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彼は王子様になれない  作者: カキノキ
19/42

兄は助けたかった

本日2話目。兄視点です。ブックマークありがとうございます!



俺、トマスは、なすすべも無く、レオン王子殿下と妹が2人。

庭に出て行く後姿を見送っていた。


これほどの悔しさを味わったのは初めてだ。

王子殿下は俺の6歳年下だというのに、父上から妹と2人で散策する権利を上手く取り付けてしまった。

ローゼマリーと王子殿下だけで、送り出すなど不安でしかない。

本当は俺と3人、用意してあるガゼボに行くはずだったものを。







晩餐の席にて行動を改めると宣言したアレは、いや…妹は本当に心を入れ替えたように動き出した。

使用人に対して、嫌味でも罵倒でもなく、感謝や労りの言葉をかける。

その度に使用人からは、一体何を企んでいるのか。言葉の後にどんな罠が仕掛けられてるのか戦々恐々とした雰囲気が伝わってきたが、恐れは現実になることなく今日まで続いている。

あの自分だけが納得する理論で怒鳴る事も、不満を吐き出す事もない。


こんな静かな屋敷などいつ以来だろうか。



おまけに王子殿下が、『見舞い』に来るという話になり、サボって逃げていたマナーまで教わりだした。

殿下を迎える為に、最低限貴族の娘として身につけるものを教わりたいと自ら教師の下に赴いて、学びだしたのだ。

これには公爵家の総ての人間に激震が走った。


その前にも王子殿下に手紙の返信をする為に、家庭教師に付きっ切りで添削を受け、返信したという。

俺は内容を見ていないが、教師の報告によれば何度も書き直しながらだが、感謝と謝罪が伝わる、しっかりした手紙を書いたと父が教えてくれた。


信じられない。教わりながらでも自分で考え、書いたというのか?

絶対に代筆させ、出来だけ文句を言うのが、今までのアレだったというのに。


手紙の件は数人しか知っていなかったが、マナーの件は違う。

なにせ、挨拶の仕方や歩き方にいたるまで、部屋付きの使用人の前意外でも教わっているのだ。屋敷中の人間に知れ渡る事になる。

今までサボっていたのは何だったのか不思議なくらいの熱心さで、教わる姿がみられることになった。



流石のアレでも王子殿下に失礼をした事に気付いて、焦っているのではないか?失態を取り戻すために、至急身に付ける為に動いているのではと、推測された。

確かにその説明が、一番しっくりくるものだと思っていた。


だがマナーだけでなく、学問までも同時に進めているというではないか。

家庭教師達からは、その授業に対する熱心さや取り組み方に別人のようだと驚かれている。そんな彼らから父に上がってくる報告は、聡明かつ真面目な生徒という評価で、それはどこのご令嬢かと問いたくなるものばかりだ。


マナーを受け持つウェイツ夫人など品の良い笑顔で「一流の淑女になられますわ」と言っていたが、夫人がそう仕向けるんだろうと…少し恐ろしい気持ちになった。


熱でおかしくなった。王子殿下に惚れた為に張り切りだしたのでは?

皆がそれぞれ好き勝手な考えを述べても、正解は分からない。

ただ最近の妹は、熱心に学び、人に感謝できる娘であるという事だけは確かだ。



そして本日とうとう王子殿下が来られた。

よりによって、第一王子で在らせられるレオン王子殿下の、初めての臣下邸宅訪問先が我が家だとは。

大変光栄ではあるのだが、それは妹の事が無ければだ。

この事で婚約者候補に残っていると思われるではないか。


父も城にて陛下よりお話を賜ったときに、何故かを問わせて頂いたらしい。

いわく、王子殿下が大変熱心に我が家に来たいと言われたとか。

王子殿下の周りには当然だが同じ年頃の子供が居ない為、初めて会った子供に興味があるのだろうとは、父の見解だ。

なら少し年上でも、同じ子供である俺も興味を引くのではないか。

ただ見舞いが名目なので、妹は外せない。

来られたらなるべく3人で行動し、妹を接触させず俺が対応する事。

そう父と示し合わせていたのだが…。



(思いっきり、ローゼマリー目当てではないか!)


興味など軽いものではない、明らかに好意を乗せた目で妹に接している。

強面の父にさえ恐れを見せず、堂々と渡り合い、母には貴婦人として礼をする。

俺には親しみを感じさせるが、礼儀正しく接する評判どおりの王子だ。


なのに妹にだけ、明らかに熱量が違う。


(このマセガキが…)


握った拳に力が入るのが分かるが、我慢である。

妹も礼儀正しく…学んでいる姿を影ながら見た事はあったが、その時以上のしっかりしたマナーで王子殿下と接している。見事だ。

だが必要以上に親しくなろうという意志はないようだ。逆に距離を置きたいようなそぶりを見せているというのに。


(父上、これは一体どういう事ですか!?)


顔が引きつりそうになるのを抑えて、目で父に問う。

父上も困惑した顔で、俺と同様に表情が乏しいので親しい人間にしか分からないが…目で分からないとと答えてくる。


(分からんでは、済まないでしょう!)


城での顔合わせは散々だったと聞いていたのに、コレは真逆ではないか。

なんとかこちらに興味を持たせようとするが、上手くかわされて、とうとう庭へは妹と2人散策する事になってしまった。

己の力不足が情けない。

付添いの者達には、“くれぐれも”注意しろと強く言い聞かす。



「では、クリスタル嬢まいりましょう。こちらの庭は素晴らしいと聞いていましたので楽しみです」


「はい。庭師達が丹精こめた庭は、この天気ですもの。散策するのに絶好の場所ですわ。参りましょうか…」



(どうしたんだ…)


まさかと思ったが、つり目だが愛らしいアーモンド形の大きな瞳。

妹のそれが切なげに俺を見ていた。

こちらを見たその目は確かに、俺を…兄である俺に助けを求めていたのだ!


(なんという事だ…!せっかくこの俺を、兄を頼ってくれているのに…すまない…本当にすまない、ローゼマリー!この不甲斐ない兄を許せっ!)


以前の妹は、性格が歪んで、それでも愛らしく、まるで人を苦しみへいざなう闇の妖魔のような存在だった。

なのに今はなんだ。

可愛いだけではなく、凛とした態度、優しい心、女神である!!

その女神なローゼマリーを守れず、見送るなど。

心配だ。とてつもなく!野郎と2人きりなど、心配以外ない。


やはりここで待つだけなど、やり切れない、だが仕方ない。

使用人達や影達に目立たぬよう、さり気に状況を細かく報告するよう命じる。

何、皆で無茶だという雰囲気を出している?諦めるな。


父上が呆れた顔をしているが、構うものか。

ローゼマリーが、あの可愛い妹が俺を頼ってくれたのだ!


「トマス…、心配しすぎではないか?」


やりすぎだと言われるのか?

冗談だろう。足りないくらいだ。

もし、少しでもローゼマリーに不埒な真似をしてみろ!即行で乗り込んでやる。

その為の準備だ。抜かりは無い、クリスタル家次期当主の力を見せてやる。

待っていろ!この兄が助けるからな!




最初は我が家の庭を、ゆったりと散策しローゼマリーは見事、王子殿下を案内しているようだった。素晴らしい。


だが、だんだんと報告内容が不穏になってくる…。



「はぁ?2人で赤くなって見詰め合っている?…肩に触れた?その上、手を握っただと!?剥がしに行くぞ!何、もう移動した?」


(旦那様、お嬢様が涙を見せられた事は…)

(絶対にトマスに漏らすな)



いらいらする。やはり、2人きりなのが問題だ。

大体、エスコートだと?俺でさえ、まだした事がないのに!

小さな紳士と淑女で、ご立派です…か?

当然だ!あの努力をした姿は伊達ではない。あの子が己で身に付けたのものだぞ。ゆえに待てと?…ふむ、確かに頑張っている所をじゃましては…。

分かった。




「ガゼボに無事着いたのか…人払いに、防音?あの王子、ローゼマリーに何する気だ!!乗り込むぞ!…皆で見ているから安心?マナーの実践……そう、だな…」


「ずっと防音とは、一体王子と何を話しているんだ!…楽しそう?笑っている………いや、俺も少し外を歩こうかと思って…たまたま通りかかるだけだ。問題は無い。ついでに茶を一緒に…くそっ放せ!」




「はぁ…我が家の子供は問題児ばかりか?」


クリスタル公爵家当主ジャスパー・クリスタルは執務室で小休憩を取りながら、目の前の騒ぎを見ていた。


自分に良く似た、めったに表情を動かさない真面目で通っていた長男が、妹の為に悩み叫び、取り乱している。

おまけに使用人達に止められる姿など、コレまで見た事もなかったが…。


(良いものだな)


「ふむ、こんな問題なら可愛らしいものだ…」


普段と同じように入れられたはずの紅茶は、いつになく美味く優しい味がした。



兄としての使命を果たさんと気合を入れて待っていたトマスは、その後、戻ってきた愛する妹が照れながら王子と婚約したいと報告することで、膝をつくことになる。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

寒さが戻ってきたり感染も広がってますが、どうぞ体調崩されませんように。

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