まずは一試合
テルソリアの打ち上げた火花を合図に散らばっていた騎士や忍たちが動き始める。
街を支配している魔獣たちはゴブリンやオーク、コボルトといったゲームなどでも下級の魔物として扱われているものや、オーガやトロール、ゴーレムといったそこそこ強いイメージのある大型の魔獣などがいる。
中でも目を引くのはユニコーンやペガサスなどの一見おとなしそうな生き物。
種類も西洋のイメージのある魔獣から、鵺や河童といった東洋の魔獣まで様々な種類の魔獣が街中を歩いているた。
しかし、そのどれもが共通して持っている特徴、胸にまぶしく輝く宝石が埋め込まれているということだ。
それはその生き物たちが魔族ではなく魔獣であることを示している。
「僕たちはまっすぐ王城へと向かう。もちろん邪魔になる魔獣は殺してしまって構わない。ただしけがはしないようにね。僕たちに課せられている任務は王城の奪還であって魔獣の殲滅じゃないから、それだけはくれぐれも忘れないように」
真剣な表情をするテルソリアが自分以外の九人と顔を合わせ、最終確認をする。
「あー今聞くのもあれなんだけどよ、俺そこの騎士二人の名前知らないから一応自己紹介してくれるとありがたいんだが」
水無月がリルレット、カルステアと共にいる見覚えのない騎士の名前を聞く。
それに対し騎士二人は短く名乗った。
「グレアです。今回はともに頑張りましょう」
「ソルです。うちの騎士団長をよろしくお願いしますね」
二人とも見た目は若く、精々二十代半ぐらいといったところだ。
周りと同じ騎士服を着ており、その腰には片手剣が携えられている。
「水無月です、よろしくお願いします」
穏やかな二人の空気に飲まれ、水無月の声もどことなく優しくなる。
「これで自己紹介は終わったね。今度こそ行くよ」
「おう」
このやり取りの間にも他の騎士や忍は魔獣の掃除を進めていたが、王城へと続く大通りにはいまだ多種多様な魔獣がうろついている。
「そういやなんでこの大通りへの立ち入りを禁止したんだ?」
「うん?ああ、それは簡単なことだよ。見てて」
まだラオべインが合流していなかった頃、テルソリアが今回の奪還戦に参加する全員に対して言っていたことを思い出し、なんとなく質問する。
いかに最強と呼ばれていてもさすがにこの量は無理があると水無月は思ったようだ。
だが、そんな水無月の心配もテルソリアは全く気にしていない。
それどころか率先して一歩前へと出た。
「下がっててくれよ」
なにをするつもりか、鞘から漆黒の木刀を取り出し水無月たちへと注意喚起した。
その後、左足を大きく後ろに下げ剣を構える。
「なあ、何やる気なんだ?」
テルソリアの剣と魔獣との距離はまだ遠く開いている。
それなのに剣を構えた動きに、水無月は純粋な疑問の声を上げるがその声はエルソリアには届いていないようだ。
代わりにカルステアが答える。
「もう少し下がってた方がいいよー!」
やけに遠くから聞こえる声に、水無月は振り向いた。
すると、さきほどまで自分とほとんど変わらない位置にいたはずの八人がいつのまにか十メートル以上離れた場所からテルソリアと水無月を眺めている。
その対応に、何かを察した水無月はすぐさまそこから離れようとしたが、もう遅かった。
テルソリアから大きな深呼吸が聞こえてくる。
そして、次の瞬間には水無月は砂埃とともに吹き飛ばされることとなった。
「えっほえっほえほ、……ぺっぺっ、うええ口じゃりじゃりする」
大きく吹き飛ばされた水無月だったが大した怪我もすることなく立ち上がる。
とっさに受け身をとったようだ。
口の中に入り込んだ砂を吐き出しながら服に付着した砂を払う。
「てか何事だよ」
宙に舞っていた砂埃が地に落ちはじめ、当たりの景色がシルエットでわかるようになった頃。
水無月があたりを見回し近くにいたはずのテルソリアを探す。
「大丈夫水無月?」
横に広い体型、自分よりも少し背の高いシルエットが水無月の前に現れる。
声質からして日下部であることが分かった。
どうやらかなりの距離飛ばされたようだ。
その証拠にテルソリア以外の仲間たちが続々とその姿を露わにしていく。
「ちょっとビビったが俺は大丈夫だ」
「すごい驚いたんだよ?まさか僕たちよりも後ろの方に飛んでいくとは思わなかったんだから」
「俺そんなに吹っ飛んだのか」
舞っていた砂埃は地に落ち、当たりの風景が明徴に把握できるようになっていた。
そして水無月は驚く。
自分がもといた場所からかなり離れた場所に吹き飛ばされていたことに。
「日下部、これ何があったんだ」
「あれ見たらなんとなくわかるんじゃない?」
日下部の指さす方、水無月が逃げる直前になんとなく察していた光景が広がっていた。
そこには剣を鞘に納めたテルソリアと一切の魔獣がいない王城への大通りがあった。
すなわち、テルソリアはたった一振りで大通りにいた魔獣すべてを払いのけたということだ。
さらに驚くべきことは通りに立っている建物が何一つ崩れていないということ。
これだけの超火力をコントロールしたことに水無月は目を見開いた。
「まじであの人なんなんだ」
「何度も聞いてきただろ」
日下部は一拍置いて、
「世界最強の騎士だって」
その言葉の重みが何をあらわしていたのか、水無月はその身をもって体感することとなった。
その肩書に見合う実力が、才能がテルソリアに十分に備わっていると。
「さて、すっきりしたし行こうか」
強大な一撃を放ったにもかかわらず疲れた様子を見せずに振り向き話しかけてくるテルソリア。
本当に彼にとってはちょっとした一撃だったのだろう。
「お頭はあれまねできるっすか?」
「無茶言うんじゃねえ、さすがにありゃあ俺にもできねえよ」
「やっぱそうっすよね」
できてしまわれては困るといった感じでリヒットが安堵の息をこぼす。
「僕たちももっと鍛錬しないといけないね」
「さすがにあれは無理なんじゃないかなあ」
やる気に満ち溢れているカルステアに対し、リルレットは遠い目をしている。
そして、
「やっぱすごい!かっこよくて強いとかあこがれちゃうなあ」
コレニスはなぜか興奮していた。
その様子は騎士にあこがれを示す男の子のようにも見えるし恋する乙女のようにも見える。
「行くよコレニス、水無月も」
各々感想を口に出しながらすっきりとした大通りを先行していくテルソリアについていく。
だが、王城の屋根に住まう三体の魔龍はまだその場にとどまって街を見下ろしている。
「うーん、これだけやってまだ動かないか」
微動だにしない遠くの魔龍をテルソリアをその赤い瞳に映す。
テルソリア自身も先の一撃は自身のあるものだったのか魔龍がノーリアクションであることに少し凹んでいる様子だ。
一行はすでに王城まで後半分といった距離まで進んでいる。
ここまで何もなく、魔龍の動きも全くない。
何もなさすぎて緊張感が抜けたのか水無月がテルソリアに質問を飛ばす。
「魔龍が全く動こうとしないんだがどうする気なんだ?あそこにいても倒せるもんなの?」
「流石にあそこにいられると僕も困るね、宙に浮いている間は無防備だから」
高さ数十メートルはあるであろう王城の屋根に、跳んで乗ろうとする発言に水無月はもう驚かない。
感覚が麻痺してきたのだ。
「そう気にすんな坊主、俺ならどこにいようが関係ねえからよ」
テルソリアと並走してた水無月の背後から、ラオベインの声がする。
その声には水無月と同じく緊張感はない。
それはテルソリアも同じだったのだが。
「もう少し集中していただけませんか団長」
「遊びじゃないんっすよお頭」
二人の部下であるカルステアとリヒットが互いの上司に対し、忠告をする。
だが二人とも諦めた様子なのではなから聞いてくれるとは思っていないのだろう。
「俺っちちょっと緊張してきたな」
「僕もだよコレニス」
水無月側の陣営は仕事で来ているという自覚があるからか、失敗できない責任に襲われている。
水無月は知らないが相当の報酬をもらっているのだろうか。
「待ってみんな!魔龍が、一体いないよ!」
リルレットのその声に、その場にいた全員が王城へと目を向ける。
その言葉通り、先ほどまで三体いたはずの魔龍が二体に減っていた。
誰もが注意を払っていた魔龍の姿が消えていたことに、全員が違和感を抱く。
「みんな!周りに警戒を!」
テルソリアの掛け声に、一旦疑問を頭の隅に追いやって全員が周囲を見渡せるように背中合わせに円を作る。
━━どこにもいない⁉︎
真っ先に上空へと目を向けた水無月。
だが、そこに魔龍に姿はなく、すぐさま街中へと視線を向ける。
あたりを何度も見回すが魔龍の巨体は視界の中に入ることはなかった。
隠せるはずもない巨躯が一瞬にして消えた事実に、水無月は薄気味悪い恐怖を感じる。
その直後、円陣を作ったその中心に何かが落ちてきた。
その衝撃は凄まじく全員が吹き飛ばされることとなった。
「グワァァァァァアアアアア」
大きく舞った砂埃。
だが、それを起こした本人が咆哮を上げて吹き飛ばす。
砂埃の中から姿を現したのは、大きな翼と長く太い尾を持ちその全身を暗い緑で覆った魔龍だった。
「魔龍……」
誰が呟いたのか、それともその場いいた全員か。
何はともあれその魔龍は水無月たちに初手の攻撃を撃たせないことには成功したのだ。
すなわち、魔龍はその絶大な力を誰からの邪魔も受けずに全力で出すことができたのだ。
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全然上達しねえ




