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織田信行が行く  作者: あひるさん


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第28話 墨俣一夜城

ご覧頂きましてありがとうございます。

ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

差し支え無ければ誤字・脱字の指摘もお願い致します。

「服部正成と申します」


 千賀地保俊と共に鳴海城を訪れた服部正成は信行と対面した。


「織田信行です。よく決心してくれました」

「松平元康が三河に背を向けた以上、従う義理はありませんので」


 服部正成は信行に本心を語った。松平元康に対する憎しみは服部党の総意とも言えた。


「私は三河を大事にする事を約束しますが、時期が来れば東に向かう事になります」


 信行も本音を語った。三河は遠江侵攻の拠点となり、遠江は駿河侵攻の拠点となる。三河を本拠地として利用するのは短期間で終わるのは必然だった。


「治部少輔様の考えは兄から聞いておりますのでご安心下さい」


 服部正成は千賀地保俊から予め話を聞いていたので信行のやり方に異議を唱える事はなかった。


「服部党の実働部隊は正成に指揮を執らせます」


 千賀地保俊は情報の取り纏めを担い、服部正成が情報収集など現地での活動を担う。


「早速ですが三河の状況確認と松平旧臣の離反工作を頼みたい」

「お任せ下さい。離反工作については父服部保長を充てたいのですが」


 服部正成は松平旧臣と面識はあるが突っ込んだ話を出来る関係に至っていない。服部保長なら付き合いも長いので相手も聞く耳を持つと見ていた。


「二人の思うようにやって構わない」


 これまで千賀地保俊に一任してきた事なので服部党が加わったからといってやり方を変えるのは相手の心証を悪くすると思っていた。


*****


 信長は土岐義龍が再起不能の大怪我を負った事を受けて美濃侵攻を本格化させた。本拠地である稲葉山城の南方に位置する墨俣に本陣を構えて自ら陣頭指揮を執っている。


「御屋形様、治部少輔様がお見えになられました」

「寝惚けた事を申すな。勘十郎は三河侵攻の準備で」


 伝令役があり得ない事を言ったので注意しようとしたらその背後から信行が手を振っていた。


「面白そうなので見に来ました」

「三河侵攻の準備は?」

「内藤勝介と明智光秀に任せています」


 信長からの手紙を一読した信行は内容に興味を持った。直ぐに家老の内藤勝介と軍配役の明智光秀を呼んで『兄上が面白そうな事をしているので後学の為に見聞してくる』と伝えて直接美濃に向かった。三河侵攻の準備を始めているので千秋季忠と赤母衣衆(信行の親衛隊)だけの小規模に留めた。


「それなら良いだろう。案内してやろう」


 三河侵攻の準備が疎かになっているなら一喝してやろうと思っていたが、しっかり進めている様子なのでそれ以上聞かずに城の案内をする事にした。


「これだけの砦をよく築けましたね」


 墨俣砦は堅牢な作りになっている上に小さいながら御殿もある。信行は砦の内部を見てそれなりの犠牲を払って作り上げたと思っていた。


「一夜で作り上げた。無論死傷者も出ていない」

「兄上、冗談はよして下さい」


 信長は自信満々の表情で語ったが信行は俄に信じられず呆れた様子で信長を見た。


「御屋形様の申された事は全て事実です」


 御殿から竹中重治が出て来た。二人の会話が耳に入ったらしく信行に説明する為に姿を見せた。


「可能ならば絡繰りを教えてほしい」

「承知致しました」


 信長と信行は竹中重治に続いて御殿内部に入った。


「あっ、尾張の毒蛇じゃねえか」


 御殿の中に居た蜂須賀正勝が信行の顔を見るなり聞きたくない渾名で呼んだ。


「それだけは勘弁してほしい」

「尾張の毒蛇か…。勘十郎にぴったりの渾名だな」


 嫌がる信行を尻目に信長は大笑いしていた。


「治部少輔様に相応しい渾名だと思います」


 人を茶化す事を好まない竹中重治が予想外の事を言ったので全員が一斉に視線を向けた。


「御屋形様に反旗を翻した織田信広を極秘裏に討ち取り、土岐義龍に再起不能の大怪我を追わせた。その前には今川と通じていた佐治為景に腹を切らせてます」


 信長の障害となり得る者に対して容赦なく攻め立てて悉く始末している信行に相応しい渾名だと竹中重治は語った。


「理詰めで言われたら拒めなくなる…」


 信行は反論する気が失せてしまったが、竹中重治は蜂須賀正勝に対して『公の場では治部少輔様と呼ばなければ無礼討ちにされても文句は言えない』と説教を始めた。


「絡繰りは俺が教えてやろう」


 信長は墨俣砦が一夜にして完成した絡繰りを信行に説明した。


 竹中重治が予め引いておいた図面を元に蜂須賀正勝が川並衆と共に長良川上流にある山林で木を切り出してその場で組み立てに必要な細工を施した。指定された日の夜に切り出した木を筏代わりにして長良川を下り墨俣付近で上陸して木を予定場所に運び込んで待機していた将兵と共に砦の外周部分を組み立てた。


 土岐側は夜が明けてから砦の存在に気づいて直ぐに稲葉山城から一隊を差し向けたが、砦内部で待ち構えていた佐久間信盛率いる部隊に返り討ちにされた。その後に尾張から物資が運び込まれて指揮所代わりの御殿も建てられた。


「条件が合う場所ならいつでも使えますね」

「そういう事だ。西濃三人衆の説得が上手く行けば時間の問題になる」


 西濃三人衆と呼ばれる稲葉良通、安藤守就、氏家直元は斎藤利政を見限って土岐義龍に乗り替えたが当の本人が再起不能となり、反りが合わない日根野弘就や斎藤利忠が実権を握ったので距離を置き始めた。信長は竹中重治を通じて説得工作を行っており良い感触を得られていた。


「分かりました。私も三河侵攻を本格化させます」

「その前に那古屋に寄れるか?」

「構いませんが」

「帰蝶が娘を産んだから顔を見てやってくれ」


 半月前に帰蝶が五徳姫を出産していた。信長は美濃侵攻の関係で顔を見ていないが『俺と帰蝶の間に生まれた女子だから可愛い筈だ』と信行に惚気ていた。


「分かりました」


 尾張のウツケと呼ばれる信長が子供の事を惚気るのを見て信行は新しい一面を見たような気がした。

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