part13
最近、警察の僕への取り調べがだんだんと減ってきている。少し前まで毎日毎日、2、3時間は拘束されていたのに何の取り調べもない日も出てきた。そしてそんな僕とは対照的にいじめっ子の彼らに対する取り調べが反比例に増えていっている。
いつもの登下校の道、急勾配の坂道に苦戦する自転車通学性を見やるふりをして後方を確認する。数カ月前までは鬱陶しくしか思わなかった道でも今となっては最高の道だ。
この場所は好い。なんといっても開けている。隠す気があるのかと突っ込みたくなる杜撰な尾行すらもここ数日は無くなっている。背の高い馬面と背の低い魚面の不細工だったのでよく印象に残っている。彼らに着られる背広も可哀想だ。
これは作戦の第二フェーズに移行したとみて間違いなさそうだ。第一フェーズは最もな動機とふざけたアリバイの僕への関心の集中。第二フェーズは僕へのアプローチが上手くいかない故に考え付く内部分裂、奴らへのターゲット移行。
第一フェーズで思っていた数倍時間を稼げた。予想外のことは一つ起こったがそれも想定内であったことだ。それは想定していたより警察が愚鈍なことで十分帳尻はあっている。警察は思っていたより機能していない。第二フェーズに移行した今、あれが発見されるのも時間の内だろう。今のところすべてが上手くいっている。
……ただ、一つ気になることはあの高校生達、本気で首突っ込んで来ようとしているのは若干の不安要素ではある。
今僕が彼らと共犯であったと自首をしたとして、彼らのその日のアリバイが証明されたとしたら僕に何か隠しておきたいものがあることがあからさまであるし、捜査が打ち切られることが無くなってしまうかもしれない。
主犯は殺した。例え親友が彼に殺されたようなものだとしても、それで直接的に殺される謂れには決してならない。仮に許されていい範囲があったとするのなら、それは彼を自殺に追い込むほどいじめることぐらいだ。こんな言い方良くないが、晴馬も逃げりゃよかっただけだ。僕は正しく晴馬にも怒りを感じている。
もう残った奴らを殺しまわる予定はない。出来れば罪を擦り付けられたのなら完璧だが、捕まるリスクや捜査が長引くリスクとつり合いに取れるほど叶えたいものではない。
……痛む。
鳩尾と脇腹、痛む人間の急所を擦りながら今日のことを思い出す。
「おい! てめえ何吹き込みやがった!?」
怒りの鉄拳とライダーキックを急所にもろに打ち込まれ、酸欠になりうずくまる。
……くっそ、今日のは特に効くな。
ここ数日、僕に対する警察の監視が弱まるのと反対に彼らに対する尋問が目に増えた。
今までの僕に対する情報を集められるのとはわけが違う。自分たちが疑われていることは賢くない彼らでも分かることだ。
「おい、何とか言えや!」
最近、僕や彼らが警察に目をつけられていること、そして何より僕自身が殺人犯である可能性がすこぶる高いことかえら僕に対するいじめも少なくなっていた。
そして彼らがより警察に目を付けられるようになった今、こういう状況は避けるべきはずだ。実際、いつものいじめメンバーの中でこうやって行動に出ているのは2、3人と他のメンバーは日和見している。
今、殴るけるの暴行をしているのは鷹見瑛人。
「こんな時までだんまりかよ。終わってんなあ!?」
喋りたくても喋れないんだよ。それに僕が終わっていることなんて僕が一番よく分かっている。今更だ。
何を焦っているんだ?
そんな風に挑発でも出来たらこの胸のつっかえも少しは解消されるだろうか。
「何を焦っているんだって言いたそうな目だな!?」
よく理解している。言葉を持たない僕の言いたいことを過不足なく理解できる彼らとは皮肉にも奇妙な友情を感じる。
「その目だ。いつもいつも痛くないのか?」
痛いに決まっているだろう。殴る鷹見の手の方が赤くなっている。その拳を急所にもろに喰らって立てすらしないのに。
「いや痛いんだろうけどさ、どんなに痛い目にあわせようとも一度たりとも恐怖を感じた様子はなかった」
お前たちとは生きてきた濃度が違うんだ。片親、弛んだ体で男遊びする母親。保育園、小学校、中学校、高校と全ていじめられてきた不幸のエリートだぞ。
心は既に壊死している。特に自らに降りかかる不幸を甘んじる負け犬精神性は僕を構成する第一のファクターだ。
「本当にお前は腹の立つやつだ。てめえみたいな搾取されることだけが能の、搾りかすが自分の身の程を恨むくらいの感情を見せやがれ!」
僕は社会というワインを満たすための限界まで絞られるブドウだ。酸味のある社会底辺は絞られてこそ、その価値が深まる。
「だから何とか喋ったらどうだ!?」
見上げる僕の顔の鼻ど真ん中に強烈なストレートを加えられる。ぽたぽたと衂が垂れ出てくる。咄嗟に手で鼻を覆うが掬えなかった衂が教室の汚い床に赤い花の染みを作る。
鷹見に顔を背け、必死に衂を抑えようとする僕だが、肩を引っ張られ向き合わせられる。押し倒され、右腕を踏みつけられた後、マウントを取り殴られそうになった時、意外な人物に助けられた。
「やりすぎだ! 殺す気か!?」
「お前には関係ない!」
そう言って振り払おうとする鷹見だが、最初に止めた佐藤だけじゃない、日和見していた他のメンバーも止めに入った。
「関係ないわけないだろ。お前に勝手されると俺たちまで目立つ。それに……」
それに「逆上されて殺されたらどうする? 第二の被害者になりたいのか?」かな。
鷹見のこの焦り様、あれに気づいたか。今は亡き、彼らのリーダーの殺害に使用した縄があんたの倉庫から出てきたことに。




