第18話 神薬の後遺症
あの後ノラに連絡を入れさせれば大袈裟な程に持ち上げられて、早々に面倒くさくなってとっとと通話を切った。
元々全盛期の力があればスザクぐらいわけないのに。
そして焦げ臭い臭いがしなくなる程には移動して早めのキャンプの準備をすればアダムは飯を食べてすぐに眠りについた。
初めてしっかり戦って、疲れたのだろう、顔を覗いても起きる気配もなかった。
戦わせる気なんて最初はさらさらなかったのにああしてしっかりと自分の力量を図った上で戦場に立った孫を見ると少しだけ嬉しくなってしまったのは複雑だ。
それに、魔物相手とはいえ殆ど初めて今日アダムは手を血に染めたことに変わりはないのだから
「っ……それにしても、副作用がここまでとはね……」
アダムがいないテントの外に出た瞬間、あたしは身体を押さえながら地面に座り込む。
アダムがいる手前強がっていたがあの薬の副作用は腰が少し痛むとかそんなもんじゃなかった。
無理やり全盛期の力を一時得るための反動は身体中の激痛と、大きな頭痛、吐き気だった。
恐らく痛みは身体の構築し直しと大きな運動によるもの。
頭痛と吐き気は衰えた魔力器官をキャパ以上の力を行使する為に組み換えた代償、といったところだろう。
「……これは、使うタイミングは考えたほうが良さそうだね」
痛みにはめっぽう強いほうだから別に耐えることが出来ないわけではない、だがもし全盛期の状況で敵を倒しきれないなんてことになればその後最大の出力を保って戦えるかは分からない。
今回使ってみたことでそれがよくわかったから結果として試運転は完璧だったということだろう
だけど
「これは今日は寝れなさそうだね」
身体の痛みは強くなる一方で、それが修まるまでは快眠することは不可能だろう。
「ここがサハトですか! ウォーターブルーともアルケミーとも全く違いますね……」
機械馬を使って数日、あたし達はサハトに到着していた。
身体の痛みは未だに尾を引いていて、早いところ柔らかいベットで休みたいくらいだ。
「そりゃそうだろうね、って別に見物に来たわけじゃないんだよとっとと行くよ」
だけど新しいものに弱いアダムは楽しそうにきょろきょろと辺りを見渡しているから軽く注意する。
「でもどうせ分からないじゃないですかセスさんの居場所」
「まぁ、それはそうなんだけどね……」
「おい、今オレの名前が聞こえた気がしたんだがって、お前……マチルダか?」
少しだけ不機嫌そうに事実を指摘してくるアダムにあたしがそれを認めれば、低く野太い大声が響く。
「……あんたの好奇心もたまには役に立つもんだねぇ、久しぶりだねセス」
すぐにそちらを向けば立っていたのはセスだった。
アルと違ってあたしと同じように歳を取っていて、だけど前会った時よりも貫禄が出たように思う。
二回目の魔王討伐の旅を家族が出来たからと断れた……あたしには出来なかったことをした男だからアルよりも長いこと会っていないことになる。
「国からの指令はこの前同様に速攻で断った、もう巻き込まないでくれ、オレは今娘夫婦と孫と暮らしてんだ、それを壊されたくない」
セスは開口一番眉間にシワを寄せてそう告げる。
「あんたのところにも使いは来てたのかい……まぁそんなとこだろうとは思っていたけどね、ま、今回は違う用事だから大丈夫だよ」
なんとなくパーティーメンバー全員に声をかけているのだろうと察していたようにセスにも勿論声はかかっていたようだった。
そしたまた、しっかりとあたしには出来なかったことを選び取っていて、少しだけ羨ましくも思ったりしないでもないがそんなもの不毛だ。
だから早々に本題を切り出すことにした。
「何だ違うのか、じゃあ一体全体どうしてオレを探してたんだ? わざわざ会いに来るような仲でもねーだろ」
セスの言葉には少しの刺が含まれている。
それもその筈で、二回目の旅云々の時に散々こいつと揉めたからだ。
歓迎されていなくても無理はない。
「……アダム、あたしの孫だよ、こいつを死なない程度に鍛えて欲しい、それなら武道家だったあんたが適任ってことになってね」
「ど、どうも……」
だから溜まった話もないあたしは隣にいたアダムの背中に手を添えて挨拶させて、それから要件を端的に伝えた。
セスの見た目が強面なせいだろうがアダムは少し萎縮した様子で一言それだけ言って頭を下げる。
「……なるほど、それなりなわけありってことか、ついてこい、茶でも飲みながら話せばいい」
セスは暫く考えた後にそれだけ言うと顎をしゃくってついてこいと歩きだした。