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織田信行が行く  作者: あひるさん


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第29話 三河侵攻(一)

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

差し支え無ければ誤字・脱字の指摘もお願い致します。

「五徳の顔を見てから鳴海に戻れと申したのか?」


 墨俣砦で信長が惚気話をした事を信行から聞いた帰蝶は目付きが鋭くなった。


「そういう事になりますが…」


 帰蝶の機嫌が悪くなったので信行は拙い事をしたと歯切れの悪い口調になった。


「旦那様も何を考えておるのじゃ。勘十郎は三河の事で多忙を極めているのは承知している筈」

「兄上も私が顔を出したので思わず自慢したくなったのでは?」


 信行は帰蝶の機嫌を損なわないよう言葉を選びながら会話を続けた。


「娘の事を自慢するのは良いが時と場所を弁えてもらわなければならぬ」

「確かに…」


 信長が叱責されるのは間違いないと思った信行は気が重くなった。

 

「案ずる事はない。今回は勘十郎に免じて窘めるだけに留めておく」


 信行の顔色が悪くなっているのを見た帰蝶は誂うのはこれまでだと話を終わらせた。


*****


 信行は鳴海城に戻ると千賀地保俊を呼び寄せた。


「三河の現状を教えてほしい」

「一向一揆は渥美半島を除いて全域に拡大しております」


 一揆勢は松平旧臣の信者が指揮役を担っており迎撃を試みた今川勢と各地の有力豪族は悉く敗れ去り、渥美半島の戸田宣光だけが地の利を活かして勢力を保っていた。


「今川義元は?」

「三河の支配を諦めたようです」


 一揆の鎮圧に当たらせた岡部元信と久野宗能が吉田城を巡る戦いで大敗を喫して退却を余儀なくされた。一報を聞いた岡崎城の山田景隆は城を放棄して船を使って渥美半島に落ち延びた。


「三河は加賀と同じになったわけだね」

「一向宗が支配する国…」


 加賀国は同地を訪れて一向宗の組織固めに当たっていた本願寺蓮如が守護の富樫政親の要請を受けて内紛に介入した事が切っ掛けとなり始まった。


 内紛が収まった後、富樫政親が一向宗の勢力拡大に危機感を覚えて排斥を画策したので両者は対立関係になった。一向宗側は富樫泰高を擁立して守護側と激突して勝利を収めた。


 その後に一向宗側は富樫泰高を守護に据えて裏から加賀国の支配を始めて『百姓の持ちたる国』と呼ばれる状況となっている。


「今川も松平も手を出さないなら織田が頂くしか無いと思うけどね」

「確かに。一向宗による騒乱を収める名目で三河に入れば周りから非難される事は無いでしょう」

「それは名案だね。大義名分として使わせてもらう」


 信行はしたり顔で大きく頷いた。


「正成の方はどうだい?」

「説得に応じる者が着々と増えております」


 服部保長から松平元康の三河切り捨て発言を聞いて織田家に降ると申し出る者が増えていた。大久保忠員、本多忠高、榊原康勝、酒井忠次、石川数正など有力どころも説得に応じている。


「勝介はどう思う?」

「こちらにも影響が出始めておりますので速やかに動くべきかと」


 一向一揆に巻き込まれた西三河の民が国境を越えて尾張に流入し始めており地元民と揉める事例が発生して水野信元が対応に追われている。


「誰か!」

「お呼びでしょうか」

「召集の鐘を鳴らしてくれ」

「心得ました」


 程なく城内にある櫓から非常召集を知らせる鐘の音が鳴り響いた。鐘の音を聞いた家臣は甲冑を身に着けると家を飛び出して足軽大将以上は城内に入り、足軽組頭以下は城下の指定されている場所に向かった。


*****


「明日、日の出と共に三河へ出発する」


 信行は集まった家臣に三河侵攻を伝えた。一向一揆の鎮圧と三河国の掌握を目的とするもので一向一揆勢については壊滅させる事を主眼に置いていた。


「備は柴田勝家が一番隊(先鋒)、前田利家が二番隊、水野信元が三番隊、千秋季忠が四番隊(母衣衆)、私が五番隊、明智光秀が六番隊、佐久間盛次が七番隊(殿軍)とする」


 戦闘指揮は明智光秀が執る事になり、信行から軍配を渡されて軍監に任じられた。


「内藤勝介、佐久間盛重、木下秀吉を留守居とする。直虎を支えて城を守ってくれ」


 信行正室の直虎が鳴海城主となるが、三人が鳴海城に残り直虎の補佐役を務める。


「治部少輔様、簗田政綱様がお見えになられました」

「間に合ったか。こちらに案内してくれ」


 広間が再び騒々しくなった。簗田政綱は信長直臣で普段は那古屋城に詰めており、今回の美濃侵攻には参加せず那古屋城の留守居を任されている。その簗田政綱が突然姿を見せたので事情を知らない大半の者が驚いていた。


「簗田政綱、遅ればせながら治部少輔様の与力として末席に加わらせて頂きます」

「一日遅ければ置いてけぼりだったぞ」

「御屋形様に感謝しなければなりませんな」


 信行は予てから人手不足を信長に訴えており、信長も近いうちに対処すると返答していた。信長は那古屋城留守居役を務める者の中から簗田政綱を選んで声を掛けていた。簗田政綱が準備を終えて鳴海城に来てみると三河侵攻の評定を行っていた次第である。


「簗田政綱、早速だが七番隊を任せる」

「心得ました」


 三河侵攻に簗田政綱が加わり態勢に一層厚みを増す事になった(佐久間盛次は八番隊に変更)。

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