるべきだったのじゃないか、そう思いながらボクが家のほうを振り返っていればエッジは笑ってそう語る。
「それよりも、そんなに遠くないからさっさと行くっすよー」
そしてエッジはあれだけ鍛練したのを感じさせない速度で走り出すから
「ま、待ってよエッジ! そんな早く行けないよ!」
ボクは慌てて追いかけることしか出来なかった。
「さて到着、ここがオレの秘密基地っす」
「わー、すごいねここ……」
エッジに案内されて着いた場所は村の外れにある森の木の上に作られた簡易的なツリーハウスだった。
「でしょでしょ! 誰か招待したの初めてなんすよ」
「これ全部エッジが作ったの?」
はしゃぐエッジに連れられて登った先には沢山の色々な道具が転がっていた。
見るからに武器だろうなってものだったり、何に使うのか分からないようなものまで沢山。
「……オレ、戦ったり武器作るの好きなんすよ」
エッジはそれらを触りながら、いつもとは違う声色でそう呟く。
「そっか……」
「……オレ分かってるっすよ、アダムくんが考えてること」
「っ……」
いつも通りを装って返事を返したのに、エッジから返ってきた言葉は的を射ていて、ぐっと息を飲む。
「同じ英雄の孫なのに、同じくらいの年代なのに、置かれた環境がここまで違うのは、不満っすよね」
「……」
ボクはエッジの言葉に何も言い返せない。
暫くここに滞在して分かったこと。
エッジはとても良い人だ。
それなのに、どうしてもボクの中から小さな勝手に作ったわだかまりは消えてくれなかった。
「オレの両親は生きてるし、爺ちゃんだって別に仲悪いわけじゃないし、恵まれてると思うっす、でも……オレはオレで思うところはあるっす」
「エッジ……」
エッジはあくまでいつも通りを装って、空気が重くなりすぎないように勤めてくれるけど、そう言って笑った顔は少しだけ悲しそうだった。
「オレ、戦うの好きなのに一度も実践ってしたことないんすよね、ずっと鍛練鍛練で、実際に戦いたくても爺ちゃんはそれを許さないから、きっと戦わなくても良いって恵まれてるっす、でも、オレは弓が好きなんす、鍛練するのも戦うのも、好きなことをしてみたいって思うのは……平和に生きてる癖に戦場に出たいって思うのは、おかしいことなんすかね」
「……どう、だろう」
分からなかった。
少なからず同じような出自でも、育った環境の全く違うボクから言えることは何もない。
「……こんなこと話したのアダムくんが初めてっすよ、同じ英雄の孫相手だから話しやすかったっすね……っ、この音は……」
そんなボクのほうを見てエッジは笑ったけど、その瞬間カンカンカンカンと大きな鐘の音が鳴り響く。
「え、エッジ、これって……」
鐘の音を聞いて思い出すのはどうしてもあの日のことで
「村の警鐘っす、鐘の鳴る数からしてこれは襲撃っすね……落ち着いて、村のほうに戻るっすよ!」
慌てるボクにエッジは冷静にそう促す。
「待ってエッジ! 誰か来るっ……」
だけどふと、空気が重くなったのを感じてツリーハウスの入り口から窓のほうへ視線を移すと、一人の男が立っていた。
「案外すぐに見つかるものだな、私はゲンリョク、個人としては別に君達に恨みはないが、悪いが死んでもらう、主の名に従って」
深い緑色の髪をした体格の良いその男はそれだけ言うと、腰から大きなナタのような武器を取り出してこちらへ向けた。




