王宮での尋門
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ミューンのフットワークは軽いです。
「さ、宰相閣下!ドレッダ侯爵令嬢がお見えです!」
「ホホホ!神妙になさいコンラッド!!」
「やあミューン。先触れと共にやってくるのよくないよ」
「他人んちの馬車に潜む男に言われたくないわ!!」
ジュランを見送った後、ミューンは王宮へと足を運んでいた。
慌てる先触れを無視……は出来なかったので、宰相の執務室の扉が恭しく開けられたのと同時に、一緒に中へ滑り込む。
「マナーはどうしたのかね。ああ、君。ドレッダ侯爵令嬢にお茶を」
「は、はい……」
コンラッドは、叱責を恐れてビクビクする先触れの使用人にお茶の用意を申し付けける。そして、勝手に椅子に座り上品ながらも偉そうにふんぞり返る幼馴染みに向き直った。
「いやあ、まさかのまさか。他国の公爵家が誘拐を企てるとはね。我が国も物騒なことだ」
「よく言うわ。領空侵犯が何度も発生してたじゃないの。アンタ、爬虫類の子に嘘を吐いてるものね」
「ほほう?何の事かな?」
しらばっくれるコンラッドをミューンは睨む。
「エセテ公爵家現当主、マーフィス・エセテ。ペガサスの獣人なんだったかしら。まさかアンタ、馬繋がりで庇っているの?」
「系統が違うから親戚ではないし、普通にあの男は嫌いだよ。叩き潰したいとは思っているが……小賢しく飛び回る相手は普通に厄介だからねえ」
「でっかい網でも張りなさいよしゃらくさい。アンタ、もしかしなくともジュランに押し付けたわね。何て悪どい人でなし馬なの」
「酷いね!?ジュランが動いてくれると非常に楽なのは事実だが、この私が可愛い弟にそんな非道な事をすると!?」
「今現在、殴り込みに行ったのはジュランよ」
「結果的にはそうなったがね」
いけしゃあしゃあと宣うコンラッドに肘鉄をお見舞いしたくなったミューンだったが、今日のドレスには何も仕込んでいないので止めておいた。
「ジュランも素直じゃないからねえ」
「アンタら兄弟が素直だと気持ち悪いだけよ。心の底からどうでもいいわ。
それよりも」
「ああ、ちゃーんとご招待しているよ。地下牢をお勧めしたかったんだが、あの階段層が全てにおいて面倒だしね。
其所の続き扉の部屋ならまあ、清掃のメイドに特別料金位でいいかと」
「要するに地下牢だと手続きと手間が面倒だから、隣の嵌め殺しの部屋を簡易牢にしただけでしょ。話が長いのよ」
「様式美と言うものだよ」
呆れるミューンに苦笑して、よいしょ、と豪華な椅子からコンラッドが、立ち上がった。
そして、控えていた使用人に扉を開けさせる。
中には。
猿轡を噛まされたひとりの中年の男。
靴墨や何かで薄汚れた仕事着のままだったが、優男だった。昔はさぞ女にモテたらしいが、その緑色の目は虚ろな光に満ちていた。
「改めまして今日は、モガル魔術学校卒業生カーデン・エジス。私はコンラッド・リオネス。宰相さ」
「もが……」
「私はそこのコンラッドの幼馴染みよ。お前が私の名を知らなくて良いわ」
「……そのような言い方は止めてほしいねミューン。悪役のようではないか」
「この男に名乗るような安い名前じゃ無いのよ」
「も、もが……ムグ」
コンラッドは控えていた背後の護衛に彼の猿轡を外すよう促すと、男は捲し立てた。
「アンタらが何者か知らないが、犯罪だぞ!?」
「あら、偉そうに。無許可で持ち出した魔獣の死骸の剥製を飾るのも、犯罪よね」
「!!」
「そもそも、王宮に呼ばれる時点で大事だからねえ。後ろ暗い過去をお持ちの君だろう?
まさか、お褒めの言葉と報奨を期待して?小悪党の君がノコノコ来る方がおかしくないかね?
お城は小悪党を褒めてあげる所じゃ無いんだよ」
「……小悪党!?何だと!?俺は、俺は真面目に真っ当に生きてる!」
「そうかね?それは失礼。
冒険者ネットワーク酒場から永久追放を喰らっている真っ当な者は、数少ないからねえ」
カーデンは息を飲んで顔色を変えた。恐怖を隠そうともしない、単純な男らしい。
魔導師を目指していたのなら、ポーカーフェイスが必要だろうに、とミューンは思った。
「研究所に飼われていた魔獣の死骸は、然るべき場所で処理されるからねえ。
ド田舎だろうと、潰れようと」
「知らない筈無いわよね。アルバイトでもそういう場面は見たでしょうし」
「ヒッ」
意味深に笑うミューンとコンラッドに恐怖を感じたのか、今更ながらにカーデンはガタガタと震えている。
「アンタらは……しがない靴屋の俺を、俺を……た、逮捕でもしに来たのか?ご、ごごご拷問か?こ、こんな大掛かりな事迄して……」
「とんでもない、誤解だよ」
優しく穏やかに、女の子をキャーキャー言わせてきた微笑みをコンラッドは浮かべる。
あ、この嫌味な微笑み方は相手を落胆させるヤツだわ、とミューンは幼馴染みの勘で感じ取った。因みにミューンには向けられないし、仮に向けられても全く効かない。
「欲しい情報をくれるまで、手を替え品を替え質問し続けるだけさ」
「拷問じゃないかっ!!」
「言えば良いんだよ。簡単なことさ」
「魔獣を研究して、曾ての想いびと……ポポピー・ズズグロを復活させようとしたんだろう?」
見開かれた緑色の目が、答えだった。
「我々にも必要な知識でね。独り占めせず、教えてくれないかな?
態々住み安い故郷から王都に出てくる程、魅力的な手段が此処には溢れているのかね?」
カーデンには元々優秀な魔導師になれる素質は有ったようです。情熱と努力の方向が一般人とかけ離れてしまいましたが。




