第2話 スターライト・エターナル・ブリリアント・シャイニング・フラッシュ
「黒瀬君……あなた、こんな所で何やってるの?」
「それはこっち台詞だぜ」
カイは髪をかき上げた。
「桃瀬みたいな委員長キャラが、まさかこんなフリルのついたドレスを着て……」
ここまで言った時、桃瀬がワーワーワーと言って会話を妨害した。
「言わないで、言わないで!」
すると桃瀬はカイのことをキッと睨んだ。
「とにかく、私には負けられない事情があるのよ」
「事情って?」
「それは、あなたには関係のないこと。それにね、私のプリキララ愛は半端じゃないの。海よりも深い愛が宿ってるのよ。これだけは誰にも負けないわ」
「そんな想いだけで勝てたら苦労しねえよ」
すると桃瀬は腕を組みながらフフンと笑った。
「あなた、何にも知らないのね」
「し、知らないって何が?」
すると桃瀬はリングの回りを指差した。
「御覧なさい!このリングをグルリ取り囲んだ観客席を!」
「それがどうしたってんだよ? ……あっ!」
カイが見渡すと、そこには悪魔たちがポップコーン片手に雑談を交わしていた。
「観客が悪魔ばっかだ」
桃瀬はフフンと鼻を鳴らした。
「やっと気づいたのね。そう、ここは「魔界のバラエティ番組」の収録現場なのよ」
「収録番組?」
桃瀬は頷く。
「このバトルは魔界で人気の番組でね。会場まで見に来る人はかなりのマニアだと聞いているわ」
「人間のバトルなんか見て面白いのかよ」
すると桃瀬がフフフと笑う。
「あなた、本当に何も聞かされてないのね?」
桃瀬はそう言ってからカイを指差す。
「違うわね、あなた、何も質問しなかったんでしょう?」
桃瀬は腕を組みながら、見下すようにカイを見つめた。
「どうせ魔法のひとつでも見せられて、うっわ、すげ!とか言って、すぐにサインしたのでしょう?」
「グサーっ!」
カイはその場で膝をついて身悶えた。
「どうして俺のことがそこまで……もしかして、俺のことが好きなのか?」
すると桃瀬は近くのテーブルに合ったゴングを握りしめると、カイめがけて投げつけた。それはカイの顔面を直撃する。
カーン!
ゴングが鳴った。痛みに悶えながら顔を上げると、本気で怒っている桃瀬がいた。
「冗談で言っただけだろ!」
「五十嵐の桜坂君ならともかく、お前に言われたくねーわ!」
作者注:五十嵐とは、有名アイドルグループのことである。
「ここに集まった悪魔たちはね、様々なタイプがいるのよ。例えばあの青い悪魔は羞恥心。あっちの赤い悪魔は怒り。それから緑の悪魔は喪失感ってね。様々な負の感情をつかさどる悪魔たちなのよ」
「その悪魔たちが、ここへ来てどうしようってんだ?」
すると桃瀬は、あからさまに大きなため息をついた。
「はーーっ、ここまでヒントをあげてもわからないのね。いいわ、教えてあげる。悪魔たちは人間の負の感情を糧に生きているの。そんな彼らがこの番組に出資しているからこそ、私たちも、代償なしに強力な魔法が手に入るんじゃない」
「なるほど!」
すると桃瀬はカイに背中を向けた。そして、リングへと歩いていく。
「そういうわけだから、くれぐれも私の邪魔だけはしないで頂戴ね。邪魔すると痛い目に遭うわよ」
桃瀬はそう言ってギロリとカイを睨むと、リングへと上がっていった。
「赤コーナー! 99パウンド! 奇跡と希望の魔法少女! 光り輝くピンクの戦士! ももせーーひかーーりーー!!」
ワーワーワー
悪魔たちの歓声が飛ぶ。
桃瀬はツインテールを揺らしながら、ロープをくぐり、観客席に向けて両手を振った。そして、リング中央でポーズを取る。
「みんなの夢を守るため! 星降ル乙女・ルミナリア、参上!」
カイがルミナリアって誰?って思っていると、リング上の巨大モニターに何かが映し出された。
「桃瀬ひかり、16歳。清真高校1年生。彼女が小学五年生の時に自由帳に描いた、等身大の自分と王子様が結婚する相関図」がこちらです……」
これを見た桃瀬は絶叫した!
「ぎゃああああ! 映さないで! それだけはマジでやめて!!」
爆音のBGMと共に公開される。
悶絶するひかり。
しかし、これこそがバトルのルール。「己の黒歴史を開示し、その恥ずかしさを魔力に変換して殴り合う」という地獄のシステムなのだ。
巨大モニターに、小学五年生くらいの女の子が映し出された。ノートにカラーペンで丁寧に何かを書いている。ページが空中に広がった。
『星降ル乙女・ルミナリア。光の力で悪を浄化する戦士。変身アイテムはスターロッド。必殺技は「スターライト・エターナル・ブリリアント・シャイニング・フラッシュ」。仲間思いで涙もろいが戦闘力は最高クラス。好きな食べ物はショートケーキ。将来の夢は世界を守ること。身長は157センチ(予定)』
会場が静まり返った。
カイが顔を覆ったまま言った。
「身長に予定ってなんだよ」
「うるさい!」ひかりが叫んだ。
「小学生だったんだから仕方ないでしょ!」
これには羞恥心の悪魔が投げ銭を桃瀬に送った。
するとレフェリーが反対側の男の子を指差す。
「対するは……青コーナー! 両の手に包帯を巻きし、冷酷なる蒼炎の使い手! その炎は触れるものすべてを凍てつかせる! あおいーーーれいーーーやーーー!!」
「蒼井零夜?」
蒼井はケケケという不気味な笑い声をあげた。
「なんだか強そうな奴が出て来たぞ」
カイは少し心配になった。
桃瀬は強がってはいたものの、一応女の子だ。
「あいつ、大丈夫なのか?」
カイが不安気な視線を桃瀬に向けた時、試合開始のゴングが鳴った。
開始の合図と同時に、蒼井が右腕の包帯を取った。すると彼の腕に宿りし青い炎がボウッと浮かびあがる。
「ヒヒヒ……この炎はへぶっ!」
桃瀬は光の杖で蒼井を殴りつけた。
「ううう…‥」
よろける蒼井に、桃瀬が……いや、星降ル乙女・ルミナリアは、両手に持ったスターロッドを、バトン・トワリングも顔負けの腕前で回し始めた。
「くらいなさいっ! スターライト・エターナル・ブリリアント・シャイニング・フラッシュ!」
桃瀬がスターロッドを天高く掲げると、杖の先端に星屑のような光の粒子が集まりはじめる。それはみるみるうちに膨れ上がり、やがて直視できないほどの眩い光の塊となった。
カイは思わず、手の平を頭上にかざした。
「眩しくて何も見えんわ!」
そして、その光が解放された瞬間、それは無数の閃光となって四方八方に広がり、対象をあらゆる方向から同時に貫いた。
零夜は蒼炎を構えたものの、桃瀬の杖から放たれた光があまりにも眩しすぎて、その場で目を押さえてうずくまるしかなかった。
「うわあっ!」
誰もが眩しくて、何も見えない。
その光が収まった時、リングの上で蒼井がグッタリと倒れていた。
そして、頭の上には無数のたんこぶが出来ていたのだった。
カイはそれを見て、冷や汗を流した。
「あいつ……スターライト(星の光)、エターナル(永遠)ブリリアント(眩いほどの輝き)シャイニング(煌めき)フラッシュ(閃光)って……全部眩しいって言ってるだけじゃねえか!」
それと同時に、カイは桃瀬の秘密を一発で見抜いていた。
「あいつ、おそらく眩しくて何も見えない間に、あのスターロッドでボコボコにしたに違いない」
リングに静寂が満ちた。
セコンドが咳払いをひとつした。
「……か、カウント要りますかね?」
だが、誰からも答えは返ってこなかった。
カイはただ、ピンクのドレスの後ろ姿を見つめていた。
(あいつ……本当に、あの委員長なのか?)
すると、カイの視線に気付いた桃瀬が、ニヤリと笑いながら指差した。
「次はあんたの番よ!」
それを挑戦状だと受け取ったカイは、桃瀬との対決に、宿命めいたものを感じていた。
するとその時、アナウンスが鳴り響いた。
「赤コーナー! 120パウンド! 夜中に窓の外に向かって技を放っていた! いずれ異世界へ召喚される選ばれし大魔法使い! くろせーーかーーいーー!!」
突然、名前を呼ばれたカイは、思わずキョドっていた。それを見た桃瀬は大きなため息をついた。
「もう……だから次はあんたの番よって教えてあげたのに……」
「わかりにくいんだよ!」
カイは慌ててリングへと上がった。
すると、青コーナーのリングサイドには、妙なロボットがあるではないか。それは、全長5メートルほどの、戦車を模したデザインで、顔面にカメラの望遠レンズのようなものが付いている。
「あれは……『機甲歩兵バトムズ』に出てくるロボット『アーマード・シェル(AS)』じゃないか!」
俺は青コーナーのポストに座る男の姿を見た。その、水色の髪をした男は戦いには飽きたといった顔をしていた。彼はカイを一目みて立ち上がると、軽くコホッと咳をした。
「むせる……」
俺の背中に寒気が走った。




