1 料亭の娘
(そろそろ仕事見つけないとなぁ)
桃華は客が食べ終わった皿を片付けながら思い悩んでいた。
家族はここを継いだらいいといってくれているが正直、そこまで迷惑をかけたくはない。実の娘でない私をここまで育ててくれただけでもありがたいのに、料理の才能がない私なんかが店を継いだら潰しかねない。
そもそもここ翠玉楼はそれなりに人で賑わっている、つまりは売れている店だ。売れてないならまだしも、人の功績を他人が取るような真似はあまりしたくない。
これはただの自己満足になるのかもしれないけど…育ててくれたお金くらいは自分の力で稼いで返そうと思っている。
「嬢ちゃんこっちで酒注いでくれない?一緒に飲もうぜ。」
格式ある料亭といっても厄介な客というものはどこにでもいるものだ。
「すみません。まだ仕事中ですので。お酒だけならお注ぎいたします。」
桃華がお酒に手を伸ばそうとすると男に手首を掴まれ引き寄せられた。
酒の匂いに混じって汚臭が漂ってくる。恐らく何日も水浴びをしてないのだろう。
「そんな遠慮するなって。女将には俺から口添えしてやるから。」
「あの、こういったサービスを受けたいなら向かいの妓楼にでもお行きください。うちはそういうサービスは行っておりません。」
「テメェ、俺らのことばかにしてんのか。」
できるだけ丁寧に答えたつもりなのだが、桃華はいきなり胸ぐらを掴まれた。なぜこう言った連中は後先考えず行動するのだろうか。
「そんな金あるわけねぇからここに来たんだろうがよ。」
いやいや、うちの店はそう言った店じゃないと言っているのに話が全く通じていない。そもそも身なりからしてここでの食事代も払えるようには見えない。
ということは多少雑に扱っても大ごとにはならないだろう。
桃華は、胸ぐらを掴んでいる手を掴み返し足を払って転ばせた。
「なっ…!いてぇ。お、お前え客にこんな事していいと思ってんのか!」
「客?どこに客がいるのでしょうか。私の目の前にいるのは払える金もないのに絡みに来た厄介者ではなくて?」
挑発が過ぎたのか男は再び桃華に襲いかかかろうとしてくる。
「はぁ。これ以上問題を起こされるのでしたら捕吏を呼ぶしかないのですが。」
捕吏という言葉に男の手は止まった。流石に捕まるのは嫌だったのだろう。
だったら最初から面倒ごとなど起こさないでほしい。
「っち。このことは飯代でちゃらにしてやる。ありがたく思って、ことを大きくするなよ!」
結局、払うつもりはなかったらしい。恐らくこういったことを他の店でもやっているに違いない。
あれは捕まるのも時間の問題だな。
迷惑客を追い出すと周りから拍手が飛んできた。
「流石は桃華ちゃんだな。大男にビビりもしないで転ばせるとは。」
「大したもんだ」
「一体どこでそんな体術を身につけたんだ?」
「…昔、4年くらい前に親切なお客さんから体術と剣術を学びました。おかげで厄介なお客が来てもこうやって対処できています。」
まあ流石に宦官みたいな武術剣術を身につけた人に襲われたら負けそうではあるけど。
「ちょっと一体何事?って桃華あんたまた絡まれたのかい?大丈夫だった?」
騒ぎを聞きつけたのか奥の厨房から義母がやってきた。
問題が起きるたび大ごとになって少し申し訳なく感じる。
「大丈夫。少し絡まれただけだから。それに少し脅したら帰っていったし。」
「悪いね、問題が起きるたび対処してもらって。疲れただろう?休憩がてら外の空気でも吸っておいで。ついでにお使いも頼めるかい?」
お使いというのは多分口実だ。こちらに気を使ってのことだろう。
本当に気にしてないのに…
「分かった。行ってくる。」
大丈夫と言っても多分押し切られる気がしたのでここは素直に好意を受け取っておくことにする。
お店を出る際、桃華は辣椒を買ってくるよう頼まれた。
お店から一番遠い店…それに、余分に渡されたお金。
好きなものでも買っていいと言う事だろうか。ちょうど小腹が空いていたからありがたい。
「いてっ。すみません。」
らしくもなく、桃華は前の人の足につまずいてしまった。
考えごとをしてたせいか。いけない。
…というか、いつもより人通りが多い気がする。
(今日って祭りかなんかやってたっけ?)
気になって、人波に身を任せ歩いていくと看板の前でなにやら行列ができている。
「宦官試験を受けたい奴は順番に名前を書いていけ。」
「一応言っておくが書いたからといって誰でも受かるわけじゃないからな!」
どうやら、宦官試験の応募のために集まっていたらしい。
…宦官か。
安定した収入ももらえるし、職も安定している…
…
男っぽい化粧をして、胸を隠したらいける、か?
試験実施日は後日…
挑戦してみる価値は、あるか。




