第6話 行軍は目的地にたどり着く
たこ焼き屋の店先に並ぶ二人。
道頓堀の喧騒は、陽人の頭の中の混乱をさらにかき乱していた。
(……やってしまった。あんな嘘、言うつもりじゃなかったのに)
(畑野さんは怒ってないのか? 僕に合わせてくれたのは……
ただ僕を嘘つきにしないための同情なんじゃ……?)
永山の「やきもち!?」という言葉が、呪文のように頭の中で反響する。
(違う。違う違う違う。
あれは律の言う通り、畑野さんを助けるための進軍で……
断じてやきもちなんかじゃ……!)
頭の中に、後悔と不安と自分への言い訳が渦巻く。
前に並ぶ朋美の後ろ姿からは、何も読み取れない。
ただ静かで、ただ綺麗で、ただ――怖い。
陽人の足取りは重く、並ぶ行列さえ早く感じた。
***
たこ焼きを受け取り、二人で並んで歩く。
湯気がふわりと上がり、かつお節が踊っている。
陽人は意を決して口を開いた。
「ごめん。さっきのは、その。とっさにあんなこと言ってしまって。
律が……畑野さんが困っているから助けてやれって……」
恐る恐る朋美を見る。
朋美はたこ焼きをフーフーと冷ましていた手を止めた。
そして、陽人の目をまっすぐに見つめて言った。
「風見が、自分で決めて、私のところに来て……止めてくれたんだよね。
……それでいいんじゃないかな」
「……」
朋美の「それでいい」という言葉の破壊力に、陽人は息が止まりそうになった。
胸の奥が熱くなり、足元がふらつく。
***
「……風見? どうしたの、顔すごく赤いよ」
「……た、たこ焼きが熱いから! ほら、かつお節、踊ってる!」
動揺を誤魔化すため、陽人はまだ中が熱々のたこ焼きを一口で頬張った。
「あっ、ふ、ふは……っ!」
顔を真っ赤にし、口をはふはふ、目を白黒させ、じたばたと悶える陽人。
そのあまりに無様な姿に――
「……っ、ふふ、あはははは!」
鉄の無表情を誇った朋美が、お腹を抱えて大笑いし始めた。
「も、もう……人が苦しんでるのに……」
涙目で差し出されたペットボトルの水を飲む陽人。
「ごめん、ごめん……だって、すっごい変顔で……おかしくて……」
朋美はまだ笑いをこらえきれない。
「変顔って……」
熱いたこ焼き一つで、二人の間の壁が完全に溶けていくのを陽人は感じていた。
***
新大阪駅。
新幹線の改札へ向かう前の、最後のお土産タイム。
朋美が売店の一角で足を止めた。
そこには、京都で陽人がこっそり買った白い狐のキーホルダーが並んでいた。
「……あ、これ。ここにも売ってる。へえ、ピンクのもあるんだ」
彼女の指先が、ピンク色の狐に触れる。
そのとき、店員が声をかけてきた。
「それ、修学旅行の方に人気なんですよ。
好きな人と白とピンクで揃えると、両想いになれるって評判で」
朋美は少しだけ、本当に少しだけ考えた。
そして迷いのない手つきで、ピンクの狐をレジへ持っていった。
(え、えええ!?)
(それって僕とペア? いやいや、ただピンクが欲しかっただけだろ)
(でも、あの話を聞いた後で買うのは、やっぱり……!!)
陽人は、勝手な妄想を爆発させる。
***
少し離れた場所でお土産を物色していた律と由奈が近づいてきた。
律が静かに言う。
「これで行軍は終了。……我々は目的地についた」
由奈が目を丸くする。
「……珍しいわね。
あんたなら、ここで『これぞ何とかの計!』とか騒ぎそうなのに」
律は初めて、軍師ではなく友人の顔で笑った。
「これからの行き先は、お前自身が決めるんだ。
……そうだろ、陽人」
陽人は、ピンクの狐を袋に入れる朋美の横顔を見つめた。
もう、律の解説など必要なかった。




