剥製と暮らす男の話
お読み頂き有り難う御座います!
誤字報告誠に助かっております!!
家に帰って色々報告を受けるミューンです。
「今日も可愛いなポポピー。艶出しの油を塗ってやろうな……」
それは……靴屋の主人が穏やかな顔で可愛がっているペットに声を掛けている、穏やかな昼下がりに見えた。
愛しそうに声を掛けるそれが……ガラスの目玉を嵌め込まれた物言わぬ剥製でなければ。
「まあ、安物のホラーね」
報告書ののっけから、ミューンは眉根を寄せた。
「そもそもこの男、どっかの地方動物園と靴屋のバイト掛持ちしてた元魔術学院の学生でしょ?何で剥製なんか持ってんのかしら。まさか動物園からパクったの?」
愛好家には悪いが、こんな不気味な剥製を店に飾るような趣味の靴屋には行きたくないなとミューンは思った。
「その動物園……魔獣研究所も経営破綻しておりまして……。ドサクサに紛れて無断で『資料』を持ち出してもバレなかったようですね」
「中々手際の良い泥棒みたいね。いざとなればソレで引っ張って貰おうかしら」
「流石に15年程前では立証が難しそうですね」
「貴方の奥方様にご協力頂くのはどうかしら?」
資料を読んでいた部下の後ろに控え、名指しされたシンは首を捻る。
「え、ええと。お嬢様、僭越ですが」
「何かしら」
「ドロメラは証言は出来るでしょう。ですが、実演しないと誰も信じないのでは?魔獣子爵の能力は派手な割に信憑性が薄いんですよね」
確かに、相手を眷族に変える能力など中々信じがたい。後、実証するにしても『相手』を用意するのが大変だ。納得の出来るワケアリになるだろうし、手続きも煩雑でややこしすぎる。
「……厄介ねえ」
「靴屋の主人の名前はカーデン・エジス。此処から遠く離れた田舎の村の出身ですね。両親は亡く、妻子も無し。ただ、偏屈ですがモテるそうです」
幾ら顔が良くともそんなのに寄る趣味が分からないな、とミューンは思った。
「ふーん。そのカーデンと言う男が持っている『タワシみたいな剥製』が『ポポピー・ズズグロ』の可能性が有るのよね?まあ、動物園には他もいたでしょうし別個体の可能性も有るけど」
アルバイト先から持ち出した恋人の死骸を剥製にして飾る靴屋。
とんだ猟奇的な店だ。
「ズズグロ男爵の証言では分かりませんが、『ポポピー・ズズグロ』は新たな合成種造りのパーツになっている可能性が低いようなので……」
「やはり、当時の関係者及び被害者の話が聞きたいところよねえ……」
フリックと接触した、サクラダイ獣人。
捕らえて尋問するのは簡単だが、どうも最近彼の顔はメメル校に一部知れ渡っているようだ。
裏門でコソコソと商売をしているらしい。
「どうやら、一部の教師と組んで……試験に関する不正に手を貸しているようですね」
「まあ、困るわ。フリックが学ぶのは清く正しく誇り高きメメル校でないと」
ミューンは微笑んだ。
彼女は愛しいフリックの進路妨害を決して許さない。
そして、その頃のメメル校、裏門では。
赤い巻き髪の少女が低木の影に隠れていた。
「うう、何だか頭上でバサバサ羽音がしますわ……!!早くどっか行って……!!」
「なーにしてんの?」
「クケッ!?」
涙で潤んだ黄色の瞳には、斑に光るピンク色の髪が写り込んでいる。
「困ってるんなら助けよーか?」
王都に地方から進出するチェーン店で、雇われでも店長。やり手のようですがワケアリですね……。




