他人の気持ちを推察せよ
お読み頂き有り難う御座います。
「んーダメだな。あの選民思想令嬢、滅茶苦茶切り棄て用の手足だわ」
「ああ、ファニー・ラシェマの事?人を虐げて贅沢する頭しか無いんだから、そりゃ有益な情報収集には無理よ。
何なの?未だ始末していなかったのね?グズね」
気を遣う必要もないので物騒なミューンの発言に、ジュランは肩を竦める。だが、諌める訳ではない。
此処は裏稼業ネットワーク。ミューンは王宮からの帰り、情報収集と八つ当たりの為に此処を訪れていた。
「ヒデーな。そりゃしてないよー。借金返済して貰わねーとね?」
「へー、あれに返せる額なの?意外と端金しか借りてないのね、意外だわ」
裏の賭博場は表よりもかなり緩そうに見せかけてお金の動きが徹底されているらしいのだ。だから、かなり借りていると思っていたのだが。
何せ彼女がハマっていた裏の賭博場はかなり危険な場所だ。借金を負って無傷で逃れた者はひとりも居ないのが売りらしい。大概の者が一年経たない内に土の下か海の底か空へ浮かぶ煙となって消えている。例外は今の所ゼロらしい。
「世の中には色んなニーズが有るからねー。高飛車系未亡人の鼻をへし折りたい嗜好とかをお金で解決したいタイプにモテそう」
「ああ、そういう系」
どうやらファニー・ラシェマは法で裁かれず、裏稼業での借金返済に従事するようだ。
表と裏のお話合いは兄弟間で済ませたらしい。その辺は便利ね、とミューンは思った。
「ラシェマ厚生大臣閣下は、電撃結婚なさった長女スワニー嬢の……いえスワニー・ポシャッテ夫人が可愛らしい双子のお子さまに恵まれたばかりだものね。次女のサマーサ嬢は夭折されておられるし……」
「そーそー。スワニー嬢が婿取ってラシェマ伯爵家安泰!だと思ってた跡継ぎ問題が急に崖っぷちだからねー。
兄貴が昨日会ったらしーけど、正に愛憎の間ってゆーか、憎しみガチ!ゲッソリ!な感じだってさー」
「まあ、そうなの。流石お身内にダダ甘い大臣らしく無いお振る舞いね」
「身内にダダ甘なドレッダ侯爵家に言われたかねーだろーな」
ミューンの家こそ身内にダダ甘いのは、貴族の中での常識であった。其処を知らないと物凄く大変な目に遭うのは処世術で暗黙の了解だ。
「文言どうしようかしら……。来たれ!猛者!覇者求む!とか?」
「……何それ。道場破りでも招きてーの?」
「何でよ!気概の有ってゲテモノが大丈夫で気弱な気性を包み込める女性を探してるの!!」
「ピンポイントだなー。
何?魔獣子爵の嫁でも探してんの?緑青銅?菫鉛?黄金と錆銀はご婦人……。真朱鉄と墨錫は5歳児と赤ん坊だよなー。ちょーっと早くね?」
「ちょっと待って。何でアンタそんな詳しいのよ」
ミューンはスラスラと魔獣子爵について述べるジュランに吃驚した。しかも何だか聞いた家の数よりも多い。
そもそも幼児や赤ん坊を当主にしていいのだろうか。無いではないが、少数の筈だ。余所の家の事情や噂好きな貴族の事、絶対に話題になっている筈なのに。
「俺、そんな物知らずに見える?裏稼業ネットワークの長なんだけどな」
「貴族を纏める宰相の癖にアンタの兄は全く知らなかったわよ」
「宰相の仕事は年鑑の管理じゃねーからね」
それでも知らないのは問題では無いだろうか。怠慢ねとミューンは貴族に詳しいと自負する自分の事を棚に上げてイラッとした。
「で、何処なのかなー?」
「緑青銅のヌメドー子爵家よ」
「ほー。嫁探ししてんのって、キャレルくん?」
「無駄に詳しいわね本当……。どんな悪事に使われるのかしら」
「あの子はムズいよねー。好みのタイプとか聞いたの?」
「好みのタイプ……?集めてから選んで貰えば良くないかしら?」
金銭に糸目は付けないと書かれた御触書を出せば、山とご婦人が集まるのでは?と思ったミューンは首を傾げた。
「あからさまな金目的かマニアックな性的嗜好の持ち主って、選べる程集まるかもだけどね?
今までの魔獣子爵の奥さんの傾向から言って、そーゆー子は好みじゃないよ」
「……そう、かしら」
「女性の子爵はマニアックな男に妥協する傾向みたいだけどねー」
困った事を聞いてしまった。
「ミューンちゃんだって『貴女の金と容姿が目的です!その体でマニアックな色々をさせてください』って奴がやって来たらどーよ」
「鉄籠に詰めて領地で二年程吹き晒すわ」
「他人の気持ちを考えないとねー」
「……つまり、金銭目的でなくて純粋に正体を受け入れてくれるご婦人が必要って事なの!?」
「そゆこと」
「……どうしましょう」
「いやどーしましょうも何も……。剣歯虎くんの事になるとイカれてんねミューンちゃん」
「イカれたら悪い!?」
何時ものジュランの言い種にミューンはブチギレそうになる。だが、何時もブチギレているので通常通りだった。
「そうよイカれるわよ!!ああ愛しいフリック!!今だって、私の胸は張り裂けそうで、旧王国水道に飛び込みたい位なのよ!?」
「その運動神経じゃー3分経たず溺れて死ぬしなー」
「煩い!」
「しかし死なれちゃ目覚めが悪いなー。そーだ、修道院はどーかな?」
「は?」
何故修道院が出てくるのだろう。
あそこには適齢期のご婦人所か、子供しかいないのだが。
「卒業生でもいーけど、基本獣人は年齢差気にしないよ?剣歯虎くんのお世話になった所、結構獣人率高えんでしょ?緑青銅のヌチャヌチャよりも凶悪な見た目の獣人に慣れてる子多いんじゃ……」
ゴンッ!ガッ!ズベッ!
「痛っ!!何でこんな所に壺が置いてあるのよ躓くでしょうが!!」
「お嬢様!!お怪我は!?」
言いきる前に飛び出そうとしたミューンが、棚にぶつかり壺をひっくり返して落として蹴飛ばしたようだ。中身がカラだから良かったものの、優雅さの欠片もない幼馴染みの振る舞いに、ジュランは遠い目になった。
「……いや、その壺弁償しろよ……」
「シスターアルベリーヌに連絡して!!今からお伺いするわ!!」
「壺……」
「後にして頂戴!!請求書を回して!!」
「うわ、迷惑な幼馴染み……」
嵐の如く去ってしまった迷惑な幼馴染みとその護衛に辟易して、ジュランは箒を取りに行った。
彼女の気持ちは分からなくもなかったので、今回は勘弁してやることにする。
「悪いが、もーちょい待ってな……。翼竜ちゃん」
魔獣子爵は総じて大きくて恐ろしい見た目ですが、大きさは違えど他の獣人や幻獣人にも色んな見た目の人が居ります。




