39.勘違いなんだ……
◇◇◇◇
コス王の転移で強制的に訳の分からんところに連れてこられてから、俺たちの存在をほぼ忘れている愛良の独断行動。
というか、親子喧嘩か?
とりあえず、頭が痛くてしょうがない。
あの箱の中で、愛良はいったい何をしているんだ?
『ぶべっ!!!あ、愛良ちゃぁぁぁああああん!!?い、いまパパ吹っ飛んだよ!!?ちょ、血!?こんなしょっぱなから鼻血出た!!なんか予想以上のダメーj……『これで終わらせる気なんてさらさらないよ~?』いぎゃ!!!愛良ちゃん!!?羽!!羽はらめぇえええええ!!!そっちの方向には曲がんn…『あは☆とれちゃった☆』いやぁああああああ!!パパの羽がぁああああ!!!…『片っぽだけが3枚だと釣り合わないよね☆こっちも折ってあげるね、パパのために☆』ぎゃぁあああああああ!!!!!』
ああ、前にもこんなことがあったなぁ……。
いやもう、なんというか……ずいぶんとイキイキして楽しそうだな、おい。
「……うん、お嬢が噂のこの世界の神溺愛の娘だったんだなぁ」
俺と同じく遠い目をしていたコス王が、呆れを多大に含んだため息を吐いた。
噂って何だ、噂って。
「お嬢が地球に帰れるか聞きに行ったら、いきなり『なんでお前だけなんだよー!!愛良ちゃんを連れてこいよー!!』って喚きやがって、果てしなくウザかった……。あのクソ神があんだけ煩いと無駄に天罰を振らせるからなぁ。止めるには神王様を呼んで絞めてもらうか、エサで黙らすかしないといけないから面倒なんだよな。ちなみに、エサっていうのは神の子ども関係の物で黙らせるってことだぞ」
「……そうか」
んなこと、誰も聞いてない。
あれが自分たちが住む世界の神だという現実と、向き合わなくてはならない俺の気持ちを察してくれ。
でないと、現実を認めたくなくてあの親馬鹿を滅したくて仕方がないんだ。
真剣にそう思った俺は悪くないよな。
というか、訳が分からない。
「愛良は、神の子供なのか?人間じゃなく?」
「いやいや。ただの人間が俺様を潰せるわけねぇって言っただろ」
「愛良殿の魂の質が高いのも頷けますな」
コス王と死神の即答。
……愛良はどこからどう見ても、人間にしか見えないんだが。
そりゃ、人間離れし過ぎた馬鹿力を持ってはいるが。
ついでに体も頑丈過ぎて、最上級の魔法をぶつけてもかすり傷一つつかないが。
属性も一人が持つにしては多すぎるが。
魔武器の能力も、意味不明な能力もあるが。
……うん、人間じゃないな。
「……ということは、俺は神の娘を使い魔にしてしまったということか?」
愛良は一応、俺の使役化にあるから、そういうことだよな?
普段は完全に立場が逆転している自覚はあるが。
……下手に逆らうと、飯作ってくれなくなるし。
「「……へ?」」
ん?
なぜコス王と死神はそんなに驚くんだ?
むしろ、焦っているのか?
汗が止どめなく流れている。
「……よし少年。ちょっと落ち着こうか」
「俺は十分落ち着いているが」
「愛良殿を使い魔にしていると聞こえたのですが、我輩たちの聞き間違いですかな?」
「いや、聞き間違いでもなく事実だが?」
「「……」」
今度は黙り込みやがった。
いったいなんだ?
「よし、少年。教えてやろう。神の子どもで男児は複数いるが、女児は末っ子のお嬢たった一人しかいないんだ」
「それで?」
「先ほどの様子から見て分かると思うのだが、まぁ、世界神様は一人娘の愛良殿を溺愛しておられる」
「そのようだな」
「つまり、溺愛している娘と契約している野郎は神の権限で消されるぞってことだ」
……なるほど。
確かに声しか聞こえないが、現在進行形で殴られながらも喜んでいる様子があれば、それも道理か。(←単なるドMです)
そうか……盾がいるな。
それよりも、気になることがあるんだが。
さっきから使い魔として契約している身だからこそ分かることだが、愛良の魔力の最大値がどんどん上がっているんだ。
中で魔法も使っている様子なのに、消費どころか増えていくのが上回っている。
どういうことだ?
「愛良の魔力の最大値が上がって行っているのは?」
「お嬢本来の力が発揮してんだろ。人間だと思い込んでいる時と、神族だって自覚した時とでは発揮できる力も段違いだし」
「というよりも愛良殿のあれは単に神を殺るために、自分で自分の力を解放していっているようにも見えますな……」
「……それで俺の魔力も、愛良の影響で上がって行っているわけか」
使い魔が強力な場合、恩恵を得られることがあると文献では知っていた。
実際に俺が当てはまるとは思いもしなかったが。
それも、ただでさえ多い魔力がさらに増えるとは……。
「今は好都合だな」
これだけ多ければ、何も問題ないだろ。
増える前だと、死神の方しか無理だったと思うしな。
とりあえずは、捕獲だな。
「え、ちょいと少年?なんで俺様の首根っこを掴んでいるんだ?」
「カイン殿?用があるのなら、肩を掴まなくてもよいですぞ?何ですかな?」
「いや何。ちょっと本来の目的を思い出しただけだ」
「「は?」」
唖然として振り返る二人に向かって、俺は自分でも嘘くさいと思う笑みを浮かべた。
「俺たち、今日って使い魔召喚の日だったんだよ。で、禁忌召喚のドタバタのおかげで、俺たちはまだ召喚していない。だが、あの神の様子じゃ使える盾……いや、仲間はいたほうがいいだろう?」
思わず口が滑ってしまった俺の発言を聞いて、顔を引きつらせるコス王と死神。
「盾!!?今、盾って言ったよな!!?」
「確かに……陛下!失礼します!!」
「あ、てめぇ!!!」
ちっ。
死神のやつ、まさかのコス王を俺の方に押し付けて転移で逃げやがった。
あっちは肩しか掴んでなかったしな。
だが、死神がコス王を俺の方に押し付けてきたおかげで、こいつを後から完全に抑え込むこともできた。
「……まぁ、俺の本命はこっちだったから特に問題はないな」
無駄に増えた魔力を、一気に流し込む。
「ちょ……俺にそっちの趣味はねぇぞ―――!!!!」
俺だってないと突っ込みたいが、今はこいつと契約を完了させる方が大事だ。
愛良たちがいつ出てくるか分からないからな。
できればあの親馬鹿神が出てくる前に、終わらせたい。
「はーなーせー!!」
コス王は一応暴れてはいるが、俺でも抑え込めている。
こいつも神という名がつくならば、神族であるはずなのに。
……こいつ、本気で逃げる気がないのか?
まぁいい。
契約に必要なだけの魔力は十二分に流せたからな。
「これで完了だ」
「……おもしろそうだね?」
……は?
父親リンチを終えたのか、愛良がいつのまにか箱から出てきていた。
しかも片手に持っているのはカメラ。
その後ろを、何か赤い肉片を咥えたシリウスがついてきている。
というか、その冷やかな目は何だ?
それよりも、さっきシャッター音が鳴ったか?
「カイン……君、やっぱりそっちの趣味があんじゃないの?」
「は?」
「いや、だって滅多に見せない爽やか笑顔で、嫌がるコス王を後ろから羽交い絞めにして言うことが『完了』ですからね」
「は!?これはちがっ……」
やばい!
愛良が勘違いしている!!
しかも意味不明な方向に!!
愛良の誤解を解こうと焦る俺の隣で、これみようがしに顔を手で覆うコス王。
「お、おれは嫌だったのに……こいつ、俺の方が『本命だ』って無理やり……シクシクククク」
「てめぇ!愛良が余計に勘違いすんだろうが!!しかも、最後笑いやがったな!!?」
この野郎……余計なこと言いやがって……!
とりあえずこいつは放置だ!
「愛良!勘違いだ!これは単に契約をしただけだ!」
「後ろから無理やりに……シクシクブフッ」
「お前は黙ってろ!!これ以上しゃべるな!!そして笑うな!!」
強さに引かれてこいつと無理やり契約したが、さっそく後悔してきたぞ!?
やっぱりそれほど強くなくても同じ苦労人同士の死神にしておけばよかった!
「いや、まぁ人の趣味にあれこれ言うつもりはないよ。ただ、なんでカーズさん(阿部さん)の時はあんなに嫌がったのか不思議だっただけで」
「あいつの名前を出すなぁあ!!」
奴の名前を聞いた瞬間、全身に鳥肌がたったじゃねぇか!
何不思議そうに首傾げてやがる!
ちげぇだろ!
「ああ、あれか。単純に掘られるんじゃなくて、掘る専門だったんだね」
「違う!!俺はノーマルだ!!!」
「愛良ちゃんは君なんかに渡さないよ!!?」
くそ……。
ただでさえややこしいのにクソ神が復活しやがった。
てめぇ、さっきまで肉片だったくせに復活早すぎだろ。
そして服がボロボロで変質者にしか見えないから、服着ろよ!
「クソ神がしゃしゃり出てんじゃねぇよ!!邪魔だ!!」
「ウギャア!僕、神様なのに殴ったね!!?みんなにも殴られてるけど!!」
いい加減このクソ神うざい……。
どうにか、黙らせれないものか……。
「……コス王。クソ神を締め上げとけ。そうしたらコスプレの費用を5着分出してやる」
「マージで!!?よし!お前が今から俺のマスターだ!!おらクソ神、ちょいとこっちこいや」
俺の言葉を聞いて、一気に顔を輝かせたコス王。
そのままクソ神の襟首を掴みあげた。
よし、これでクソ神はいけるな。
そう考えた俺の目の前で、目をすっと細めて冷やかな表情になったクソ神。
「神王様の次の位にいる僕に、君が勝てるとでも思っているのかい?」
……これが、神の威圧なのか。
一瞬、体が完全に竦んだぞ。
当のコス王は、全く平気そうな表情だがな。
むしろ、にやっと笑みを浮かべて懐から一冊の本を取り出した。
「今すぐ来ないとお前のこの丸秘日記を大声で読み上げる」
「よし、今すぐあっちで話し合いをしようか」
さっきまでの冷やかな表情はどこに消えたのか、一瞬で土下座の体制になってコス王を連れて話そうとするクソ神。
日記の内容が気にならないこともないが、今はそれどころじゃないから放置だな。
「愛良、あのな……まずは話を聞く体制をお願いします」
こいつ、俺が必死にクソ神とコス王を遠ざけているこの短時間の間にシリウスの上で腹這いになりながら本読んでやがった。
「んー?この体制でもちゃんと聞いているから別に気にしないでいいよ」
「いや、俺の人格が疑われているので真面目に聞いてください」
「大丈夫。カインは引き籠りの鬱帝で実は男が好きって分かっているから」
「……」
全然分かっていない……。
前半は否定できないが、後半は全く違うぞ!?
「……」
「はいはい、冗談だよ冗談。まぁこの写真は一部の(腐)女子には喜ばれそうだから永久保存するけどね」
……こいつ、マジでやるつもりだ。
……マジでやめてください。
そんな願いを込めて、愛良を見上げるが、当の本人は『無理』と言わんばかりに、にっこり笑った。
俺にこいつは止められない……。
もう無理だ、鬱だ……。
カイン・ルディス(16歳)
ギルド『清龍』のオカマスターの養子。
属性の多さと魔力の多さで全帝に就任、それに似合うだけの修行を重ねている。
性格はうっかりもの、すぐに鬱る、ヘタレ。
使い魔愛良の主人であるはずなのに、台所を支配する愛良に逆らえない尻に敷かれマン。
ちなみに、台所立ち入り禁止令が愛良から出ている。何をしたのかは不明。
愛良に振り回されまくっても、最近諦めがついてきた様子。
頑張れ鬱帝!




