*好奇心
「凄い……」
マークはその内容に驚愕した。
「本当に実現していたなんて」
ベルハース教授リーダーのもと、10人の科学者たちが成功させた遺伝子研究。ほぼ現存する全ての人種のヒトDNAを収集し、それを分裂・合成・結合させた人工生命体。
これが世に知られればとんでもない事態になるだろう。生物学的にも人道的にも。
「! 人の胎内を介していない? 完全なる人工生物……こんな事って!」
マークは時間も忘れて書類に見入った。
人道的な論点はさておき、遺伝子を研究している者にとって夢にまで見た研究を秘密裏にこの国は行っていた。そして成功している。
是非見てみたい……マークは居ても立ってもいられなくなった。
「現在の年齢は9歳。成長速度は常人と同様。回復速度はやや速い。しかし回復力は常人とは著しく異なりかなり優れている。視力、視力は……? 両目ともに2.0で低下は見られない」
資料には『男性』と書かれているものの外見的特徴は一切、書かれていなかった。情報が外部に漏れる事を懸念した処置なのだろう。
「……ふう」
読み終えたマークは深い溜息を漏らした。そして立ち上がると、ガードが書類を透明のケースに入れるように促した。
他に持っていない事を確かめてガードはスイッチを押す。
「!」
書類は静かに炎を立てて燃えていった。
車を走らせて帰路に着く。その間も視察の事で頭は一杯だ。
「ただいま」
「! おかえりなさい」
妻のローラが迎える。2年前に彼女と結婚して僕の仕事もちゃんと理解してくれている。ブロンドのゆるやかで綺麗なカールを描く髪と海のような青い瞳。僕の一目惚れだ。
「え、出張?」
「うん、2日後に一週間ほどね」
ローラは少し寂しそうな顔をしたがすぐに笑顔を作る。
「気をつけてね」
「もちろんだよ」
言って彼女を抱きしめた。
視察に向かう前も向かっている今も、マークの心中は早く『キメラ』に会いたくてそわそわしていた。
一体、どんな少年なんだろう。いや、見た目はどうなのか解らないが成長速度は常人とほぼ同じだと記載されていたし、性別も男性とあるんだから……とマークは勝手に『少年』と位置づけた。
まだ9歳か……青年は目を細めて思いにふける。軍のジェットで数時間移動し、その後は軍用ヘリで施設に向かった。
施設に到着してからがまた大変だった。中に入るまでに色んなチェックを受け続ける。
「はあ……」
そりゃまあ機密事項だし貴重な存在がいるから理解はしているものの……と疲れてうなだれた頃、ようやく最終チェックも終了した。
「!」
そんなマークの前に50代半ばと思われる1人の男性が無表情に立つ。白衣を着ている処を見ると科学者の1人か。
「初めまして、マークです」
緊張しながら手を差し出した。
「ベルハース。よろしく」
「!」
この人が!? マークは羨望の眼差しでベルハースを見つめた。そんな彼にさして関心も示さずベルハースはさっさと歩き出す。
「あ……っ」
慌てて後を追うマークに老齢の男はぶっきらぼうに発した。
「君のような者が送られてくるとは、この研究所は店じまいかね?」
明らかに嫌味のこもった言葉にマークはムッとした。
「これでも僕は博士号を持っています」
「! ほう……」




