第19話 強くないと死んでしまう世界だから
「ふうん、で、今度は孫連れて三回目の魔王退治ね、泣ける話じゃねーか」
「……冷やかすのはやめとくれ」
あたし達の道すがらを茶を飲みながら聞いたセスは茶化すようにそう言いながら笑うから、少しだけ眉間にシワを寄せて文句をつける。
「……おいエッジ!」
「なんすか爺ちゃん」
そんなあたしを無視してセスは一人の活発そうな少年を呼びつけた。
金色の短髪のその少年はわんぱくそうな顔をしていて一度目の旅の時のセスの面影を少しだけ残していた。
「お前これから弓の鍛練だろ、こいつも連れてって教えてやれ、同じ弓使いだ」
セスはエッジと呼んだ少年にアダムを指差し紹介する。
「おー、了解っす、君も弓使うんすね、オレはエッジ、君はなんて言うんすか?」
「ぼ、ボクは……アダム」
「アダムくん! よろしくっす!」
「う、うん……」
「それじゃあさっそく行くっすよ!」
明るいエッジに終始押され気味のままアダムは引っ張られるように連れていかれてしまった。
「随分と陽気な子じゃないか」
あたしはそんな顛末を見て笑う。
まるで昔のセスを見ているようで懐かしいくらいだった。
「……さっきの続きだが、冷やかしてなんてねーよ、だからオレは散々言ったんだ、もう手を引けってあの時に、そうすればアルスも、お前の娘夫婦も孫も巻き込まれることなんてなかった」
あたしの言葉の深意を汲んでセスは居心地悪そうに咳払いした後に昔、あたし達が揉めた理由に触れてくる。
「……まぁ、そうなるのかも、しれないね」
あの時、あたしが2度目の旅に出るという話になって唯一反対したのがこのセスだった。
あたしと同じで所帯を持っていて、そいつらのことを考えろと怒鳴られたのは記憶によく残っている。
それがあたしとセスの最後の会話で、確執だった。
だけど今思えばセスの言っていたことが正しいというのはよく理解できる。
「やけに素直じゃねーか」
「でも、きっとあたしがあの時に戻れても、同じことを選んでただろうさ」
だけど、それでもあたしは同じ轍を踏んでいたろう。
あたしは、そういう人間なのだから。
「……そうか」
あたしの長年考えて出した結論にセスは昔のように文句をつけることはしなかった。
「それにしても戦いたくない割には孫をしっかりと鍛えてるんだね、それも弓、武道家のあんたがなんでわざわざ専攻外教えてるんだい」
あたしはその話に早々に蹴りをつけると弓の鍛練という言葉を思い出し、エッジの体つきを見ればどれだけしっかり鍛えているのかなんて一目瞭然で、セスの方針と合わないその事実を指摘する。
「戦いなんてないほうがいい、武器なんて使えないほうがいい、その考えは変わらんし、こうして穏やかな生活の中死んでいきたいと思ってる、だがこんな現状では武器の使い方ぐらい分からねーと、強くないと死んじまう、だから生き抜く術として教えてんだ、お前の孫のこととおんなじようなもんだな」
セスは茶を飲むとため息混じりにそんな言葉を溢した。
それでセスの気持ちはよくわかった。
アルがアダムを鍛えろと言っていたのと同じ。
今のご時世強くないと生きていけないから嫌でも自分の持つ戦い、生き残る術を全て伝えているのだみんな。
老いさらばえた身体が死を迎える前に大切な人たちに。
だけどセスは武道家で、獲物は近接武器だった。
何故わざわざ弓なのかだけは疑問が残るがそれもセスは説明してくれるようだった。
「で、弓なのはもっと単純、弓兵なら遠くから戦えるからオレみたいに前線に出るよりは怪我することも少ねーだろうし……ま、アルスのことも関係してる、あいつみたいに何にだって、どんな困難にもめげずに生きて欲しいっちゅー願掛けみたいなもんだ」
「……そうかい」
アルスの名前が出てつい、あたしは視線を机の上のティーカップに落とした。
確かに前線で戦うあたしとセスはいつだって一番生傷がたえなかったのは事実で、だけど一番最初に死んだのはアルスだった。
あたしのせいで。
「ま、だからアダムに弓を選んだのは正解だろうな、だけどあいつはアルスの孫で、お前の孫でもあるだろ、魔法も使えるんじゃねーのか?」
セスは一度咳払いして、それから考えたこともなかったことを指摘してくる。
「……それは、考えたことがなかったね」
あたしの孫だと説明しておきながら、最初にされた拒絶からちゃんと自分と同じ血がアダムに流れているなんて考えたことはなかった。
だけどもし、アダムが魔法をつかえるなら、それはこれからの強みに繋がるだろう。




