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part12

「遅い」

廊下を早歩きまでして急いできた私達を一瞥しての、労いの言葉なしに第一声がそれとはこの部活はブラックそのものである。

「まあ、いいわ。それで玖音何か進展があったのでしょう?」

昨日に兄から聞かされた内容は触りだけだが、既に真昼に話してあった。それで内容を整理するために私たちを招集したのだろう。

「既に伝えていたとおり、石上拓也に聞いていたアリバイが成立しました」

「それは確かなことなの? 絶対に覆せないアリバイ?」

絶対にと問われれば微妙なところだと兄も言っていた。バイクや車を利用していれば死亡時間にギリ間に合うかもしれないといったところだ。

しかし、車は選択肢としては限りなく低い。理由は車が通れるほどの道には監視カメラが設置されている。その大通りにはそれらしい影はない。バイクなら監視カメラのついていない小道を選んで通れるかもしれない。しかし、監視カメラのついていない道を迂回迂回していたとすれば、確実に間に合わない時間帯であることも確か。

「アリバイを崩すのは難しいですね。死亡時刻トリックにアプローチをかける方が現実的ですかね」

「色々と監視や制約の多い高校生に出来て、足のつきそうにないトリック。玖音の経験からして何が思いつく?」

「そうですね。そこまで条件が厳しくなると何があるか……」

葵の問いに何があるのかと思案してみても、それらしいものは見当たらない。皆で数分、言葉を交わさずに思考していた。その沈黙を破ったのは真昼である。

「というかさあ、アリバイだとか、死亡時間トリックとかこの場合、ナンセンスじゃない?」

「というと?」

「共犯者いるんじゃない?」

「共犯者ですか……」

正直、それが一番可能性が高いと感じているのは事実であった。石上をデコイと仮定するなら、死亡時間だとか面倒くさい項目をすべて無かったことに出来てしまう。

「荒波、石上両者共々、高校ではいじめられていて交友関係など皆無なのですが、洗いなおしますか?」

私の提案にいいやと真昼は首を横に振る。

「そんなことしなくとも、動機がありそうで、深い交友関係もある生徒なんて沢山いるじゃない」

「……たくさん?」

葵が疑問符を浮かべる。確かに動機が存在し、かつ交友関係もある生徒がそれもたくさんいるとするのなら、今度こそ面倒なアリバイをすべて吹っ飛ばせる。

「交友関係とは言えないかもしれないけれどね」

今の言葉、なるほど、真昼の言いたいことは大体わかった。流石は真昼、よく思いつく。

「内部分裂ってとこじゃない?」

「内部分裂? そういうことか!」

内部分裂という真昼の言葉にやっとこさ、葵も言いたいことを理解したようだ。

「組織犯ということか? いじめっ子同士もきっと一枚岩でもない。最も動機のありそうな石上にデコイを任せて自分たちで殺害した。それなら、被害者をトイレなんて辺鄙な場所に連れ込むことも容易だ。すべての問題が解決してる! 流石、真昼。性格の悪いことを考えさせたら右に出る者はいないな」

「泣かすわよ」

葵は屈託のない笑顔で真昼を褒める? 性格が悪いというのは完全に本心なのだろう。

「というか、私達は逆だと思っているけどね。ね、玖音」

「そうですね。石上本人が扇動していると私は感じています。作戦自体は石上からなのではと」

そうでもないとあの病んだ犯罪者特有の風格は出ないだろう。

「いじめられっ子が裏で糸を引いて内部分裂を扇動する。くぅ~、なんてわくわくする事件なんでしょう」

真昼はけらけらと噛みしめるように笑う。まるで中年が仕事終わりに駆け付け一杯するかのようであった。邪悪過ぎないだろうか。

「確か前にそのいじめっ子の一人と会ったよな? あれは僕たちの動向を確認するためだった?」

あれが演技だったとは考えにくいことだが、可能性としては十分にある。しかし、あんなポンコツ高校にきちんと動ける人材がそういくらもいるとは到底思えなかったのだが。

「可能性は十二分に」

「そういうことがあったのね。というか誘いなさいよ、私も。責めはしないけど」

なんだかんだ言って休日の真昼はお家の事情で忙しそうにしている。その代わりと言ってはなんだが、平日であれば真昼と会いたければ、基本この部室に来れば会える。なぜか、いつのいつでも部室にいる。本当になぜか授業中でも大体いる。移動授業でここを通るとき、何故かいつもいる。

「ふふっ、本当に楽しくなってきたかも。いつになく頭が冴えてる気がする」

片目を伏し、この状況を心底楽しそうにせせら笑う。

「あんまり楽しむのもどうかと思いますよ。返り討ちにされるかも」

こうやって危ない事件に首を突っ込んで命が危うくなったこと、一度や二度はある。

「そんなことより、本当に原因が内部分裂だとしたらヤバいんじゃないか?」

「なぜ?」

焦る葵の言葉に真昼は疑問を示す。

「動機が本当に内部分裂だとしたらこれで終わるのか? ひとりひとりと疑心暗鬼に陥った奴らが殺しあうのかもしれない」

「それはそれで好都合……、いや流石にそれを看過をしてはいけないわね」

好都合と言ってのけようとした真昼であるが、流石にみすみす人死にをだすのは気が引けるらしい。

「可能性はありますね。ただそれは動機が内部分裂だという前提ありきですが」

「違うのか? 僕としてはもうこれしかないだろってくらいピッタリはまった感覚があるんだが」

確かに内部分裂が一番可能性が高そうだと私もそう思う。石上はまず間違いなく事件に関与している。そしてその動機も荒波晴馬の件からに対する憤りであるだろう。ここまでは間違いないはずだ。

そしてこの状況、本当に他のいじめっ子を扇動して組んでいたのだとして、そしてまだ復讐が終わってなかったとしていたら何故、自爆しないのか。自首してしまえば実行犯であろういじめっ子達の人生は終わる。そうしないのは葵の言った通り、一人ずつ殺したいから。そうなのかもしれない。

しかし、もう一つの可能性も考えられる。しないのではなく、出来ないのではないかと。出来ない理由は当然、彼らがまるっきり白であるから。

「もし、実行犯がいじめっ子の連中だとしたら、自首すれば良くないですか? 彼が自身の保身を考えるようなタイプには見えませんでした」

「だ~か~ら、葵の言ったようにまだまだ殺したりないんじゃない? シンプルに保身のためという可能性もあるし」

真昼も葵と同様に動機は内部分裂で石上卓也はデコイでしかないと判断しているようだ。

「まあまあ、真昼。玖音には何か考えがあるんだろう。僕らのようなパンピーが、視点を凝り固まらせたところで何も出来ないよ。話を聞こう」

コツコツと机を指で鳴らす真昼を葵はなだめる。

「真昼はきっと、これからいじめっ子達を中心に捜査をしようと考えてますよね?」

「そうね。石上の鉄面皮を剝がすのは苦労しそうだし」

「彼らが黒であろうと白であろうと証拠は押収される可能性が高い。言い換えればそれがタイムリミット。警察も馬鹿じゃない。石上へのアプローチが上手くいかないのなら、私達と同じ結論に辿り着く。もしかしたらすでに辿り着いているかもしれない。なら、別に私たちが捜査する必要はないでしょう。それはタイムリミットを縮める行為になる」

今回の場合、ホワイダニットとフーダニットは明確である。犯行動機は友人を殺されたことによる怨恨、そしてその犯行をいじめっ子らに被らせること。フーダニットはまあ石上は関与しているだろう。つまり、ハウダニットさえわかれば良いのだが。

「随分、石上を買っているのね。みながみな、あなたのように深慮に生きているわけじゃない。私も葵も、あなたに比べたら大したものは頭の中に入っていない。深読みしすぎると自分に縛られているかもしれないわよ」

そうかもしれないとそう思った。

私はこの事件の犯人が石上であると確信しているのだろうか。彼の目は私の良くみてきたそれとよく似ている。殺したくて殺したわけじゃない殺人犯の目はあんな風に自虐的に笑っている。

「買っているというか、見ていられないんですよ。自首をすることは自殺することより難しい。介錯が必要なんですよ。加害者側にも」

こんな感傷を捜査に持ち込むのはいつからだったろうか、昔は動機を重要視しなかったように思う。人の心の微かな機微を推理に取り込むのは苦手だった。

「好い表現だね、介錯っていうのは。どんな理由があろうと加害者を許してはならない。同情することさえも避けるべきっていうのは日本の風潮だけれど、僕は良い考え方だと思うよ」


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