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エピローグ「その者、落日よりの使者と為りて」

ついに第二部完結しました。再びの投稿は第三部が描き上がってからになるかと思われます。では、次の機会に。此処まで読んで下さり、ありがとうございました。

エピローグ「その者、落日よりの使者と為りて」


 よく晴れた日の事。


 やけに酷薄そうな男が米国の上院議会のとある委員会で一つの話をぶち上げた。


 大陸大異変と後に呼ばれる事となる謎の現象より二ヶ月。


 各地の軍閥全てを打倒し、統一した組織の長が米国に一体何を望んで来ているのか。


 表面上は国連への実質的な復帰を申請するという名目での渡米であったが、多くの上院議員は憂鬱な話になるに違いないとの思いを抱いていた。


 何故なら、男は数十万人以上の死傷者を出した軍の最高指揮官。


 途中、大異変のせいで戦闘が終結、順次軍閥側が投降したという話ではあったが、それまでにどれだけ殺したのか詳しいところは定かでないのだ。


―――この場を借りて、このような場所にお招き頂いた事を心よりお礼申し上げる。


 あの中国人が深々と頭を下げた。


 それも権力者と呼ばれる類の人間が。


 ざわめく議員達を前にして男が語った事は彼らには想像も出来ない事ばかりだった。


「我々、中華人民は過去、多くの軋轢を国家、民族、宗教、その他全ての分野において抱えてきました。しかし、あの四年前の大災害において全てを失い、この世の地獄となった大地に再び機会は廻ってきた。これが我々が変わる最後の……そして、最初の一歩となる事を願い、私は此処に我が国の政体の変更と共産主義の破棄を告げ、本当の人道支援を受け取る為に来た」


 激震も走ろう。


 こいつは何を言っているんだとポカンとした者が大多数。


 この中国人の頭は大丈夫かと思った者もいれば、何かの罠かと警戒する者もいた。


 しかし、そんな彼らを前にして至極全うに男は言った。


「ご警戒するのも無理からぬ事でしょう。過去、我々の国が行なってきた事を考えれば、それは当然の反応です。ですが、もう大陸に残る人民も疲れ果てている。生き残る事さえ難しい日々に辟易している。だからこそ、変われるはずだ。変わるだけの原因と変われるだけの今が存在するならば、そうしない理由など無い。この国は、西欧の盟主たる米国は、議会制民主主義の模範だ。どんなに敵対していた相手だろうと、合理性があるならば、意見を聞くだけの度量があると私は信じている。第二次大戦において破れた日本を大きく立ち直らせ、また共に同盟の友として歩んで来たように」


 持ち上げ過ぎな相手に困惑する者が多数。


 それでも男の目には怯む様子も無い。


「ご存知無い方はいないでしょう。我が国で二ヶ月前に起った出来事を。我々は軍閥を打倒した。そして、大異変によって……全ての放射性物質が消え失せた。同時に様々な汚染物質、環境ホルモン、その他人体に害があると思われる物質が自然値まで減少した事が確認されています。私はこれを天が与えた機会だと思った。もしも、この機を逃せば、我が国には穏やかに衰退していく未来しか残されていない。だから、此処に、この国に、この委員会に来たのです。我々はもう亜細亜の覇権も要らなければ、軍事的優越によって得られる愉悦、そんな麻薬からも手を引かなければならないと表明する為に」


 議員達の大半が少しずつだが、その男の話に聞き入り始める。


「我が国の再建プランにおいて私は七つの重要項目を策定しました。一つ、一党独裁から政体を本当の議会制民主主義に移行する事。二つ、我が国において長らく国家主義(ファシズム)的に肥大化してきた共産主義の完全破棄。三つ、新憲法の制定及び人権に配慮した立法と現法律の改定。四つ、未だ断交状態の周辺国との白紙和平と国交の回復。五つ、現行そのままとなっている通商条約の抜本的見直しと再締結。六つ、国内少数民族の独立と連邦制の施行。七つ、軍縮と米国との安全保障条約の締結」


 議員の一人が手を上げた。


「何でしょうか」


「この委員会の副委員長を務める者だ」


「何か質問があれば、この場でお答えします」


「一党独裁を止めると言ったが、君以外の人間がそれを是とするのかね? そもそも、現在の大陸で公平な選挙が実施出来る状況だと思うのか?」


「軍閥を全て打倒したとはいえ、まだ我々の体制は覚束ない。そもそも、人口が半分以下にまで激減し、その大半が放射線による被曝で治療が必要な状態です。ですから、政治と経済が安定し、国民に選挙が出来るだけの活力が戻るまで、選挙制度が実施出来るようになるまでの間、私が独裁という形で取りまとめる事になるでしょう」


「その大役が終われば、君が一番上の椅子から降りるという保障はあるのかね?」


「その為に私は米軍との安全保障条約の締結を掲げました」


「何?」


「我が国に米軍を駐留させて頂きたい。いや、もっと端的に言いましょう。日本を立ち直らせた時と同じく。事実上のGHQを置いて頂きたい」


「―――正気か?」


「ええ、この上なく」


 議員がその答えにトサリと椅子へ腰を落とした。


「四年前、我が国の沿岸部の軍閥は米国への核攻撃に打って出たのです。こんな危険な国家は直接監視するべきだとの意見がそちらにあるのは知っています」


「……我が国に占領政策を行なえと言うのかね?」


「そうではありません。私が降りるまでの間、我が国を傀儡国家として支援して下さればと申しています」


「そういう事か。随分と都合が良い」


 議員が嘆息したのも無理はない。


 この半世紀。


 米国は幾つもの戦争を抱えてきた。


 そして、その全てにおいて苦い経験を味わっている。


 日本を占領し、同盟を組む世界最大の友邦に育てたのとは裏腹だ。


「言ったはずです。これは我が国が立ち直る最後の機会だと。これくらいの無茶が出来なければ、どちらにしろ私が死んだ時点で再び軍閥が復活するはずです。未来への投資だと思えば、安い買い物ですよ。今現在、我が国の平均寿命は四十五歳。後、半世紀もすれば、今二十代を越えている人間は全員消えるでしょう。無論、大異変による影響で多少寿命は戻るでしょうが、それにしても百年生きる人間は少数だ」


「何が言いたい」


「つまり、私が言っている全ての政策は次の世代の為のものだと言う事です。大異変のおかげで乳幼児の死亡率は下がっていると報告が来ました。彼らが選挙の出来る歳になるまでに昔を知る大半の人間が死ねば、柵も無く米国はユーラシア大陸に自国の価値観を共有出来る友邦を得る事が出来る。現在も露西亜が健在な以上、亜細亜での全体的な影響力の飛躍は貴方達にとっても悪い話ではないはずです」


「君は……あの国の人間としてはとても先鋭的な思考の持ち主のようだが、世論はどう見るだろうか? 米国が駐留するとなれば、君達の国の人民が立ち上がるのではないかね?」


「昔の事を引き摺る人間は確実にいるでしょう。ですが、この後に及んで救いの糸を自ら切りたい自殺願望のある国民は一人もいないと断言しましょう。まぁ、本当にそういう者が出てきたなら、私が手を汚せばいいだけの話です。大統領を下りた後なら、煮るなり焼くなり好きにして構わない……誰もがこの四年で十分に地獄は見た。それに……我が国の国民性は……利益最優先です」


 身も蓋もない言葉に委員達が顔を見合わせる。


「無論、次の世代が貴方達に悪感情を抱く事が無いよう。今まで行われてきた教育の完全な転換を行ないます。具体的には現在の日本の教育制度と歴史教科書を翻訳、導入する事になると思います。もうそちらは日本政府とも交渉しており、教育制度の輸入は年内にも始まるでしょう。教員の選定基準の原案は既に出来ており、危険思想の転換が出来ないと判断される人物もリストアップが進んでいます」


 上座に座っていた七十代の老議員が眼鏡の下で男をジッと見つめていた。


「……君は嘗て大使館で武官を務めていたと聞いているが、今自分のしている事がどういう事か。理解して行なっているのか?」


 ツァオともう呼ばれる事も無いだろう男は苦笑してこう言った。


「百年後に偉大な同志と呼ばれて亡国の象徴になっているより、最悪の売国奴と豊かな子孫達に罵られている方が、私は嬉しい」


 その瞳に宿る色に委員達もまた深く今まで提示された案を内心で吟味していく。


 老議員は重々しく頷いた。


「分かった。大統領に“比較的良好な提案”として報告させてもらおう。だが、其処からは議会と政府次第だ」


「十分です」


 それから幾つかの提案と質問が繰り返された後。


 男は小会議場から背を向けて去っていった。


 最後には老議員。


 共和党の重鎮にして委員長という男だけが一人残った。


 その背中に少し幼い声が掛かる。


「ハーイ。どうかしたの? お爺ちゃん」


 振り返った老人の前には僅かに雀斑の残る十四歳程の栗毛の少女がいた。


 オーバーオールに少し色褪せたブーツを履く快活そうな笑みの十代ティーンだ。


 ショートヘアの下からの視線に苦笑が返る。


「君には悩みなど無いのだろうね」


「その言い方はレディーに対して失礼じゃない?」


「君達の持つ力があれば、出来ない事など無いだろう」


「そうね。それは確かにそうだわ。でも、それにだって柵は付いて回るわよ?」


「そうか……それもそうだな。済まなかった……久しぶりに愚痴りたい気分でね。だが、良かったのかね」


「何が?」


「あの男はきっと君達の敵になる男だぞ? 在日米軍の司令官からの報告では近い内に大陸の【能力者エグザート】の統一と紅蓮朋友会下で新組織が立ち上げられるらしいじゃないか」


「あはは、そんな事! 別にいいわよ。だって、使いの数は基本的に一定だから」


「そうなのか。まぁ、君達の事は君達に任せるという事になっているのだから、私には関係ない話だがね」


 書類を整理した老人がその場を後にしようとすると背後から声が掛かる。


「お爺ちゃん。これから嵐が来るわ」


「何だって?」


 思わず振り返った老人はしかし、少女の姿を捉えられなかった。


『引き金はもう引かれてしまった。もしも、国の存続を願うのなら、今やってる核軍縮の加速をお勧めするわ。大統領に言っておいて。この星最大の花火会場に成りたくないなら、真っ先に核保有ゼロにするか。本土以外の場所に核を持っていった方がいいって」


「………分かった。伝えておこう。我が国に君のような存在がいてくれる事を心強く思うよ。メアリ・バートン」


 【愛国者組合パトリオット・クラブ】代表の名を呟いて。


 老人はイソイソと会議場を後にした。


 その誰も居ない会議場にクスクスと笑い声が響く。


『まさか、こんなにも早く……伊藤さん。怨みますよ……さぁ、新しいゲームを始めましょう―――』


 小さく小さく呟きが漏れて。


 会議室には沈黙が訪れた。


 その数日後、米国は大陸統一政府からの歴史的な和平の申し出と安保条約の素案を発表。


 日本と共に三国会議と呼ばれる定例首脳会議の毎年の開催を確認する事となった。


 混迷を深めた大陸に希望の光が差したのはそれから二週間の後。


 米国による食料及び医療、エネルギー支援の第一陣と日本の自衛隊による人道支援、日本政府が国民の反対を押し切って進めたギガフロートによる教育移民制度が決定した日の事であった。


 *


―――とある地方都市。


「む……これは中々……」


 未だ暑い真冬のコンビニには今日もクーラーが効いていた。


 しかし、それもそろそろ終わりだとテレビのお天気オネーサンが言って早数日。


 パラリと政府側の意見が色濃い漫画雑誌を見つつ、千四は確保したエロま―――もとい“小さい大人向け”少年漫画の入った袋を提げて、唸っていた。


「く……此処で超展開……明らかな打ち切り臭……残念だ」


 パタンと全て見終えた後に本を閉じ。


 イソイソ少年が夕暮れ時の道に出ると蟲が鳴いていた。


「そろそろ春か……」


 日本の風情を感じつつ、自宅への道を往く。


(もうあれから二ヶ月になるんだな)


 脳裏には未だ大陸での日々が色濃く。


 平和な日々が嘘のようにも感じられる。


(……あの日、何とか着地したのが内陸部のインド寄りの無人の荒野。コンパスも無いから大雑把に東へ飛んで海岸線に付いたら周囲の街で地図を見て、場所を特定。あの街に何とか戻ったのが三日目……まさか、住人が全員消えてるとは想定外だったな……)


 少年がようやく戻ってきた場所からは人気が完全に消えていた。


 代わりのようにやってきたのは【紅蓮朋友会(フレア・フレンズ)】の回収部隊。


 その隊員から仲間達の全員の無事を聞いて、飲まず食わずでやってきた千四はついに倒れた。


 そして、次に目を開ければ、自分の都市にある私立病院の寝台上。


 横には智紗と豊が一緒になって眠りこけており、体を起こすとワンワンと泣かれながら抱き付かれた。


『むろっちぃい!! 良かったよ~~~ッ!! すっごい心配したんだからね~~!』


『良かった。千四君……本当に……』


 そんなに危ない状態だったのかと訊ねた彼に極度の肉体疲労と精神疲労による消耗で二日も昏睡していたのだと二人は僅かに鼻を啜りながら答えた。


 とりあえず、最初に大陸がどうなったのか尋ねた千四に返ってきたのは意外な話で。


 豊が言うには“掃除”の影響で軍閥側は抵抗を止めて大人しく投降。


 解放戦線の勝利で全ての戦闘は決着が付いたらしい。


 そして、血の泡の化物は完全に消失。


 街一つと其処に集っていた兵達、周辺の幾つかの集落に被害を出したものの、何とか最小限度の犠牲で済んだとの事。


『フゥやあの街の人間は?』


 訊ねた彼に返ったのは何とも微妙な表情。


―――えっと、そんな名前の職員いたっけ?


 豊に訊ねても、智紗に訊ねても、答えは同じだった。


 それどころか。


 その後に訊ねてきた佐上や蒼雲に聞いても同じ。


 誰もがフゥという少女の事を忘れていた。


 ワンの事は覚えているものの、街では出会っていなかったという。


 何でも他の使いの組織の人間がやってきてから、街の人間が移動を開始し、あっと言う間に周囲の集落に分散、消えてしまったとか。


 ワンからは一応、紅蓮朋友会に連絡が入っており、他の使いの組織から大異変による追求を回避する為に逃げ出して、雲隠しているらしい。


 結局、その後は定時連絡が一方的に支部を通して入るものの、未だ行方を眩ませている云々。


 とりあえず。


 大陸の現状は良い方向へと向かっていると直接の上司である伊藤からも目覚めて数時間後に連絡は来ていた。


 さすがにフゥの事は聞けず。


 さりとて、放置も出来なかった彼がワンの事を訊ねると壮年は苦笑していた。


『惚れましたか?』


『いえ、単にあの人が生きているか知りたいだけです』


『生きている事は保障しましょう。何せクラスAですから、現在の大陸には支部の目が殆ど届かないのを良い事に他の使いの組織の人員が入り込んでいます。彼らに好き勝手されないよう睨みを利かせる為に地下へ潜ったんでしょう。政情と治安が安定して、支部の力が回復するまで、連絡を取るのは難しいかもしれません』


『そうですか……』


 ポッカリと何かが失われてしまったような気分。


 それを知ってか知らずか。


 その数日後、預金通帳から生活資金を引き降ろす際に何故か額面が……十二桁に増えていた。


 電話した上司は悪びれもせず。


『いやぁ、今回の【仕事(バイト)】報酬ですよ。ええ、新国連の方からようやく支払いが来まして。日本政府に四割、ウチに五割、残り一割を手取りとして振り込んでおきました。あ、ちなみに税金はクラスBの特権で払わなくて良いですから、確定申告も要りませんよ。それともしも何かに投資してみたくなったら言ってください。実は……ようやくウチも他の組織と同じくファンドを立ち上げまして。これからは君にもガシガシ報酬が入ると思いますので、気軽にご利用―――』


 そのとても嬉しそうな声にイラッとした少年は通話を即切りして、紅蓮朋友会の会計部門に連絡し、入金された金額を全て一つの事に投資すると伝え、聞かれた番号を答えて端末を床に投げ捨てた。


 それからもう一か月以上が過ぎた。


 どうするべきか。


 探すべきか。


 それも記憶を操る相手には不可能だろうと諦めて。


 ちゃんと、生きているだろうかと。


 何処かで元気にやっているのだろうかと。


 子供達は大丈夫だったのかと。


 聞きたい事が山程あるのに最後のお別れも言っていないと。


 沈み込んで。


「馬鹿だな……恰好付けるから……」


 記憶を消せと言ったのは自分。


 しかし、それは全てを見届けてからだと思っていた。


 だが、その機会は永劫失われて、今また日常が始まっている。


『あ、今日は定期検査の日なの。千四君は先に食べちゃってて』


 そう言えば、本日は同居人もいないのだと思い出せば、もう玄関。


 鍵を回して、ガチンとロックが掛けられたのを確認し、空き巣だろうかと夕暮れ時の陽射しが差し込む部屋に入り込んだ。


 しかし、狭いワンフロアの世界には誰も居らず。


 豊が鍵を開けていってしまったのだろうかと首を傾げて寝台に座ると。


 ガラガラ。


 そんな音が風呂場からした。


 思わずそちらの方を見れば、何故かポタポタと水滴が滴る音。


「え、え~~っと、こちらはギガフロート公募に参加した最大の投資家さんでいらっしゃいますアルか?」


「――――――ああ、上司にキレて預金残高十二桁を全部ブチ込んだのは僕だ」


「その~~~えっと、こ、こちら、ギガフロート公募を行なった公司(コンス)の方から参りました……人道支援でフロートに居住する“学生達”の生活モデルケースの調査に来た、来て? ええと、やってきました……と、とりあえず……ホームステイしたく思い―――」


 何時までも出てこない相手に苦笑して。


 少年が立ち上がる。


 それにピクッと反応した相手がダダダッと床を駆けて、胸へと飛び込んだ。


「―――小虎(シャオフゥ)と言うものですアルッ!!! どうか、不束者ですが、が、がんばりますのでよろしくお願いしますアルッ!!!」


 小さな肩。


 濡れた髪。


 潤んだ紅の瞳。


 せっかく、ようやく、何故か、何も付けずに飛び出してきた虎を退治出来るはずも無く。


「話なら聞いてやる。最後まで、必ずだ……」


「ぁ……センシ……ん」


 濡れるのも構わず。


 少年はそっと髪を撫ぜて呟く。


「“ただいま”……」


「はぃ……アル……“お帰りなさい”……センシ」


 滲む涙に笑顔が映る。


 きゅっと風呂上りらしい少女の肌は温もりを湛え、斜陽が照らす中、まっさらに輝いた。


 その美しい身体が少年の前で躍動して、寝台へ尻餅を付かせる。


「今度はちゃんと告白してくれるか?」


「―――大好きアル。フ、フゥさんと結婚を前提にお付合いして欲しいですアル!!」


「じゃあ、今此処で答えるぞ?」


「ッ。はい!!」


 唾を飲み込んだ、染まる顔に優しく手を伸ばして、六六千四は答えた。


「お断り+保留だ。少なくとも、お前が日本で結婚出来る年齢になるまでは、な」


 元服は14歳。


 婚姻可能年齢は現在日本で男女共に同じ。


「あぅ……ズルイ、アルよ?」


 残念そうな顔もせず。


 微笑む姿に男として、ヲタクゲーマーは伝える。


「だが、一緒に背負えるモノは背負ってやる。告白された男から告白した女に言えるコレが今の精一杯だ。それに……」


「?」


「蘆夜さんはゲームが弱い。丁度、一緒にサブカルを愉しめる(カン)と書いて(ヲトコ)と読む人間を募集してたところだ。服を着たら、やらないか?」


 本当にまったくもって馬鹿としか言いようの無い。


 どうしようもない相手に惚れてしまったと。


 少女は心の底から蕩けた笑みを浮かべ、涙一粒。


「どうか、よろしくお願いしますアル。龍の如き人……」


 落日の玉石は映し出す。


 尊き願いを黒き力持つ少年が受け止める様を。


 その唇は柔らかく。


 また、薄らと甘く、艶美であった。


 エグザート~The flame which I dreamed of~fin.

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